二十九話 鰻重無双?
「助けてください!!鰻が全く売れなかったんです!!」
俺がコンビニに来店すると、いつもやる気の無さそうな青年が切羽詰まったよった形相で詰め寄ってきた。
「...話が分からないので、説明からお願いします」
そう言うと、冷静さを取り戻したのか、青年は愚痴を言うかのように、ことの顛末を話し始めた。
「...というわけなんです」
「なるほど...」
つまり、鰻重を大量に仕入れて、大量に売れ残って、みんなで割り勘して買うという雰囲気になっており、この青年はとても困っていたらしい。
「買わなければいいんじゃないですか?」
「そういうわけにもいかないんですよ」
「まぁ、それもそうか...」
日本人の同調圧力に対する抵抗力はほぼ皆無だといってもいいだろう。それが日本人の美徳とも欠点とも言える。
「何個残っているんですか?」
「50個です」
間髪入れず返ってきた言葉に思わず頬が引きずるっているのを実感する。
「...わかりました。全部買いましょう」
「...マジですか?言っておいてなんですけど、とんでもない金額なりますよ?」
青年は素で焦っていた。たぶん鰻重を一つ買ってもらえればいいと思っていたのだろう。
「しかし、仕入れた人に言っておいてください。次は絶対買わないと。そして無理をする仕入れは店を潰すということも」
根本的解決にならないと分かっていながらも、かごの中に鰻重を入れるだけ入れた。青年も倉庫の中で鰻重を取り出して、レジを通した。
「合計で9万1200円となります」
目眩がした。お金を渡す手が、震えていたのはご愛嬌である。
「ありがとうございました!!!」
俺がコンビニから出るとき、青年の挨拶はいつもとは気迫が違っていた。変に気を使われるようなことがあったら嫌だなと思いながらも、俺は大量のコンビニ袋を抱えながらコンビニから出た。
「さて、この50個どうしようかな...」
そう言って俺は近くにあった石垣に座り込んで、考えた。
子どもたちにあげるにしても数が足りないし...
「リーナさんにあげて、後はどうしようか」
とりあえず、この世界の住民の舌にこの鰻重は合うのかについてリーナさんに検証してもらおう。
「こんにちわー」
「こんにちわー新木さん。今日は依頼はないですけど、どうしたんですか?」
リーナさんは俺がプレゼントした、ボールペンを走らせながら聞いてきた。
「いや、今日はリーナさんに食べてみてほしい食べ物があって」
「え?またですかー」
リーナさんにはどんな食べ物も一度食べてもらって様子を見るということが習慣化しているのだ。この前はパイナップルを食べてもらって、変な顔をされた。舌が痛くなったらしい。
「今回はこれです」
そう言って俺は鰻重を見せた。
「美味しそうな匂いがしますね」
リーナさんはにおいを嗅いだ後、水で手を洗った後スプーンで鰻重をすくって、食べた。
「おいしいですね」
リーナさんは笑顔でそういった。
「そうですか。よかったよかった。」
これなら誰にでも渡すことができそうだ。
「はぁー渡し終わったー疲れたー」
そう言って俺は宿に戻って自分の分の鰻重の蓋を開けた。ミラにもあげようと思ったが、もう既に昼ごはんは食べ終わったと言い受け取ってもらえず結局適当な人にあげてしまった。
「久しぶりに食べたけど、美味しいな鰻って」
もう一度食べたいが生憎コンビニには鰻は土用の丑の日にしか売っていない。
「来年に期待だな」
そう言って俺はベッドに倒れこんだ。なぜか久しぶりに仕事をした気がした。




