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二話 カップラーメンはお湯がないと作れない

「ま、まずは状況確認だな」


 そう言って俺は、俺が出てきたはずのコンビニの入口を探す。


「だよな。ないよな...」


 俺は肩を落とす。周りを見渡しても、木が生い茂っているだけで、コンビニの扉のような無機質な物は見当たらない。

 いわゆる、コレは異世界転移ってやつか?


 自分の立場を整理してみよう

 まず自分の身に起こっているのは異世界転移だ。こういうの、ラノベでよく読んだやつだ。昔は憧れていたやつだ。

 確か...小説によれば異世界に行ったやつはチートな能力が身についているのがパターン(テンプレ)だ。だがしかし俺にチート能力なんて身に付いているのか?

 疑問半分期待半分で、試しに俺は全速力で森を走る。並走するウサギに追い抜かれる。いかにも中年のおっさんといった感じで別に速くなっていない。


「はぁはぁ...」


 息切れで苦しくなったまま、木を全力で殴ってみる。


「痛っ!?」


 思わず声が出る。負傷したのは自分の拳だけ。木は何ら変わらず、悠然とそびえ立っていた。


「なら魔法だ。ファイア!!!」


 むなしく声が森に反響するだけだった。


「くそっ...チート能力なんてないじゃねーか...」


 俺は自分の拳の痛みが収まるまでじっとしていた。今後の生活に不安を抱えながら。



「あー腹へった...」


 そう言って俺はカップラーメンを食べようとカップラーメンの蓋を開けようとする。


「あっ、お湯」


 俺は今手元にお湯が無いことに気が付いて渋々カップラーメンをレジ袋に投げ込む。


「うーん、なんかなかったかなー」


 そういいながら俺はゴソゴソと自分のミニバッグに今なにか食べられる食料がなかったか漁る。食べられるのはマンゴープリンくらいか。


「なんだこれ?」


 財布の中身に見覚えないものが入っていた。銀色の硬貨のようなものが三枚ある。しかし100円玉とかとは違ってズッシリ重さがある。しかも財布に入っていたはずの三万円弱のお金が消失しているのだ。


「...三万円がこの銀貨に変換されたのか?」


 そう考えていると、森の向こうからガサゴソと物音が聞こえる。


「なんだ?」


 振り返ると、そこには緑色の何かがいた。そいつは二足歩行しており、手元には木で作られたであろうこん棒を携えていた。


「ギャァ!!!!」


 目が合う。目の前には緑色のなにかが俺を睨み付ける。口元は緩んでおり、ニヤニヤ笑っているようにも見える。


「こ、これって...ゴブリン?」


 あまりの突然の出来事に頭がついていかない。緑色のなにかは日本では絶対に見られない。生理的に受け付けない臭いと見た目である。額に冷たい汗が流れる。


「く、くるなよ・・・」


 言葉をひねり出し、ゆっくりと後退していく。こういったときに目を逸らしてしてはいけない。威嚇してゆっくりと後退する。クマと出会ったときに、無事にやり過ごす方法である。


「ギャャャャ!!!」


 しかしゴブリン(だとおもう)は逃してくれず、棍棒を振りかぶって襲いかかってきた。それをすれすれのところで尻餅を付きながらかわす。


ガン!!


 鈍い音が聞こえる。棍棒を振り下ろされ激突した木をみると、勢いで土ぼこりが立っている。

 これ俺に当たってたらヤバいかったんじゃ・・・

 体が震える。ゴブリンはもう一度振り下ろそうともう一回棍棒を振り上げる。


「これはまずいぞ!!!」


 俺は、全速力で走り出す。

 誰だよゴブリンが雑魚キャラって言ったやつ!!普通につよそうじゃねぇーか!?



「ハッハッハッ...」


 俺は絶賛ゴブリンから逃走中である。幸いゴブリンは足が遅く俺に追いつくことはできないだろう。


 相手が一体だったら自分の見込みは正しかった。


「っ!?」


 しかし逃げた先にはもう一匹ゴブリンがいた。後退しようにも追い掛けてきたゴブリンがいる。


「挟み撃ちかよ!!!くそが!!」


 思わず悪態を吐く。


「「ギャァ!!」」


 そうゴブリンは笑う。笑う姿は気持ち悪く、吐き気がする。

 徐々に俺はゴブリンに追い詰められて行く。

 何でこんな目に会わないといけないんだよ...俺はただコンビニでちょっとした贅沢がしたかっただけなのに!!!

 どんどん距離が詰められていって、あと5歩ほどの距離にゴブリンが迫っていた。


「くそ!!コンビニに戻りたい!!」


 俺がそう言った瞬間、視界が真っ白に染まる。


「...なんだ、これ?」


 俺の目の前に謎の扉が現れた。その扉はこの森には似つかわしくない所謂自動ドアだった。

 ふとゴブリンの方に目を向けると、予想もしていない事態に困惑して身動きがとれずにいた。


「行くしかないか!!」


 俺はゴブリンから逃げ込むために扉に走り出す。扉を押して、扉の向こうに飛び込んだ。


「いらっしゃいませー」


 なんともやる気のない声が俺の耳に届く。扉の向こうを見ても見知らぬ車道があるだけでゴブリンの姿は見えない。


「はぁーよかった...」


 そう言って俺は安堵の溜め息をつく。倒れ込みたい衝動に駆られるが、店の中であることを思い出し、思いとどまる。


「で、ここはどこなんだ」


 俺はそう呟き周りをキョロキョロ見渡す

 ...やはりとても小さいコンビニである。レーソン、ファクトリーマート、エイトイレブンのようなコンビニではない。いわゆる地方のコンビニというやつか?


「しかしまたコンビニの中か...」


安心感に包まれるが今後のことを考える。


「ここ出たらどうなるんだ?」

 俺は少しだけ遠い目をする。あの出口を出たら、またあの世界に行くことになるのだろうか。


「出ていきたくないな...」


 俺はうずくまった。いっそのこと、このコンビニに居座ってやろうかな...


「あの申し訳ありません。」


 俺が声がある方を振り向くとこのコンビニの店員がいた。


「は、はいなんでしょう?」

「この店深夜一時閉店なんですよ。だからもうそろそろお会計していただけないかなっと...」


 ...なんだと!?コンビニの時計を見るとすでに一時を回っていた。

 嘘だろ!?コンビニでも24時間営業してないところってあるのか!?

 あまりのショックに俺は目の前が真っ暗になった。


 失意のまま、俺は食料を買い込んでレジに向かう。


「ありがとうございましたー」


 店員の声を背後に俺は出口を出る。


 もしかしたらこのまま異世界に突入しないかもしれないしな!!まだ希望は捨てないぞ!!



「だよな...」


 俺の目の前にはさっきまでいた森が広がっていた。諦めたのか、もうゴブリンの姿はない。俺は安堵して村を探そうと川を探す。たしか川を辿っていけば村にたどり着くって聞いたことがする。


「...てください!!」


 俺の耳に人の声が届く。

 やった!!人がいるのか!!村まで連れていってもらおう!!

 俺は声がする方に走っていく。そして少しだけ開けた場所があった。


「姫様!!これをお食べください!!」

「いけません!!私たちは全員で生き残るのです!!私だけ生きるなんて出来ません!!」


 思わず足を止め、木の陰に隠れる。

 どうやら食料不足で揉めているらしい。人数は四人。少女三人と背の高い男の人が一人。俺はコンビニ袋の中身を見つめる。


「あの、すいません」


 俺は勇気を振り絞って、少し緊張気味に話しかける。


「誰だ!!貴様!!」


 そう言ってめっちゃ筋肉あるおっさんが刀を抜く。

 おいおい...冗談だろ!!声かけただけで抜刀とか!!どれだけこの世界は殺伐としているんだよ!!


「お、落ち着いてください。俺みたいな貧弱そうな奴があなたたち四人を襲えるわけないでしょ」

「...じゃあなにが目的だ。あいにく食料はないぞ」


 おっさんはとりあえず刀を収め俺に聞いてくる。自分が貧弱という点に納得することに少しだけ苦笑してしまう。


「夜ご飯まだなんで、俺と一緒に食べませんか?」


 そう言って俺はコンビニのレジ袋を手に笑顔を作って言った。



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