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俺の義妹がこんなに可愛いというか

 朝7時。

 登校時間となり、いつものように支度を済ませて靴を履こうとすると、後ろから妹の美奈が抱きついてきた。


「にい様。もうお出かけですか?私を置いてきぼりにしないでくださいよお」

「お、重いよ美奈……」


 俺が苦情を訴えると、美奈は電流で弾かれたように後方へと飛びさがり、よよとそのまま廊下に崩れ落ちた。


「酷い。あんまりです。酷いわ。にい様。」

「馬鹿、こんなことで泣くなよ。大袈裟だな」

「馬鹿……。今度は私を馬鹿呼ばわりですか。可愛い妹に馬鹿。ああ、もう生きているのが嫌になりました。ダメです。もういや。もう、死にたい」


 美奈は体を突っ伏すと、肩を震わせて、もはやこの世に身の置き所もないと言わんばかりにしくしくと泣き始める。こいつが演技だとはわかっている。毎度のことなのに、ついうっかりとよけいなことを言ってしまった。しかし、可愛い妹に泣かれると俺もまた弱い。


「悪かったよ。だから、もう泣くな」

「……ほんとにそう思ってますか」

「うん。ほんとに悪いと思っている」

「それなら……」


 美奈は体を起こして顔をあげ、そっと目を閉じた。

「キスしてください」

「ば、ばか。何言ってんだよ。俺達兄妹だろ」

「妹だろうと、悪いと思うなら、妹が望む行為をするのが当然じゃありませんか。違いません?にい様」

「……」


 美奈が顔を寄せてくる。

 俺は居間にいるはずの母の気配を確かめると、こちらの騒ぎには気がついていない様子で出てこないでいた。俺は美奈の肩に手を添えて、美奈を見つめた。

 美奈は妹。しかしこの場を逃れるには……。

 俺はそっと顔を美奈に近づけ、額に軽く口づけをした。


「……額、ですか」


 不服そうな表情する美奈を無視して、俺は再び靴を履きに戻った。いい加減、もたもたと玄関で時間を潰すわけにもいかない。


「俺はもう行くからな」

「待ってくださいよ。にい様」


 さっさと玄関を出ようとすると、美奈が慌てて追いかけてきた。外に出ると朝の光が街を包み、爽やかな風が俺のそばを通りすぎていく。所々でキラキラと光っているのは、昨晩の雨の名残で、残った滴によって反射した光だ。


「良い天気だなあ」

「そうですね。にい様」


 清涼な初夏の空を仰ぐ俺に、美奈がギュッと腕をつかんで体を寄せてくる。


「おい、歩きにくいだろ。恥ずかしいし。近所の人に見られたらどうすんだ」

「ちょっとの間だけです」

 ふふっ、と笑みを浮かべて見つめる美奈の目は潤んで色気がある。上気した頬が少し赤らんでいる。

 美奈は妹だ。

 ただ、それは戸籍上の妹であって、本当の妹じゃない。いわゆる義妹というやつ。

 美奈の実家は千葉の名家だったのだが、今は没落してしまい、美奈は親戚筋を頼って、俺の家に引き取られてきた。去年のことだ。

 話し方が少し変わっているのは、名家の名残なのかもしれないが、それ以外はいたって普通の女の子である。

 しかし、うちは曾祖父の曾祖父の代――時の当主は忠兵衛国正というらしいが――でわかれた分家で、親戚とはいってもかなり遠い。

 顔も知らない曾祖父の曾祖父の代では、ほとんど他人と変わらないだろう。


 美奈にとっても、そこは俺と同じ感覚なのだろうと思う。

 なぜなら、現ににい様と口では言いながら、いつも俺を見つめる目は、女のそれだからだ。

 いや、うぬぼれとかではなく、過剰なスキンシップを日常的に受けていれば、牛みたいに鈍感なラノベ主人公でも気がつく。美奈は一人の女として俺に接し、俺に触れてくるのだ。


「にい様。今晩はお母様の帰りが遅いそうですよ」

「……」

「これで、夜はふたりきりになりますね」

「……」

「これまでもふたりきりになったことはあったのに、いつもあの女の邪魔が入って……」


 美奈がそこまで言った時だった。

 フワリと何かが空を舞って太陽を隠し、俺が見上げると布きれらしきものが俺の顔を覆った。


「何だ?」


 俺がその布らしきものをとって見ると、赤く小さなリボンがついたピンクのパンティー。美奈も隣で目を丸くして驚いている。

 美奈がいるから良いようなものの、端からみたら下着を手にしている男なんて変質者にしか思えない。

 慌てて周囲を見渡すと、向かいの二階建ての家からドタバタと物凄い音がして、勢いよく玄関の戸が開いて、制服姿の女の子が血相を変えて飛び出してきた。 気がつけば、あいつの家の近くだ。


「古賀巧ィィィッッッ!!」

「あ、安藤雪……」

「返せえ、それぇぇぇ!!」


 ポニーテールをなびかせて、吹き荒れる嵐のように走ってくるのは、幼なじみの安藤雪。

 幼稚園以前から高校になってもずっと一緒で、お互いの家を行き来して遊ぶことも多かった。

 昔からの勝ち気な性格そのままに猛然と迫る安藤に呑まれ、俺が下着を差し出そうとすると、間合いが違ったのか、俺と安藤の腕が交錯し、互いにもつれてドォッと地面に倒れ込んだ。

「きゃっ!」

「うわわっ!」


 俺の体に倒れ込んでくる安藤の背後で、フワリと下着が宙に舞う。

 わずかな風にそよいで空に漂うピンク色の下着が、俺には何故か美しく思えた。



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