第八話 寝坊と勘違い
第八話 「寝坊と勘違い」
早朝。何時もより早く目が覚めた。少し暗い部屋の中には、一つも光は無かった。
ベッドから起き上がり、窓の外を見つめた。
「今日は一段と冷え込むかな...」
窓ガラスは冷えきって指先に痛みを感じる程だ。
自分の姿すら映らないその窓は別の国と繋がる通り道なんじゃないかと思うほどだった。
無造作に椅子に掛けられた制服を手に取り着替えを済ます。
「...よし」
机に置かれた数枚のプリント類をまとめて、一つにする。まだ起きて教室に行くのには、早い時間帯だ。この何もすることが無い時間をどうやって潰そうか悩んでいた。
ギィと音を立てる椅子に腰を掛け、机の上に立掛けられた写真を見つめていた。それに写るのは二人の幼い子供。
何かに怯えてるような表情をした小さな俺と感情を感じられない小さな颯夏。
そして...親代わりの理事長だった。
本当の親じゃないが、肉親のように俺と颯夏を育てた。
写真を横目に、少し重みのある刀を手に取る。
この刀で数え切れない程の命を奪ってきた。守るため。裏切り者を排除するため。
いかなる場合でも...仲間が敵に回るならば直ぐに切り捨てた。
仲間を守るためなら...大切な人を守って行くには。
これが俺の生きるために与えられた試練なら...
「...乗り越えていく...絶対に」
いつの間にか机で寝ていた。部屋には日の光が差し込んでいた。冷えきっていたこの部屋は少し暖かさを帯びていた。
「...あ。」
どうやら書類の上で寝ていたのか、書類の形は崩れてしまった。
―――はぁ...
崩れてしまった書類を半ば強引に手で押し広げていた。 ―――多少はましになった...はず...
まだ崩れたままだったがこれ以上元の形に戻る気配は一つもない。
椅子に座りっぱなしだった体勢を解すように背伸びをする。
―――今何時だ...あ
集合時間五分前の時間を示す時計の針。
それを見ると同時に働く頭と身体。全速力で教室へと足を向けた。
肩から掛けた刀と、多少はましになっただろう書類を持って。
―――バンッ!!
勢いよく開かれたドア。息を整えるように深呼吸をし、顔を上げる。
「...あ...れ?」
...誰も居ない。
働いていた頭は一瞬にして止まった。
取り敢えず中に入り、人が居ないか辺りを見回す。...がやはり誰も居ない。
―――まさか...皆寝坊か...?
いやいや、そんな訳ないだろ。
誰も居ない教室で一人唸りながら考えていた。
―――そういえば...
鳴るはずのチャイムすら鳴っていない。
つまり...
―――見間違えた...のか...
盛大な溜息を漏らし、誰の椅子か分からないが座って机に伏せる。
さっきまでの焦りは無くなり、今は脱力感しかない。
そして...何時の間にかまた目を閉じ眠りに落ちていた。
誰かの気配を感じて。