第五話 臆病
第五話 「臆病」
ひとしきり食事を終えて、自室と入る。この寮の中は、いや寮全体が…とても今この現在の世界の状態では考えられないくらいに、綺麗だった。最近建てられたのか…。それとも、もとあったものを整備し、綺麗にしたのかはわからないが…。
だから、その綺麗さが…生徒ひとりひとりに与えられた部屋の殺風景さを表している。
「…はぁ」
それは、自然と溜め息を誘った。
ベッドに、腰を下ろす。
ーー思えば、私…永守柑奈にとって、自分の住むところがある事自体異質だった。
幼き頃に肉親を失って以来…様々なことをやって、ここまで生き抜いてきたんだ。もちろん、家なんてなくて、風晒しのまま寝ることも多々あった。
「…やめ…」
これ以上過去のことを思い出すのはよそう…。そう決め、デスクの上に置いてある一枚の紙を手に取る。
報告書。…実習の評価書の役割を果たすものだった。
それにかかれている質問は毎回大体似たようなものでーーー主に『殺害』の状況、感想についてだった。
あまり、書きたくはない。…殺害風景を、思い起こさせるから。
しかし書かなくてはならない。義務である。
私は重い筆を動かしながら…同時に考える。
なぜ私はここにいるのか…。
もうここに来て一年。私は現在この養成学校において二年生だった。…雫川も同じく二年生。風堂と芳哉は確か私より年は下のはずだ。また、同じチームメイトである百日紅さんは…ひとつ上の3年生…ゆえに、チームリーダーでもあった。
…もう一年も経つのか、と少し驚く。
1年の頃は実習はあまりしていなかった。どちらかというと私は武器の使い方を学んでいた。
そうして今の木刀に巡り会えたわけだが…。2年になって、実習の回数は少し増えた。
…同時に、人との交流も。
ーーー思えば私はどこか人を信じられない。
何故か…。理由は一つだけ。
裏切られるということが怖いんだ。…私は死にたくない。
死ぬことに恐怖している…そういって、過言じゃないんだ。
「…あぁ…」
もちろん、…そう簡単に人は人を裏切らないということも、この養成学校に入ってから理解していた。でも、やはり怖いのだ。チームメイトのみんなすらも、悪い人じゃないと分かりきっているのに、怖い。
誰も助けてくれない、自分の身は自分で守らねばならない。そんな考えが根付いた世の中だからこそ…。
「……っ」
いつの間にか、私は震えていた。得体のしれない恐怖が私を襲っていた。
ーーーー明日死ぬかもしれない。
明後日死ぬかもしれない。
臆病といってくれて構わないーーー。
…気づけば書き終えていた報告書を机の上に置きっぱなしにしたままーー、私は恐怖に耐えながら、ベッドに寝転んで…気づけば、眠りについていた…。