第四話 感謝
第四話 「感謝」
「お疲れ様、無事でなにより」
笑顔で出迎えたのは百日紅だった。何処か安心させるような、暖かさを与えるような。そんな笑顔だった。
よく見ると手には複数の円柱の形をした物を持っている。
「はい、どうぞ」
この場にいた四人に一つずつ配る。
手渡されたもの、それは温かい物だった。
「璃桜...これは何??」
「缶のお茶だよー」
お腹が空いていた事も含め、少しでもお腹に何かを取り入れたかった。上から見ても下から見ても興味深い物だった。温かいその缶は掌に温もりを与える。何処から熱を発しているのか、とか。
初めて見る容器を何の躊躇いもなく開けようとした。
「...開け方わからない」
私は人生初めてこんな形の缶を触った。この飲み物の形を見ることは今までに何回もあったが、触った事は無かった。無論、開け方は知らない。それを見ていた斗真は苦笑し、私を手伝った。
パンッ
そんな音の発信源は百日紅だった。
「さて、今日の報告をちゃーんとまとめて提出してね」
百日紅は仁王立ちして少し決めたような顔をした。
殺しの実習が終わると毎回報告書を書かなければならない。私にとって一番の難関だった。
「そんな顔しないの」
気づかないうちに自分の顔は気持ちに正直になっていたようだ。「嫌だ」と。
報告をすることは別にいいのだが、字を書く事が苦手だ。親が居ない私に字を教える人なんていなかった。
月日がたって、最近私はまともに書けるようになった位だ。字の書き方を教えてくれたのは斗真だった。本当に感謝してる。
つい最近の過去のことを思い出しているとそれぞれが部屋に戻る準備をしていた。
「颯夏?どうしたの??」
気づけば辺りには斗真しか居なかった。帰ってきていた生徒も今は誰も居らず、何処か寂しさを感じさせられる。
「斗真...感謝...いつもありがと」
そう言って座っていたソファから立ち上がり、身長差を埋めるように背伸びをし、頭を撫でた。
「え?どうしたの」
そう言って笑う斗真。
本当にいつもありがとう。感謝してる。
だから絶対に守るよ。
そう心の中で誓った。前まで守りたい、と思う人なんていなかった。でも今では、斗真も柑奈も雪も璃桜も。
皆みんな、守りたい。
「何でもない」
そう言って小さく笑った。
不思議そうな目で私を見ている斗真は「良く分からないけど、こちらこそ」と私の頭を撫でた。
この人達といると暖かい気持になる。だから好きだ。
「斗真...行こ?」
「お腹すいた」と付け足して言うと「やっぱりか」と笑う斗真。
そして私達はこの場を後にした。