第二話 温もり
第二話「温もり」
冷たい風が吹き抜け頬を掠めていく。
狭い路地裏の角を三つ。進めば進むほど狭くなっていく道を、標的に気づかれないように進み続けていた。
「後少し...か...?」
言葉と白い息。冷たく冷えきった壁と、灯りがなく先の見えない真っ暗なその空間に、小さく呟いた言葉が跳ね返ってくる。
さっきまで隣りを歩いていたパートナーは、いつの間にか居なくなってしまっていた。そんな自由なパートナーを心配しつつ今は標的を追いかけることに専念する。
時折、後ろを振り返る標的だったが、跡をつけられていることに気づくことなく目的地へと案内していく。
───標的。
殺し屋養成学校、生徒に課せられた課題で、殺害する対象の人間を一部の生徒はそう呼んでいる。
養成学校の一員である芳哉 斗真もそう呼んでいた。
気づけば少しの灯りがある場所に着いていた。銃や刀を持った数人の男が会話を始めている。
隠れられそうな少し大きめの木箱の裏に身を隠し、殺害の準備を始め、息を殺し実行のタイミングを見定める。
カチャッ
突然不吉な音が広まる。
「おい!!そこで何してんだッ!!」
──気付かれたッ...!?
標的の言葉とほぼ同時に戦闘態勢に入ろうと背中に背負った刀に手をかけた。
が、それは俺に掛けた言葉じゃなかった。
「...何だコイツ...子供か?」
その言葉に反応しもう一度よく見てみる。そこに立っていたのは、いつの間にか居なくなってしまったパートナーの風堂 颯夏が立っていた。
───颯夏ッ...?!
「おいおい...嬢ちゃん。親は何処かな~?」
殺害する対象の一人が不吉な笑顔を貼り付け、銃を颯夏の頭に向けそう言った。
───殺される。頭の中はそれしか考えつかなかった。
「おじさん...殺害対象物...?」
小さく呟いた颯夏の声は透き通り、響いた。
「はぁ?んだコイツ。気味がわ──...ッ!!!!」
「標的...発見...」
颯夏は発した言葉と同時にしゃがみ込み、標的の足を力一杯に引っ掛け、倒し、首に小刀を突き刺し仕留める。
その時間──約3秒。
返り血の付いた顔は、何時もの颯夏を感じさせなかった。何処か獲物を仕留める獣のような。
身軽な動きを披露した颯夏に気を取られていた他の標的。
「グハッ...!!!!」
そんな間抜けな標的の心臓を貫く。
いつの間にか俺達を囲う壁は血で汚れ、気味の悪い臭を振りまく。この匂いは...嫌いだ。
「颯夏!!...大丈夫だった?」
自由人な颯夏にそう問いかけると無言で頷く。その顔は少し不機嫌そうだった。
「そっか。良かった...!!心配したんだからな?」
「うん...。斗真は...??」
「大丈夫!!...じゃあ、帰ろっか」
そう提案するとまた無言で頷く颯夏。口数が少ない時は何か嫌なことがあったときか
「お腹空いた...?」
お腹が空いている時か、のどちらかだ。ある程度のことは話さなくても分かるようになってきた。
颯夏は不機嫌そうな顔から少し落ち込んだ顔をし、小さく頷く。
「早く帰って温かいものを食べよっか」
そう笑って言うと微笑んで頷く颯夏。
「早く帰る...柑奈に会う...温かいものいっぱい食べる」
嬉しそうに繰り返しそう小さく呟く声を横で聞きながら学校へと足を向けた。
少し前を歩く颯夏。見張ってないとまた何処かに行ってしまいそうだから。
「そういえば...寒くない...??」
体が冷えるような気温ががここ最近続いている。そんな気温なのに、颯夏はほぼ裸足状態で外を歩いている。
これは見ている方が寒いかもしれない。
「...靴...落ち着かない...好きじゃない」
「そっか...やっぱり颯夏って変わり者だね」
驚いたようにバッと振り返る颯夏と顔を見合わせて笑った。
気づけば目の前には大きな寮の扉。
少し重たい扉を少しずつ開いていく。
出迎える暖かい光が二人を包み込んでいった。