陰の精霊使い
「んー、空は青いな」
少年は、黒髪を風に靡かせ、そんな普通であることを言い、森のなかで、仰向けになっていた。背中は、電流が身体を駆け巡ったように痛い。
「何呑気なことを言ってるのよ」
そして、この場には、もう一人、少年と同じ黒髪を靡かせて、少年を見下している少女がいた。
「だから、男は嫌いなのよ、男なんて、男なんて絶滅してればいいのに」
絶滅、それは、人類なんて消えちゃえということとあまり変わらない。少年、夜神 夜光は少女を見て思う。
(あー、こいつ、男嫌いなのかよ、面倒な奴に声をかけてしまったか、ダル)
何故、夜光が仰向けに倒れているのか、それは、夜光が彼女に手を出したからではない。ある、目的地の道を聞こうと、声をかけた時、視界が一変し、夜光は彼女によって倒されていた。
「学園までの道を聞こうとしただけなんだが、ここまでひどいと、こりゃ重症だな、俺の─」
「誰があんたの彼女なのよ。私は、あんたなんかの彼女じゃない。二度と私に話しかけないで」
夜光の言葉を絶ちきり、そう言うと彼女は、走り去った。
「はぁ、彼女とか、そういう甘いもんじゃねぇのにな、面倒になったもんだな。ま、いつか気づくだろ」
そう言うと、夜光もその場から去った。少女の方はというと
(今さっきの男、どこかで………、そんなことより、ここは迷いの森よ、学園は、この森の中心にあるのよ。大丈夫かしら)
彼女は、男嫌いだが、良心的な心配をしているが、そんなを口にするのは、訳があった。
彼女は最初から迷子になってたからだった。そう、彼女は、少し方向音痴なのだ。
そこで、彼女は、道に迷ったときの最終手段に出た。
◇◆◇◆
教室内は、ざわざわと賑やかだったが、SHRが始まり、女性教師が入ってきたことにより、静かになった。
「多分、お前らの中には知っている奴がいるかもしれないが、言わさせてもらう。今日、転校生がこのクラスの一員になる。入れ!」
ドアを開け、入ってきた少年から、どこか寂しい雰囲気を皆が感じ取り、そして沈黙。
しかし、そんな空気は、勢いよくドアが開かれたことによって覆された。そして、そこに立っていた人物は、今朝会った少女だった。
彼女は教室に着くなり、ホッと安心したように一息ついた。
「アタッ!!」
その瞬間、彼女の頭に生徒名簿が飛んできた。
「遅刻はすんなと何回言ったらわかるんだ。これで何回目だとおもっている」
「えーと、10回?」
「はぁ、いつも思っていることだが、お前は可哀想な奴だ。なんでお前は一年生からずっと、約一年間、遅刻してるのに何故そう言い切れる。成績も実力はあるのに勉強が駄目」
「ワーワーワー先生、それ以上は言わないでください。プライバシーの損害です」
夜光は、いつ自己紹介を始められるのかとため息をついたと同時に彼女と目があった。
「あーー!今朝会った痴漢男!!!」
そう言われ、夜光は、顔を傾ける。
今日の朝は、学園の道を聞こうとして、この目の前の少女に声をかけたら、いきなり手首を掴まれて、倒された、ただ、それだけなのだが、何故俺は悪人にされているのかが全く理解できない。
皆、夜光を軽蔑する目で見つめてくる。
あっ!俺の学園生活、終わった。と思ったが、その方が、夜光にとっては好都合で、楽だと考え直した。
夜光は、皆の眼差しを気にせず、自己紹介を始めた。
「夜神 夜光、精霊回路の属性は陰、以上」
なるべく、手短くそして、簡潔に自己紹介をまとめた。
そして、クラス内がざわめきはじめた。
「えっ!精霊回路の属性が陰!」
「陰って言ったら、どの属性よりも劣っているというあの陰?」
「じゃぁ、自分が弱いから芹那に手を出したの!!怖いわー」
皆の考えが弱い者イコール悪人という認識が強くなったようで、次は殺意に似た眼差しが夜光に刺さる。
そんな中、一人の少女が口を開いた。
「兄さん、それだけじゃ誰も兄さんのこと理解してくれないよ」
一瞬の沈黙、そして夜光は、少女を見て驚く。
何故、精霊嫌いの彼女がこのミラセシル学園にいるのか、精霊に襲われたことがトラウマになり、精霊と契約することができなくなった彼女が何故ここにいる。
夜光は彼女が言った言葉に引っかかることがあった。まだ自分には、紹介できることがあるだろうか?
陰は歴史上、他の属性に勝ったことは皆無に等しい。そしてなにより、夜光は平凡な生活ばかり送っていた。つまり、結論づけると、自分を紹介できるところが余りない。
しかし、右側の髪にリボンで縛った夜光の妹らしき少女は、真剣な眼差しで夜光を見た。
「りょ、涼、なんでお前がここに、それより、今の言い方だと、俺の紹介はまだ、足りてないと解釈できるが、どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ兄さん、精霊回路、光属性に遅れを取らない光破りの陰の精霊使いこと、私の兄さん、神城 夜光兄さん」
笑顔でそう言い放った涼、そう、夜光は、神城家の人間でもあった。しかし、陰の精霊と契約してしまったせいで、勘当され、神城家から追放されることにあった。
神城家の家訓、光以外は弱き悪、光を宿すことが、強き正義。
その家訓があったことで、神城家は代々、光の精霊と契約してきた。
しかし、夜光は、夜光だけは、その家訓を違う意味でとらえていた。心が白でなければ、自分が欲するものに手を伸ばし、罪を犯す、心は永久の白であることが、一番の正義である。と、
──現実はそう甘くない。
そう思ったのはいつだったか、あの時、あの日の別れの際、少女が流した涙の意味はどういうことだろうか
「それに、私がここに来た理由は──」
「そろそろ次の話しをしたいんだが、よろしいかな?愛し合う兄妹よ」
「ど、どうぞどうぞ」
教師のグザリアは、苛立ちを剥き出し、問うその顔があまりにも怖く、夜光は、その瞬間、この人だけは、逆らわないようにしようと思った。
夜光は、空いてる席に座り、グザリアは、夜光が席に座ったことを確認すると、話しを続けた。
「今日の一・二時限目は、自習だ、夜光の実力が見たい。相手は……、黒月 芹那でいいな」
グザリアの言葉に朝会った黒髪の少女は、勢いよく立ち上がった。
「わ、私?なんで私?なんで男の相手なんかしないといけないのよ」
「そりゃぁ、お前ら、仲良さそうだからに決まってるからだろ」
彼女が文句を言い始めた。
そして、夜光はというと、
「はぁ………、不幸だ、これはもう、誰かさんのせいだ、誰とは言わんけれど、誰かさんの相手なんて面倒くさい」
夜光の言葉が彼女の間にさわったようで、こめかみに血管がうかんだ。
「め、面倒くさいですって、いい度胸してるじゃない。わかったわ、そこまで言うなら、相手してあげる。絶対に灰にしてやろうじゃない」
ただの面倒くさいの一言で、乗ってきた芹那、一方、夜光は、後頭部をかきながら、しかめっ面をしていた。
「面倒くさ」