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ユリシンクス  作者: みのろう
6/6

霊峰アクセイド山での戦い

 夜が明けた。弘樹は、昨日は良く眠れなかった。理由は簡単で、初めての実戦が待ち構えているからである。

 緊張、不安、恐れ、そのどれもが睡眠を妨げた。

 しかし、時は待ってはくれない。弘樹は、万全の準備を整えるために、装備の点検をはじめた。

 5.56mm自動小銃の弾を点検する。9mm拳銃、コンバットナイフ、10得ナイフ、そして防弾仕様の戦闘服を着込む。

 ここでは、なんとなく手榴弾が欲しい所だが、無いものは仕方が無い。

準備が整ったころ、レミルが部屋に入ってきた。


「おはよう、準備は整った?」


「ああ、整ったよ」


「そう・・。死なないように気をつけて行って来てね。」


 レミルは、少し不安げな表情でそう語る。気を使ってくれているのだろうか?


「ああ、もちろんさ」


 不安はあるが、弘樹は答える。

 弘樹の不安は、この国の兵器体系を全く知らない事だった。どんな兵器が使われているのか?もしかすると、思っても見なかった兵器が使われているのかもしれない。未知への恐怖である。


「よし、行くか!」


 弘樹は集合場所へ向かって歩き始めた。

 弘樹とジークが集合場所についてしばらくしたころ、遠くから、国一番の弓の使い手、ローバンドと、王の近衛師団隊長アー・ボーンがやってきた。

 アー・ボーンは、すらっとした体格、細剣を脇に持ち、金属色剥き出しの鋼のよろいで、顔以外の全身を覆っている。顔は輪郭が整っていて、金髪、そして青い目をしていた。ただ、何処と無く冷酷な雰囲気を漂わせている。

 ローバンドは、茶色い髪に、黒い目をしている。なんとなく話し掛けやすそうな顔をしている。そして、身軽そうな、皮の胸当てを付け、服は、緑色の服を着て、木製の弓を肩にかけていた。

 アー・ボーンの眼光は、なぜか、明らかに弘樹たちを、見下していた。

不意に、アー・ボーンが話し掛けてきた。


「ふん、このような何処の馬の骨とも解らん奴等をリーア姫様の救出作戦に引き込むとはな、王も何を考えていらっしゃるのか!元々、精鋭部隊を送ったときに、この私も混ぜてくだされば、部隊も全滅せずにすんだものを・・・。」


 非常に失礼な物言いである。姫がさらわれたと言う事は、親衛隊のミスと言っても過言ではない。にもかかわらず、それを助けてあげようというジークや弘樹に向かって、馬の骨扱いをする。


(・・・・・・・・・・・・・)


 ローバンドが口を開く


「そんなこと言ったら、この方々に失礼だろ。せっかく姫様の救出作戦に命懸で、手を貸してくださるという事なのだからな。」


(ローバンド彼はいい人だ!!)


「ふん、実力も無い奴らにうろうろされたら迷惑だと言っているのだ!」


 弘樹は、あえて黙っていた。

 ローバンドがさらに反論する。


「しかし、命令は命令だ!それに、姫を助けたいと申し出てくださった親切な方々に対するおまえの発言は、非礼だ!この方々にお詫びしろ!」


 アー・ボーンが、弘樹とジークの方に向きかえる。そして、


「せいぜい足を引っ張るなよ。」


 完全に見下した態度で、彼は弘樹たちから目をそらし、自分たちが持ってきた荷物に向かって歩く。

 そして、その中から地図を取り出した。


「ほらよ」


 ジークに向かって、彼は地図を投げつける。


「そこが姫のさらわれた場所だ!姫はおそらく、ここの一番上に監禁されている。」


 その地図ジークが見てみると、この城下町の北にある霊峰アクセイド山の図であった。


 アー・ボーンが話を続ける。


「その霊峰アクセイド山は、非常に険しい山だ!そして、精鋭部隊の生き残りによれば、犯罪集団は、爆発進化した、動物たちの集団であることが確認されている。

 よって、殺す事にためらいはいらない。霊長類最高の進化形態である人間の力を見せる時だ!

まあ、おまえらが足を引っ張らなければの話だが・・・。」


 アー・ボーンの話が終わる。その時、ローバンドが話し掛けてきた。


「すみませんね。あんなに傲慢で非礼で馬鹿な奴ですが、腕だけは確かなので・・・。」


 弘樹がその言葉に対して話す。


「いえいえ、良いですよ。確かに、彼の言うとおり、私は役に立つかどうか解りませんから」


 そこで、また話さなくても良いのにアー・ボーンが話し掛けてくる。


「これから、戦力外が2人いるとしても、とにかく4人で行動するわけだが、俺がリーダーで、皆依存は無いな!」


 弘樹は、依存が大有りだったが、とにかく話がややこしくなるので、とりあえず、反論はしなかった。

 たしかに、地の利が詳しくない弘樹は、反論できる立場に無い。

ただ、彼の希望としては、ローバンドかジークにリーダーになってほしかった。

 そして、救出ミッションのグループは、霊峰アクセイド山に向かって歩き始めた。


 霊峰アクセイド山、ビスカ国で一番の高さを誇り、その海抜高度は、およそ1843m、非常に厳しい山で、攻め難く、守りやすい天然の要塞となっている。

 アー・ボーンの採った今回の作戦はこうだ、まず、アー・ボーン、ジーク、弘樹の三人が、正面から堂々と、姫の身柄について交渉に来た特使のようにふるまう、そして、身軽なローバンドが、その隙に、姫の居場所を探索し、隙を見て姫を救出、そして、救出が成功したならば、いったん全員が、その山から脱出し、その後、ビスカ国の全兵力を用いて、アクセイド山を、敵の手から奪取する。

 というものだ。

 さっそく、作戦が開始された。

 ローバンドが、別行動をとるべく、パーティーを離れる。そして、残りの三人は、正面から堂々と、アクセイドに向かっていった。

 しばらく歩いていると、弘樹の見たことの無い生物が、前に現れた。その生物は、翼竜の羽のようなものが、肩からはえていて、人間のように二足歩行をしている。そして、皮膚がすべて紫色で、気持ち悪い。目は、まるで猫のように、縦に割れている。さらに、三叉の槍を右手に持っている。弘樹には、悪魔そのものに見えた。そして、その生物が話し掛けてきた。


「きゃきゃきゃきゃきゃ、城を明け渡す準備は出来たのか?」


 聞いているだけで、頭にくるような、馬鹿にした声で、その生物は話し掛けてきた。その付近を見渡すと、人の白骨化した物や、剣がささった死体が転がっていた。どうやら、旅人であろうが、誰であろうが、この質問を必ずするらしい。もしもここで、「何の事?」とでもしゃべったら、すぐに殺すつもりなのだろう。

 アー・ボーンが話し始める。


「我々は、その事について、交渉をしに来た、王の特使である。責任者と会わせてくれ。」

 額に汗をうかべながら、アー・ボーンは話す。


「きゃきゃきゃ、責任者と会わせろだと?城を明け渡す準備は出来たのきゃきゃきゃ?」


 きゃーきゃーきゃーきゃーうるさい動物である。


「その件について、王の意思を伝えに来た。たのむから責任者と会わせてくれ。」


・・・しばしの沈黙が流れる。


「ふん、下等生物が偉そうに・・・。まあいいきゃ。ではバーグ様の所に案内するきゃ」


 そう言うと、その生物は二足歩行で、山のほうへ向かって歩き始めた。しばらく歩いて、弘樹は気がついた。後ろの方からも、猪の化け物や、例のウサギの化け物、なんか丸い生物、など、いろいろな化け物がついて来る。しかも、道は断崖絶壁の裂け目である谷に入り、横へ逃げる事は出来ない。谷はの横幅は、10メートル前後、後ろに化け物たちがついて来ているので、完全に退路は絶たれた。


(ちょっとまずいような気がするな・・。)


 更に歩いて、段々と高地に上がってくる。植物が無くなり、あたりにはネズミ色の岩だけの風景が広がってくる。

 しばらくすると、谷の向こうの方に、広い広場が見えてきた。その広場は、やはり断崖絶壁に囲まれてはいるが、円形で広い。おそらく半径が200メートル前後あるだろう。広場と言っても全くの平野ではなく、少し起伏に富んでいて、所々に3メートル前後の岩がある。

 そこだけ何故か植物があり、まるでステップ気候のような、短い草が生えている。その真ん中に、ワニを二足歩行にしたような生物が偉そうに座っていた。傍らには何故か、人間がいる。弘樹たちは、その偉そうな二足歩行タイプのワニの前まで連れて行かされた。


「バーグ様、王の特使が参りました。きゃ」


 先ほどの、悪魔のような顔をした二足歩行生物が、やけに丁寧な言葉で、バーグと呼ばれるワニの化け物に話し掛ける。その姿はまるで、部下に厳しく、上司に媚びをうる係長のように見える。その生物は、バーグにそう告げた後に、バーグの左側に直立不動で立った。まるで側近と言わんばかりに。その位置関係から、おそらくはナンバー3と思われる。

 ただ、気になる事は、バーグの右側に立っている男、明らかに人間だ。アー・ボーンに比べると、少し軽装備で、機動性に富んでいると思われる鎧を身にまとい、腰には剣をさしている。眼光は鋭く、バーグというボスに媚びをうっている様にも見えない。なぜ、人間がこんな生物と共にいるのか?弘樹には解らなかった。


「・・・・・・」


 バーグは黙って、鋭い視線を弘樹たちに飛ばしている。沈黙による重圧が、付近の空気も重くさせる。その空気を察してか、アー・ボーンが話し始める。


「我々は王の特使です。交渉に入る前に、まず、姫の安全を確かめたい。」


 アー・ボーンが交渉に入った。彼の作戦によると、姫の安全を確保の後に、山を脱出し、全兵力を用いて山を攻め落とすとの事だが、周りは崖、そして唯一の道は、化け物たちの群れで、埋め尽くされている。これではもしも姫を救出したとしても、普通の方法では脱出できない。

「城は?」


 おそらくはワニの進化形態であろう、バーグが低い声で話し掛ける。


「いや、まず姫の無事を確かめないと交渉に入る事は出来ない」


 油汗をたらしながら、アー・ボーンは話を続ける。やはり、あの偉そうな奴でも、これだけの敵に囲まれると心配なようだ。


「・・・・・つるせ」


 その声を合図に、ワニの後ろ20メートル付近にあった岩の向こうに、棒が立てられ、綱がキュルキュル音をたて、姫がつるされ始めた。おそらく今までは岩の向こうに寝かされていたのだろう。手首にひもをかけられて、そのままつるされるので、体重がすべて手首にかかる。これは痛い。

 姫の顔は苦痛にゆがんでいる。相当に衰弱していたようだが、確実に生きているようだった。


「城は?」


 言葉数が少ないだけに、かなりの圧力がある。しかも姫は向こうの手中にあるため、これは相当不利な交渉になるような気がする。


「和平という道は無いのか?共存の道を探ろうじゃないか」


 圧倒的に不利な状況での交渉、アー・ボーンはこのように話すだけで精一杯だった。あたりまえである。王からの命令は、姫の救出であって、城を引き合いに出しても良いなどとは、一言も言われてないのだ。


「和平など・・・無い、城を明け渡すか、この場で八つ裂きにされるかのどちらかだ」


 バーグの顔が怒りはじめた。いや、元々怒っているような顔をしているので、その顔の目などがさらにつり上がったといった表現の方が正しいように思われる。


(まずい・・・正直言ってまずい)


 その時だった。疾風のように、矢がたてつづけに飛んできて、一発目は姫をつるしているひもに命中し、姫は棒から重力加速度で落下した。二発目と三発目は、その姫を監視していた二匹の獣達の眉間を貫いた。

 すごい・・・。弘樹はこんな弓矢の早撃ちと、正確な着弾は見たことが無かった。


「なにものきゃあ!!!!!!!!」


 悪魔のような生物が叫ぶ。弾かれたように、アー・ボーン、ジーク、弘樹の三人は、姫の安全確保のために走り出す。そして、姫の安全をとりあえず確保した。ただし、この化け物軍団をぬけて城まで帰りつかなければ、完全な命の保障は無い。

 更にたてつづけに三発の矢が、飛んできた。バーグとその側近達の眉間に向かって飛んでいる。

 正確な弾道を描き、矢は二匹と一人に向かって飛んでゆく。そこで、驚くべき状況が起きた。

 人間に向かっていた矢は、あっさりと剣で振り落とされた。とんでもなく速い剣速である。

 ワニに向かっていた矢は、眉間に当たったのだが、矢がはじき返された。なんという皮膚の硬さだろうか?

 そして、悪魔のような生物は、身をくねらせ、かろうじて避けた。


「くっつ」


 ローバンドの額に汗が走る。矢を飛ばして攻撃したということは、とりあえず宣戦布告したのと同じだから、戦わなければならない。


(どうせやるなら、徹底的に最大の攻撃力でやってやる)


弘樹が自動小銃を化け物たちに向けて構えようとしたその時、隣から駆け出す陰があった。


「化け物たちは、親玉を捕れば崩壊するはずだ!!あのワニみたいな生物は、私が倒す」


 さすが近衛隊、勇気ある行動である。


 アー・ボーンはバーグと呼ばれたワニに向かって駆け出す。

 一気に親玉を殺して、帰路を切り開くつもりである。


「っおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」


 渾身の一撃、彼はワニに向かって剣を振りかざす。


「ザシュっっっっっっ」


 彼の剣撃はワニに届くこと無く、鈍い音がして吹き飛ばされる。


「ぐあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁ」


 彼は苦痛にのたうち回る。着ていた鎧はバーグのパンチによって穴が開き、アー・ボーンの内蔵にダメージを与える。


 かわいそうであったが、弘樹の頭の中では、

(名前のとおり、あボーンってやられたな、うわー雑魚キャラだ)と思っていた。


 バーグと呼ばれた敵の親玉の顔が怒りに包まれる。


「よくも・・このバーグ様を出し抜いてくれたな・・・殺れ」


 指示を聞いた手下たちが、大勢で押し寄せる。奇声を発し、土煙をあげ、こちらに向かってくる。その数およそ150体


―――――――――――――


 弓の使い手、ローバンドは焦っていた。近衛隊長であるはずのアーボーンは一撃でやられ、どうやら気絶している。残ってるのは、ビスカ王国の中でも辺境のクシラの達人と、訳の分からない緑色のまだら模様の服を着て、鉄の杖をもっている蛮族のみ。

 彼らが死ぬのは、致し方ないとして、姫様もそこにいる。

 そして、敵150体は、幹部らしい3体を残して、姫様たちに突進していく。

 彼は、出来うる限り弓を速射した。

 先頭を走っていた何体かが被弾し、倒れるが、団体の突進は止まらない。

 (もうだめだ)

 ローバンドは覚悟しつつ、神に祈った。

 (神様、全能の「ファフィー」よどうか姫をお助け下さい)

 どうしようもないことは解っている。祈ったところで、結果は変わらないだろう、しかし、祈れずにはいられなかった。

 不意に、戦場に連続した炸裂音が鳴り響いた。

 (何の音だ?)

 ローバンドは、その光景に目を疑った。

 これは・・・奇跡か?

 彼の視線の先では、蛮族と思われた緑色の服を着た人物が、杖を敵に向け、光の弾を連続した放っていた。

 その弾は、敵を貫通し、一発で何体か後ろまで倒れていた。

 こんなに連続して敵が倒れる所を彼は見たことが無かった。

 わずか数十秒で、150体の敵は幹部の3体を残して全滅した。


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