新たな依頼
「所在は?」
「それが‥‥奴らはあちこちに散在していますから。姿も消しますし」
「不特定、か」
ならば、昨日も使ったあの作戦でも使おうか。彼女ほどの魔力をもってすれば、高確率で成功する。
しかし一つだけ確かめたいことがある。
「‥‥‥最近、この森を抜けてすぐの村で吸血鬼被害が出ているが、お前の犯行だな?」
「ええ。その為に来たのでしょう?」
流れはそうであるが、聞きたいのはそこではない。
ユーグは彼女の言わんとしていることを汲み取ったらしく、少し苦い表情になる。
「‥‥私はね、ずっと昔からここに棲んでいたんですよ。誰にも気づかれないようにひっそりと、ね」
けれどそうした異形の者を商品として使おうと舌舐めずりする人間はどこにでもいる。大抵はサーカスや劇団の人間で、それらの関係者が密猟に来るのだ。こっちも無抵抗では負けてしまうので、報復と称して血を飽くまで頂くが。
それでも密猟者は頻発する。異族の見世物は余程儲かるようで、彼らはどんな危険を冒してでも敢えて虎穴に突き進むのである。
「でもですねえ。ここいらは半獣共が密猟者を食べ散らかすようでして、全く足が途絶えてしまったんです。仕方がないから民家に下って血を分けて頂いているのですが‥‥、宮廷の耳に届いたこともあり、どうも警戒が強まってしまいまして」
‥‥ここで再び、例の依頼に帰結する。
「私とて無敵じゃありません。一人だけでもいいので強力な魔術師が味方についてくれると嬉しいのですが‥‥引き受けてくれますね?」
優しく語りかけながらも、酷薄そうな唇は既にレナータの首筋に降りていて。断った先の末路など火を見るより明らかだ。
「‥‥‥御意と言ったろう。何度も繰り返すな」
「反故にされたらたまりませんので」
きゅっ、と男の唇が柔肌を吸った。電撃が走ったような刺激が身を包んだ。
生理的な悪寒が走りそうになるのをグッとこらえる。それでも肩は竦んでしまった。
そんな仕草がツボに入ったのか、男の忍び笑いが聞こえ、自ずと対抗心が湧く。レナータは男の首元に爪を立て、凛と睨んだ。
「魔術でおびき寄せることぐらいならできる。お前が邪魔しなければな」
「やだな。自分の生活がかかっているのに妨害なんてしませんよ」
終始びくびくしていたレナータの反応にご満悦な彼は、やんわりと目線を彼女と合わした。どことなく色香漂う顔立ちは、見飽きるなんて不可能なほど浮世離れしている。
振りほどこうと思えば可能な筈。けれど、既に彼の方へと堕ちかけている自分がどこかに息づいている。力の抜けた両腕がそれを物語っていた。
アイリスの瞳に酔わされている間は、きっとどうあがいても無駄骨なのだろう。