最悪な同席
出された朝食は最悪だった。
毎日定時刻に出される食事に馴染んでいたからかもしれない。焼き立てのパンは固くて咀嚼に時間がかかるし、卵料理にも殆ど熱が通っていない。デザートの桃だって、熟しきってひどく不快な味が広がった。
しかし折角用意してくれた食膳を残すのも気が引けるので、文句を言わずに黙々と平らげていく。一皿ずつ浚えていくごとに、吸血鬼の微笑が深まって。
純粋に喜んでいることが見て取れた。
余計に文句とか言えなくなる。
「どうでしたか?料理なんて久しぶりでしたから、不安で」
「‥‥餓死寸前に食べたら、さぞかし美味いのだろうな」
とはいえ、皮肉は健在なようだ。
吸血鬼は血液以外の物質を口にしない。それなのに何故食物があるのかと問えば、果物類は館付近に自生しているものを獲り、パンと卵は遠くの街へ飛んで――――言葉通りの意味である――――買ってきたのだという。
尚更、残すなんてできようか。
但し唯一、食後の葡萄酒だけは上等だった。同じ街で買った品だというのに、何故こうも質の差が激しいのか。
透明なグラスに何杯も注いでは呷りつつ、寝起きにした話の続きを促す。
「いえね。ここのところ下級の半獣共がうちの領域を闊歩しているようでしてね。葡萄の樹なんかかなり荒らされたんですよ。そろそろ我慢の限界が来ちゃいまして。で、天下の魔術師様が参戦して下されば短時間で終了すると判断したので」
引き受けてくれますよね?ともはや確定した瞳でずいと覗き込まれる。蠱惑的なアイリスの彩りに堕ちそうになりながらも、理性を総動員して堪える。
「いや。それは私の管轄外だ。こちらの任務はあくまでもお前の討伐‥‥」
「もう一回吸われて腰抜かしますか?」
「‥‥御意」
あんな体験、二度と御免だ。そう告げると、困ったように笑われた。
「貴方の血、麻薬みたいに私を離さないんですよ。依存症でしょうか」
「そうか。なら克服しろ。禁断症状なんかすぐ治まる。忍耐さえあれば乗り越えられる」
「生憎、私は我慢強くなくて」
ああ言えばこう言う。その割には、半獣が不法侵入していても暫くは置いていたじゃないか。
心中の突っ込みを察したユーグは、困ったように相好を崩して「一人じゃ少し厳しくて」と漏らした。一見無敵そうな吸血鬼でも、多勢に無勢という諺は通用するようだ。
それなら本来の任務も。人員を派遣してもらえば、きっと。
‥‥事が治まり次第、実行しよう。
固く決心し、それまでの辛抱だと腹を括ったレナータだった。
再び空になったグラスに、赤紫色の芳醇な液体をなみなみと注ぐ。
「で、その半獣とやらは何体いるんだ」
「そうですね。庭の荒廃状態から判じるに、ざっと二十匹程度でしょう」
「二十‥‥」
恐らく、それより二、三多く見積もっておかねばなるまい。どこからどこまでを『庭』と称すのか不明だが。