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溶けた黒髪
足元すら覚束ない宵闇を、淡い月の光が照らす。今宵の月は蒼く、まるで眼下の凄惨さに血の気が引いているよう。
悪夢にも似た鳥の羽ばたきを聴きながら、女は静かに瞳を開けた。鋭い眼光は冴え冴えとして蒼く、目の前の敵を睨み据える。
吐き気を催しかねない八つの紅い眼。真っ黒な風景に妖しく映えていた。
彼らは一様に細長い尻尾、首のない胴体をコウモリの翼で浮かせている。鳥ではなく、正確には鳥を模した化物だ。
奴らにとって女は今宵の獲物。女にとって奴らは討伐対象。
張り詰めた空気が滞る刹那、一筋の閃光が迸った。銀の輝きは過たず彼らの胴体を射抜き、彼らを灰に帰す。
急所を狙えば後の処理は早い。彼らは、死ねば勝手に霧散してくれるのだから。
それでもちゃんと消えるのを見届けてしまうのは、一抹の不安があるからだろうか。しかし、杞憂に終わるのも毎度のこと。
今回も事なきを得た女は、長く艶やかな髪を翻しながら踵を返し――――二度と振り返らなかった。