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髪のきれいな彼女は

作者: 洗濯バサミ

 彼女はとてもきれいな髪をしていた。

 大学で一番人気があった彼女は、もちろんその容姿や性格も目を惹いたが、最も目を惹くのはやはりその美しい髪だった。

 今時珍しいほど手の加えられていない髪で、パーマなんてもってのほか、染めたことなど一度もない。艶やかで背中のなかほどまである長い黒髪をいつも無造作にたらしており、時折それを掻き揚げる仕草がとても魅力的だった。

 そんな彼女の親友だったわたしはいつも彼女と一緒にいた。彼女といる時間はとても楽しく、充実していた。意外と人見知りだった彼女は、いつも“あなたの前だけは素の自分でいられるの”と、少し照れたよう笑いながら言った。わたしはその言葉がとても嬉しくて、いつも“わたしもよ”と、言って笑いかけた。


 そんな彼女が、ある日突然髪を切ってきた。あの美しい髪を肩までばっさりと切り、晴れやかな笑顔で、驚いているわたしにこう言った。

“あなたを見ていたら、短くしてみたくなったのよ。ふふっ、どう?似合うかしら”

 そう、わたしの髪は彼女とは対照的な少しボーイッシュなショートボブだった。

“もちろん似合っているわよ。でも、すごくもったいないわ。あんなにきれいな髪だったのに”

 わたしが驚きを隠せないまま少しすねたように言うと、彼女は笑いながらこう言った。

“言うと思ったわ。あなたらしい”

 これはあとで分かったことなのだが、彼女に好きな人ができたらしい。そのひとは短い髪が好きなのだと言う。すぐに教えてくれればいいのに、わたしをからかいたくて黙っていたらしい。そんな、基本的には真面目なのにたまに見せる茶目っ気も彼女の魅力のひとつだと思う。

“だって本当にもったいないんだもの”

 わたしが少し頬を膨らませながら言うと、彼女はくすくすと楽しそうに笑った。

“そんなにすねないでよ。またすぐに伸びるわ”

“そうかしら”

 まだ不服そうなわたしに、彼女はきれいに微笑んだ。

“そうよ。きっとそのうちこの髪型が恋しくなるんだから”


 このとき彼女は、わたしに最初で最後の嘘を吐いた。

 

 彼女が髪を切ってから一週間ほど経った頃だっただろうか。わたしは彼女と一緒に服を買いに、駅前に来ていた。彼女が“明日告白するの。それでね、新しい服を買いたいの”と言ったので、その服を選びに行っていたのである。わたしは“わざわざ買わなくてもいいじゃない”と言ったが、彼女は買うと言って譲らなかった。彼女がいいのならそれでもいいのかと、このときはそう納得して一緒に買い物に行った。

 

 わたしは今でも悔やんでいる。なんでこのとき納得してしまったのかと。


 気に入った服も無事に買えて、ふたりでアイスでも食べに行こうかと歩いていたときのことだった。わたしたちの後ろで“キキーッ”という悲鳴のようなタイヤの擦れる音と誰かの叫び声が聞こえた。驚いて振り返ると、眩しいほど白い光が視界いっぱいに広がった。それが少し横に逸れたかと思うと、気が付いたらわたしは道路にへたり込んでいた。周りのざわめきと道路に横倒しになって煙を上げている大型トラックを見て事故が起こったのだと理解した。そして、わたしたちがその被害者だということも。

 そうだ、彼女はどうしたんだろう。大丈夫だろうか。

 彼女の姿を探してあたりを見渡す。少し離れたところに、何か赤いものがある。最初はなんなのか分からなかったが、よく見るとそれは


 血まみれになった彼女の姿だった。


 その姿をみた途端、わたしの頭が真っ白になった。周りの音が遠く聞こえる。

 わたしはからっぽの両手をぼんやりと眺め“ああ、わたしのバッグはどこにあるんだろう”と、もう正常に働いていない脳で意味無いことを考えていた。そこから何があったのかはよく覚えていない。どこかの誰かが“救急車!救急車!!”と叫んでいた気がする。


 気が付くとわたしは病院のベッドの上だった。白い清潔感のあるシーツが、まだぼんやりした頭には少し眩しい。看護士さんが開けてくれたのか、開いた窓から涼しい風が吹いてくる。少し首を回してあたりを見渡すと、他にみっつベッドが並んでおり4人用の病室のようだった。だがわたし以外に患者はおらず、殺風景な少しさびしい病室だった。


 そう、あの事故で、わたし以外に患者はいなかったのだ。

――――――‐-

 あの事故から、彼女がわたしのそばから居なくなってから、三年が経った。わたしの短かった髪は昔の彼女と同じくらい長くなった。しかし


 彼女の髪は、いまだ短いままだ。


ちょっと分かりにくいかな・・・

少し前に書いた話です。初めての短編ですね

悲しいお話も始めて書きました。ハッピーエンドが好きなのでw

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