7 過去1
出会ったのはもう六、七年ほど前になるのか。
高校二年生の秋口だった。私が落とした鍵を彼が拾ってくれたのがきっかけ。
当時大学四年生だった彼にそのままナンパされて、ためらっていると強引にカフェへと連れ込まれ、元々押しに弱かった私は、そのまま押し切られて、気がつけば携帯の赤外線通信をしていた。
でも、それは嫌な物ではなく、むしろとても楽しかった。自分とは違うタイプなのに、彼と意気投合したのだから。
上岡はその場で「付き合おう」とか、他にも遠回しに体の関係を誘ってきたりもしたのだけれど、さすがにそれは腰が引けて断っていたら、意外にもそういうところを強引に押し切ってくることはなかった。
そんな出会いから始まって、上岡はそれから割と頻繁に口説いてきた。出会ったその日、別れた後はすぐにメールが来たし、夜には電話もかかってきた。
メールは一日に数回は来たし、夜の電話は日課のように感じるほどの積極さ。
そういうアプローチに慣れていない私だったけれど、好感を抱いていた相手からとなると、決して悪い気はしなかった。
年上にあこがれていた私が、五歳も上の、しかもかっこよくて女慣れした上岡の存在に惹かれるのは当然だった。
会えば当たり前のように肩を抱き寄せられ、時折子供扱いして頭を撫でられ、そのくせして、まるですごく大切にするように女扱いをされて。
私の女心は、嫌になるほどくすぐられた。
それだけなら、遊ばれていると感じたかもしれないけれど、それだけじゃなかった。社交的な彼に対して、割と地味目な私は、性格が全く違っているようにも感じたのだけれど、なぜだか、彼と一緒にいるのがとても居心地が良かったのだ。
気持ちが空回りしない、とでも言うのだろうか。
私のようなちょっと地味目の性格だと、どうしてもテンションの高い人を前にすると、気を使ってもそれが無駄になったり、むしろ足手まといになったり、向こうの気遣いが疲れたり疎ましかったりと、ちぐはぐになりやすいという事を身をもって知っているのだけれど、彼にはそういう気まずさを感じることがなかった。
彼の気遣いはいつでもうれしかったし、私が気を回したことを、彼は自然に受け取ってくれていたし、必要ない気遣いでも彼はバカにして笑ったりもしなかった。
だから、だんだんと私は上岡に気を許すようになっていき、とうとう、三年生に進級した頃には付き合うようになった。
けれど、付き合い始めると、それまでとは違ったところが見えてくるようになる。
彼からすると、遊び慣れてもいない高校生の女の子なんて、さぞかし扱いやすかっただろうと思う。
バカみたいに彼の言葉を簡単に信じていたあの頃を思い出すと、未だに腹立たしい。
彼が「付き合っていた」のは、確かに私だったのだろうと思う。けれど、彼は私一人じゃ満足していなかった。はっきり言うと、物足りなかったのだろう。彼が物珍しさで私に構っている時期は、付き合う前に終わっていたのだ。
落としてしまえば、適当に餌をやっておけば良かったのだろう。
飲みにも行かない、夜は一緒にいるのに時間の制限がある、それでなくても高校生相手なのだから、「彼女」として楽しむには、さぞかし不足に感じていたことだろう。その上、今の私になら分かるけれど、彼も社会人一年生で、いろいろ大変な時期でもあっただろう。私に合わせてばかりいられないぐらいの苦労もあったかもしれない。
けれど、当然その頃の私にはそんな事は分からないし、分かっていたとしても浮気をくり返したことを仕方がないなどとは言う気もない。
そして浮気はするくせに、私よりも会社の人間関係や、友人たちの方を優先させたこともおもしろくなかった。
なのに、私は、会えば会うほど、上岡のことを好きになっていった。