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 今日はいけなくなったとメールをした。

 それから、送られてくるメールを無視した。

 次に電話の着信拒否をした。

 私は静かな部屋の中で布団をかぶる。頭まで、すっぽりと。

 一度は忘れられたんだから、今度だって忘れられる。

 何も考えたくて眠ろうと思うのに、頭の中は、彼とあの男性の会話がリフレインする。

 考えるな、考えるな、考えるな。

 眠れない、長い夜だった。


 そうして、世界が、砂を噛むような、味気ない物になった。

 何もかもが、どうでも良いような。私の周りで、勝手に時間が過ぎてゆく。

 そして、ときどき、ぶり返すように吐き気のような苦しさがこみ上げてくる。彼に会いたくて、いっそ問い詰めたくて、なじりたくて。

 ……あんなの嘘だって、言って欲しくて。いつかのように、「留衣だけだよ」って抱きしめて欲しくて。



 彼を拒絶した電話は、ならない。

 着信拒否が良かったのか悪かったのか。彼からの電話が鳴らないこともまた苦痛だった。

 私は、五年前と同じ、いや、それ以上の苦しさを味わっていた。

 会いたくて、会いたくなくて、悲しくて、苦しくて……でも、あの頃と違って、どこか心が麻痺をしている。

 涙も出ない。ただ、ぼんやりと、苦しさが私を覆う。

 何もかもどうでも良いけど、おなかはすくし、生活をしなくちゃいけないから会社にも行く。淡々と、日常が過ぎていって、私は、あの頃のように忘れる努力も特にすることもなく。ぼんやりと、苦しさに浸る。

 彼は、一体どう言うつもりだったんだろう。彼は、私をどうするつもりだったんだろう。

 思い出す彼は、どこにも他の女の影はなかった。せいぜいあの指輪程度。

 いつも私を最優先にしてくれているのが分かった。

 本当に奥さんなんているのだろうかと考えたりして、でも、あのときの会話を思い返し、やっぱりいるのだろうと溜息をつく。

 もしかしたら、二人の関係はうまくいっていないのかもしれない。そこに私が現れた、とか?

 勝手に想像しては、想像で勝手にまた落ち込んで。

 押しつぶされるように痛む胸を押さえて、深く、深く息を吐く。

 それでも、と私は一つだけ確信があった。

 きっと、彼は、また私の目の前に現れるだろう。会うことに執着していたようだから。

 その時、私はどうすればいいのだろう。

 考えるが、答えは出なかった。

 五年前のあのときのように逃げようかとも思った。会社は知られていないだろうし、引っ越せば切ることが出来るだろう。

 けれど、今はそんな気力さえわかなかった。

 そして、私も心のどこかで、もう一度彼と会わなければいけないと、このまま逃げたらいけないのだと思っていた。

 逃げるのは、きっと、解決にはならない。

 けれど、彼と顔を合わせて、自分がどうなるのかと思うと、どうしようもなく恐ろしく思えて、縮こまるように、彼がやってくるのを待っていた。


 来て欲しくて、来て欲しくなくて。

 会いたくて、会いたくなくて。


 好きで好きでたまらなくて、だからこそだいっきらいで。


 認めたくなかった。だけど、もう、認めよう。

 逃げずに、前に進もう。



 私は、やっぱり、彼が、好きなのだ。






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