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 チャイムが鳴った。

 平日の朝から誰だろうと思う。

 一瞬、考えたくない人の面影が脳裏をよぎった。でもあの再会から十日以上がたっているけど、特に何も連絡はなかったし、私はその可能性を消した。

 再会してからの数日は、自分でもおかしいんじゃないかと言うほどに、びくびくしていた。もしかして押しかけてくるんじゃないかとか、電話番号も教えていないのに、電話がかかってくる度に彼のような気がしたり。びくびくしたまま過ごして、何の連絡もないままの数日が過ぎて、ようやく、考え過ぎだったのかもしれないとほっとした。

 ただ、ほっとしただけなら良かったのだけれど、私はほっとする反面、肩すかしを食らったような物足りなさも感じていた。

 もういやだと思っているのに、彼が私に興味を持っていることに何らかの期待を感じていたのかと思うと、自分の意志の弱さや、心の弱さが悔しく思えた。どうしても振り切ることが出来ないらしい自分がイヤだった。

 けれど、それで悩んだのも、もう数日前の出来事だ。

 連絡がない事への安堵と、物足りなさ、両方を味わい尽くして、ようやく思い至る。きっと、偶然会ったときの、いかにも彼らしいリップサービスだったのだろうと。そう結論を出して、私はまた彼のことは忘れることにしたのだ。

 あれから一週間以上がたっているのだし、彼ということはまずないだろうと心の中でつぶやく。だって、もし、彼が行動に移すのなら、こんなに日をあけたりするはずがないから。そう断言できるほどに、彼は衝動だけですぐに行動に移す男だった。

 彼のはずはないと、納得し、私はドアに向かう。

 何か荷物でも頼んでいたっけ?

「はーい」

 私はチェーンをしたままドアを開ける。

「……もう少し、警戒心を持った方が良くないか?」

 ドアの向こうから、聞き覚えのある声がした。

「上岡さん……」

 頭の中が真っ白になる。

「おはよう。朝から押しかけてごめん」

 ドアの向こうで彼が笑った。

 私は最後まで言葉を聞くことなく、とっさに無言でドアを閉めて、鍵をかけた。

 なんで、彼が。

 鍵を閉めた手がぶるぶると震えていた。知らず、奥歯がかちかちとなった。

 逃げるようにリビングへ行く。震えながら座り込み、どうするかを考えようとしたけれど、どうすればいいのかどころか、どうしたいのかすらわからない。私は混乱したままドアを見つめる。

 あの向こうに、彼がいる。

 チャイムを鳴らされるだろうか、それとも声をかけられるのだろうか。

 怯えながら見つめたが、しばらく経っても、物音一つしない

 そうしてどのくらいドアを見つめていただろう。手の震えも止まっていた。そうしてようやく私は思い出す。

 会社……!!

 時計を見て慌てる。仕事に間に合わなくなるところだった。

 ドアの向こうから音はしない。

 きっと彼は帰ったんだ。

 私は自分に言い聞かせる。

 だから、ドアを開けて、彼がいるはずがない。

 確かめるのさえ怖くて、私は準備を済ませると、それ以上考えないように、覚悟を決めてドアを開けた。

 良かった、いない。と、思ったのは一瞬で、ドアの前から少し離れたところに彼がいた。



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