校正者のざれごと――総ルビの誤植に溺れる
私は、フリーランスの校正者をしている。
つい愚痴のように何度も書いているが、最近は電卓を片手にお金の計算をするような仕事ばかりしている。さすがに、ちょっと息切れしてきた。
「小山さん、次の仕事なんだけど」
校正プロダクションの社長から次の仕事の相談が来た。子ども向けの動物図鑑だという。久しぶりに、電卓のいらない仕事だ。
「はい、お引き受けします」
翌日、自宅にゲラ(校正紙)が届いた。
動物図鑑ということだったが、さまざまな危険生物を集めた図鑑らしい。毒をもった虫や凶暴な肉食獣、嚙まれたら危険な魚などが載っている。イラストや写真が多い。
編集者からの申し送りには、データの確認は不要とある。つまり素読み。これなら、そんなに大変な作業ではなさそう。と、はじめは思ったのだが……。
子ども向けということで、漢字は総ルビ。つまり、すべての漢字にふりがながついている。このルビに誤植がないかを重点的に見てほしいという。
ルビをつける文字(親文字という)に比べて、ルビは文字が小さい。慎重に目で追う。
最初に気になったのは「農作物」のルビ。
「作物」であればルビは「さくもつ」となる。では「農作物」は「のうさくもつ」か「のうさくぶつ」か。広辞苑では、見出しは「のうさくぶつ」で、「のうさくもつ」も併記されている。新明解は「のうさくぶつ」のみ。
これについては以前ベテランの校正者から「のうさくぶつ」だと聞いた。「農/作物」ではなく「農作/物」と区切るので、「のうさく」「ぶつ」になるのだ。ただし、「のうさくもつ」も間違いとは言えないので、赤字ではなくエンピツの疑問にとどめておく。
「匹」という字のルビも注意が必要だ。1匹なら「ぴき」、2匹なら「ひき」、3匹なら「びき」だ。5匹が「ぴき」だと「ごぴき」になってしまい、やはりおかしい。「○本」や「○分」などもしかり。
Wordなどにはルビを自動でつけてくれる機能がある。たまにおかしな読みも見かけるが、そこまで極端な間違いはないと思っている。このゲラのような組版もきっとそうなんだろう。ところが、この本にはちょっと信じがたいルビの誤植がつぎつぎと出てきた。
世界中――せいかいじゅう
まあこの程度ならたいしたことはない。自動でルビをつける機能でもたまに見られる。
野生動物――やせいせいぶつ
寒冷地域――かんれいちたい
おとなしい性格――せいかつ
ん? ちょっと待て。自動ではこんなことにはならないだろう。こんな誤植、見たことない。もしかしたら、ひとつひとつ手動でつけているのかしら。
100倍
転ぷく
さすがにこれはひどい。ぷくぷく。思わず吹き出してしまう。ああ、自宅作業でよかった。
西太平洋――にしたいせいよう
うわあ、こわ。こうなると、何か試されているとしか思えない。「太平洋」に「たいせいよう」とルビが振られているなんて……いちおう断っておきますが、ここに挙げたものはすべて本当にあったものです。
動物図鑑。久しぶりにまったく違うタイプの本の校正だった。何というか、すごく楽しかった。たまにはこういう仕事もいい。まあ、お金の本も嫌いではないけれど。
最後に、お金の本で見つけた、とっておきの誤植を。
「源泉徴収」と書かれているはずが、なぜか「温泉徴収」
まわりに「源泉徴収」と何度も出てきているのに、1カ所だけこの表記だった。絶対に変換ミスじゃないよな。疲れていて、たまには温泉にでも行きたいなあ、などと思いながら打ったのだろうか。真相はわからない。でも、こんな誤植も嫌いじゃない。




