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■第6章:執着

 眠れなかった。


 目を閉じるたびに、浮かぶ。


 交差点。


 光。


 音。


 澪。


「……」


 天井を見つめたまま、瞬きもできない。


 頭の奥で、映像が繰り返される。


 何度も。


 何度も。


 同じところで、止まる。


 ——あの一歩。


「……」


 ただの事故。


 そう思えば、終わる話だ。


 実際、そう見える。


 足を滑らせた。


 タイミングが悪かった。


 それだけ。


 それだけで、説明はつく。


 つくはずなのに。


「……違うやろ」


 声に出してみる。


 小さく。


 誰もいない部屋で。


 何が違うのかは、わからない。


 だが。


 何かが、引っかかっている。


 あの“間”。


 止まった時間。


 何かを見ていた目。


 そして。


 ——口の動き。


「……」


 思い出そうとする。


 だが、ノイズが邪魔をする。


 聞こえない。


 わからない。


 それでも。


 あれは。


 “何か”を言っていた。


「……」


 体を起こす。


 スマホを手に取る。


 無意識だった。


 地図アプリを開く。


 あの場所。


 事故現場。


 画面の中に、点が浮かぶ。


 指が、止まる。


「……」


 行ったばかりだ。


 もう見た。


 あれで、十分なはずだ。


 知る必要なんて、ない。


 これ以上は。


 ——危ない。


「……」


 画面を閉じる。


 ベッドに戻る。


 横になる。


 目を閉じる。


 ——浮かぶ。


 また。


 同じ映像。


 同じ場所。


 同じ一歩。


「……っ」


 目を開ける。


 呼吸が、浅い。


 胸が、ざわつく。


 落ち着かない。


 静かなはずの部屋が、やけにうるさい。


 何もしていないのに。


 何も流れていないのに。


 頭の中だけが、止まらない。


「……もうええって」


 ぽつりと、呟く。


 誰に向けた言葉でもない。


 ただ、出てきた。


 その瞬間。


 違和感が走る。


「……」


 今の言葉。


 どこかで、聞いた気がする。


 いつ。


 どこで。


 思い出せない。


 思い出せないのに。


 やけに、残る。


「……」


 もう一度、スマホに手を伸ばす。


 今度は、迷いがなかった。


 画面を開く。


 地図。


 あの点。


 指が、触れる。


「……もう一回だけや」


 言い訳みたいに、呟く。


 誰も聞いていないのに。


 理由をつける。


 意味があるように。


 必要なことのように。


 そうしないと。


 自分でも、止められない。


「……」


 立ち上がる。


 靴を履く。


 ドアを開ける。


 夜の空気が、流れ込む。


 冷たい。


 少しだけ、現実に戻る。


 それでも。


 足は、止まらない。


 向かっている。


 同じ場所に。


 同じ点に。


 同じ記録に。


「……」


 わかっている。


 これは。


 知りたいからじゃない。


 確かめたいからでもない。


 ただ。


 見たいだけだ。


 あの一瞬を。


 もう一度。


 何度でも。


 繰り返して。


 何かが変わると、思っている。


 変わるはずがないのに。


「……」


 それでも。


 やめられない。


 理由なんて、いらなかった。


 ただ。


 ——そこにあるから。


 見えるから。


 触れれば、再生されるから。


「……」


 夜の中。


 大輔は、歩き続ける。


 同じ場所へ。


 同じ記録へ。


 自分でも、気づかないまま。


 少しずつ。


 壊れながら。

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