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忌み子ミュリエルは、魔国の王に捧げられる  作者: 松うみか
第一章

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第八話 魔物襲来

 ミュリエルは今日も双子と雪遊びをしていた。

 毛糸の帽子と毛皮のコートに手袋をはめ、防寒対策はばっちりだ。特に双子はマフラーも巻いているため、防寒着に埋もれてしまいそうなほどもこもこで可愛い。



「ミュリー、みて!」

「ミュリー、みるだわねっ!」



 双子が胸を張って見せてくれたのは、雪を丸めたものを二つ重ねた雪像だった。



「エルーのせきぞう、つくった」

「ユールのせきぞう、つくっただわね」

「石像じゃなくて、これは雪像(せつぞう)かな」


 そう訂正しつつ、二人が作った雪像を観察する。

 ユールバート作エルーシャの雪像には、エルーシャの瞳と同じ赤色の石が嵌められ、エルーシャ作ユールバートの雪像には、ユールバートの瞳と同じ金色の石が嵌められている。雪像はぴったりと寄り添っていて、普段の双子と同じだ。


「どっちもすっごく可愛い~っ! ちゃんとおめめもお互いの特徴に合わせてるんだね。二人とも上手じゃない!」


 ミュリエルの言葉に、双子は得意げな笑みを浮かべた。冷たい空気にさらされた鼻が、赤みを帯びている。ミュリエルはそっと双子の手を取ると、小さな手の冷たさが伝わってきた。


「おてて冷たくなっちゃったね。そろそろ戻ろうか」


 双子は意外にも素直に頷いた。幼子たちは遊びをすぐに止められない。体力と時間など度外視で遊び続けようとするのだが、雪像の出来に満足したのか、大人しくミュリエルの手を握り返した。身体は大きくならずとも、内面は着実に成長しているのを感じて、胸がじんわりと温かくなる。


 ミュリエルは一歩踏み出した。

 けれど、右手の方だけ前に進む気配がない。後ろから引っ張られているような抵抗を感じて振り返ると、ユールバートが立ち止まったまま動こうとしない。



「ユール?」



 顔を覗き込むと、ユールバートの金瞳が光っていた。

 能力を使っている。ユールバートには千里眼の能力があり、魔国の少し先の場所を見ることができるのだ。



「まもの、いる」

「……ひとくいのまもの、いるだわね」



 ユールバートの言葉を補足するように、エルーシャが言った。

 エルーシャの能力は、ユールバートの考えを読み取る。いわゆるテレパシーである。ただ、エルーシャがユールバートの考えを読み取ることはいつものことのため、瞳が赤く光ることはない。


 ここは元々魔国だ。魔物がいることは何ら不思議ではないが、人喰いの魔物は違う。人喰いの魔物など、今の魔国には存在しない。


「ユール、どこに?」

「やま」

「……あっちのやまだわね」

「それって――――」



 ユールバートとエルーシャの視線は、ミュリエルの生まれ故郷を向いていた。

 イルーヴ村は険しい山に囲まれた閉鎖的な村だ。そんな村に、魔物が降りてきたらどうなるか――。



「……ミュリー、いかない」

「……ミュリー、いっちゃだめだわね」



 突然、強い力で両手が引っ張られたかと思えば、ユールバートとエルーシャがかぶりを振っていた。

 どうやらミュリエルの考えを読み取ったらしい。



「でも――っ」

「ミュリーきずつけた。わるいやつ」

「ミュリーいためつけた。わるいやつだわね」



 双子は頬を膨らませている。

 わがままを言う時の表情と同じだが、その気持ちは違う。ユールバートとエルーシャは、ミュリエルを思って引き止めてくれていることは十分に伝わっていた。



「ユールバート、エルーシャ……ありがとう」



 ミュリエルはしゃがみこむと、双子と視線を合わせた。赤と金の瞳に、ミュリエルが映る。



「でも――わたし行かなくちゃ」



 そう言って口角を上げると、双子の頭をぽんぽんと撫でた。縋るような瞳で見つめられ、揺らぎそうになる気持ちを無理やり押さえつけながら、立ち上がる。



「ダメですよ、ミュリエル」



 その瞬間、透き通るような声が背後から聞こえた。

 振り返るとそこには、眼鏡の位置を直しながらこちらへやってくるセドリックがいた。

 双子はセドリックに駆け寄り、小さな手を目一杯伸ばしミュリエルを行かせまいとしている。



「セドさん。でも、わたし――」

「ランベルト様が不在の今、貴女を行かせるわけにはいきません。ましてや貴女を生贄として育てた生まれ故郷になんかやれません」



 ユールバートもエルーシャもセドリックも――もちろんランベルトだって。みんなの根底にあるのはミュリエルを慮る気持ちだ。

 きっと家族というのは、こういうものなのだろうと思う。たった五年しか経っていないが、家族の一員になれたことが心の底から嬉しくて、じんわりと胸に温かいものが込み上げてきた。

 でも、だからこそ――。



「セドさんもありがとうございます。でも、行かなきゃダメなんです。今行かなかったら新たな悲劇を生んでしまう。『忌み子ミュリエル』は、私で最後にしたいんです」



 もう、魔王はいなくなった。

 魔に魅入られた金瞳の忌み子は、もう役目を果たした。

 それなのに、魔物による被害が出てしまえばどうなるだろう。


 あの因習が、この先もずっと続いてしまうかもしれない。それを想像しただけで、肌が粟立った。


 ミュリエルのような思いをする子は、もう要らない。

 忌み子は、ミュリエルで終わりだ。いや、終わらせる。



「それでも、私の立場で行かせるわけにはいきません。私はランベルト様の留守を預かっている身でもあります。ランベルト様の庇護にいる娘を苦境に陥れるわけにはいかない。それにあえて厳しいことを言いますが、貴女一人でなにができると?」

「――っ!」



 セドリックを説得するのは難しい。だってセドリックの言葉は全部正しいのだ。

 仮初とは言え、この国をまとめているランベルトがいない今、すべての責任はセドリックが負うことになる。それにミュリエルは残念ながら、そこまで能力が高くない。聖女の力が使えても、聖女の役割を果たすほどの力は持っていないのだ。



 けれど、このまま捨て置くことはできない。



(どうすれば――)



「そんなわけで――私も同行します」

「ユールも!」

「エルーも一緒に行くだわね!」

「は……、え?」


 微塵も過ぎらなかった展開に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 だが面を食らったままのミュリエルを放って、三人はせっせと動き始めた。



「念の為ミュリエルはフードを被って顔が見えないようにしてください」

「あ、えっと……セドさん? ユールにエルーもどうして……」



 セドリックがどこからかマントを持ってきた。枯草色のマントには目深いフードが付いている。

 ミュリエルはまごまごとしながらも、そのマントを受け取った。



「一人では行かせられませんが、我々がついていれば良いでしょう。ユールバートとエルーシャは千里眼や読心術の他に、攻撃魔法が使えますし、私はエルフです。ランベルト様が人間にしては規格外というだけで、本来人間よりも魔法に長けているんですよ。ただし、連帯責任ですよ。怒られるときはみんな一緒です」

「まおうさまにおこられるー!」

「みんなでおこられるー!」



 セドリックはウインクしてみせ、双子は怒られると言いながら楽しそうだ。

 目頭が熱くなるのを感じる。けれど、それを零さないように、ぐっと堪えて。



「――っ、ありがとうございますっ」



 ミュリエルはマントをぎゅっと胸に抱いたまま、深く頭を下げた。

 ぽんと頭に大きな手が触れる。ランベルトとはまた違う、大人の手だ。



「ユールバート、エルーシャ、私に場所を教えてください」

「あいあいさー」

「あいあいさーだわね」



 セドリックはそう言うと、そっと地面から身体を浮かせた。続くように、双子も手を繋ぎ身体を浮かせる。


 ミュリエルはマントを羽織り、フードを深く被った。それから魔法で杖を出し、跨る。魔力操作に意識を向けると、地面から足が離れ、浮遊感に包まれた。


 セドリックと双子は杖なしでも飛行魔法が使えるが、ミュリエルはこの杖がなければ飛行魔法は使えない。聖女の魔法は杖なしでも使えるが、杖がある方が魔法の威力は増幅される。



「ミュリエルの移動は、私が操作しますね」



 視界が悪いミュリエルのために、セドリックが補助魔法をかけてくれた。



「さあ、行きますよ」



 セドリックの言葉に一同は頷き、そして――空高く飛んだ。

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