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番外編:ひとのこ(Side:ランベルト)

1-3と1-4の間のお話です。

 双子が連れてきた少女――ミュリエルの話を聞き終えたランベルトは、一人食堂に残っていた。



「……金瞳(きんどう)を迫害する愚か者がいたとはな」



 それも魔王に捧げるとあっては、呆れて物も言えない。



 あの身体でまさか十三歳だとは思わなかった。体格からしてせいぜい八、九歳程度だろうと思っていただけに、ミュリエルが劣悪な環境にいたことは想像に難くなかった。


 何の変哲もないパン粥に瞳を輝かせ、噛み締めるたびに頬を緩ませ、とろけるような表情を浮かべていた。一体今までどんな物を食べてきたのか訊きたくなったが、思い出させることすら酷なように思え、口を噤んだ。



 この少女が成長すれば、小さな村を守ることくらい容易(たやす)いというのに。無知とは罪だと思う。


 実際ヴィニラゴン王国では、人身売買やそれに類する行為は重罪だ。生贄など(もっ)ての外である。




 しかし、魔王もよくそんなちっぽけな村との約束を、律儀に守っていたものだ。


 それほどまでに、()()()()()()()()()()()は甘美なのだろうか。


 確かに魔力を宿した瞳の子どもは連れ去られやすい傾向にある。力も使いこなせず、抵抗されることがないからだ。

 だが、それは魔族に喰われるからというわけではない。同じ種族の手による犯罪も後を絶たない。


 いくら国として法を決めていたとしても、それを守る者ばかりではない。


 魔族と同じく、愚かな人間はどこにでもいる。

 自分たちの身を保身するくせに、幼い子を犠牲にすることは少しの躊躇いもないのだ。

 貧しければ貧しいほど、貪欲であれば貪欲であるほど愚かになる。

 そして弱者を狙う輩は、()()()()()()()



 遠い記憶を思い出して、ランベルトは右目を手で覆った。



 王都に生まれていれば、こんな目に遭わなかっただろうに――。



「イルーヴ村か…………壊滅させたくなるな」



 ついこぼしてしまった言葉に、呼応する声が二つ。



「ひとのこ、いじめた。きらい。おそう?」

「ひとのこ、かわいそう。きらい。おそうだわね!」

「うわっ!?」



 まさか反応があるとは思わず、ランベルトは珍しく素っ頓狂な声を上げた。

 声のする方を見ると、双子がテーブルの舌からひょっこりと顔を出していた。


 

「ったく、お前たちいつの間に――! というか、間違っても襲いに行くなよ!」


 

 ユールバートとエルーシャは魔族のように人は食べないが、魔王に捕えられた他種族の子どもというわけでもないらしい。いずれにせよ人を襲ったら最後、ランベルトは双子を始末しなければならない。

 どんな種族であれ――子どもを手にかけることはしたくない。



 そんなランベルトの気持ちなんてつゆ知らず、双子はテーブルの下から出てくると手を繋いで顔を見合わせた。

 ぱちぱちと瞬きをして、それからランベルトを見る。



「でも、まおうさま、いった」

「まおうさま、いっただわね」

「何を?」

「「かいめつさせたくなるって」」



 思わずぎくっ、と肩を揺らした。

 言った。確かに言ったが――



「……それは言葉の綾というか、咄嗟に出た言葉というかだな……」



 まさかいるとは思わず油断していたランベルトの落ち度である。双子は神出鬼没だ。独り言には注意しなければならない、というのは肝に銘じつつ、



「これはミュリエルの問題で、俺たちが勝手に手を下していい事じゃない」



 ランベルト個人としては、そんな碌でもない村など跡形もなく消し去ってやりたいところではあるのだが、そんなことをしたところで、ミュリエルのためにはならないのだ。

 少なくともミュリエルは村に対して悪い印象を持ってはいなかった。村人を――両親を、恨んではいないようだった。

 他人であるランベルトたちの感情で手を下してしまえば、ミュリエルはより深く心に傷を負ってしまうだろう。



 もっとも――イルーヴ村が生贄を罪と理解していたか否かはともかく、生贄に捧げたという行為に対する処罰は致し方ないのだが。それを判断するのは、ランベルトではないのは確かだ。



 それに気になることがある。

 ランベルトは魔法協会に属する魔法使いとして、王国の隅々まで把握しているつもりだったのだが、イルーヴ村の存在は一切知らなかった。


 ミュリエルの話では、魔国に繋がる森に隣接しているという。ならばなおさらランベルトが知らないのはおかしいのだ。魔王討伐の際、事前に周辺の地図は確認した。だがそこにイルーヴ村の名前はなかった。

 後でセドリックにも聞いてみるが、なにやら面倒なことになりそうな予感がしていた。



 だが今は目の前の面倒事をどうにかしなければならない。

 双子はまるで頬袋にきのみを詰め込んだリスのように、ぶうと頬を膨らませている。

 どうやら襲う気満々になっていたらしい。



「お前たちにできることは、ミュリエルの側にいることだ。それがあいつのためにもなる」



 ランベルトはミュリエルに、双子との遊びの時間を仕事として与えるつもりでいる。

 忌み子と呼ばれていたミュリエルは、恐らく遊びという物を知らないだろう。ならば双子との関わり合いで遊びを知ればいいし、セドリックの手も少しは空くだろう。一石二鳥である。



「ミュリエルと仲良くできるか?」



 ランベルトの問いに、二人はぱあと顔を綻ばせた。



「ひとのこすき!」

「ひとのこすきだわね!」



 早くも双子からの好感度は高いらしい。

 だが、ミュリエルは”ひとのこ”という名前ではない。



「”ひとのこ”じゃなくて、”ミュリエル”な」



 ランベルトが教えてやると、双子はこくんと頷いた。そして――にんまりと頬を緩め、



「まおうさま、ひとのこたべる?」

「まおうさま、ひとのこたべるだわね!」

「だから俺は人間は食べないって言ってるだろう! それから俺は魔王じゃないって何度言えば――!」



 この調子ではミュリエルのこともずっと”ひとのこ”と呼びそうだ――そう思っていたのだが。ミュリエルはあっという間に愛称で呼ばれるようになったにも関わらず、ランベルトのことはいつまで経っても『魔王』呼びのままだと知るのは、もう少し後の話である。

次回より第二章に入ります。

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