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忌み子ミュリエルは、魔国の王に捧げられる  作者: 松うみか
第一章

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序章

新連載始めます。

 身体が言うことを聞かない。

 自分の感情に呑み込まれ、気づいたら自分の中にもう一人、知らない『誰か』がいた。



 知らない『誰か』――?

 本当にそうなのだろうか。

 会ったことはない。けれど、まったく知らないわけではないような、そんな気がするのだ。



 自分と『誰か』が溶け合うように一つになると、まるで欠けていた断片がぴったりと繋がって、ようやく一人の人間になれたような感覚がした。

 だがその瞬間から、自分の意思が、感情が、存在がどんどんなくなっていく。

 身体に走る痛みが、心を突き刺すような苦しみが、身体の奥底から湧き上がる憎しみが自分の中に広がっていく――。



 これは誰の記憶――?



 辛く、悲しい生き地獄に、胸が締め付けられ、自然と涙がこぼれ落ちる。







『礼を言おう』



 凛とした声が耳朶(じだ)を打つ。けれどその声音には、黒炎が渦巻くような、それでいて冷たく重苦しい霖雨(りんう)のような感情が滲んでいた。



『お前が生まれてくれたおかげだ』



 あの人達以外にも、自分が生まれたことを喜んでくれる人がいたなんて。

 嬉しいはずなのに、悲しくなる。それは自分が『誰か』の犠牲の上に立っているからだろうか。それをまざまざと思い知らされているからだろうか。



 『誰か』はどこからか顕現させた黒い(つる)を自在に操り、こちらへと伸ばしてきた。ぐるぐると身体の自由を奪うように手足に絡みつき、それは次第に視界をも奪っていく。絡まる(つる)をよく見れば、それは『誰か』の黒い髪の毛だった。



 この人は黒髪だっただろうか?

 違ったような気がするのに、元の髪の色が思い出せない。



 そんな疑問も視界と共に、どんどん闇に覆われていく。

 主導権を奪われた身体は、ただ受け入れることしかできない。

 覆われる視界の隙間から見えるのは、愛しい人たちの困惑した表情だった。





 どうかあの人達だけは傷つけないでと、誰かに願う。

 けれど、その願いは届かない。『誰か』は、身体の持ち主のちっぽけな願いなど聞き入れてはくれない。



 あぁ、助けたい。



 それなのに、自分の身体は反対のことをしようとしている。

 傷つけて、壊して、すべてを無にしようとしている。

 嫌なのに。それじゃあなんの解決にもならないのに。大切ななにかを失うことの辛さはわかっているはずなのに。

 血の涙を流して、自分の手で終わらせようとしている。





 だったらそうなる前にいっそのこと――愛しいあの人の手で()()()を殺してほしい。





 あの人の手で息絶えるなら、本望だ。

 だってそれが一番最初の願いだったのだから。







 そう願って、意識は完全に闇へと溶けていった。

1話目は本日22:40に投稿します。

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