エピローグ:風の子、夢の先へ
春の牧場に、また新しい風が吹き始めた。
あの日、俺と栞さんが、アオハルカゼを見つめた牧場。
あれから数年、あの名馬は穏やかに余生を過ごしていたが、その血は確かに未来へと受け継がれていた。
柵の向こうで、黒鹿毛の馬が、まだあどけなさの残る目を輝かせている。
小柄だが、どこか父アオハルカゼの風格を感じさせるその馬体。
――アオハルカゼの子、アオハルリュウ。
「……あいつが、こんなに大きくなったんだな」
俺は、柵に手をかけながら呟いた。
栞さんも隣に立ち、同じ光景を見つめる。
「ええ。……父親譲りの気性だけど、穏やかで賢いの。未来を感じるわ」
そしてまた時が過ぎて、その日、俺たちは競馬場にいた。
晴れやかな空の下、アオハルリュウのデビュー戦が行われる日だった。
観客の歓声が、まだ遠くでざわめいている。
俺と栞さんは、手を握り、緊張と期待を共有する。
「……覚えてる? あなたが最初にあの子と会った日のこと」
「もちろん。……あの時の風も、今と同じだった」
笑いながらも、心臓は高鳴り、手のひらには微かな汗が伝わる。
レースが始まった。
ゲートが開き、アオハルリュウが地面を蹴り飛び出す。
父と同じ黒鹿毛、同じ風のような走り。
俺たちは、息を止め、視線を一点に集中させた。
直線に差し掛かる。
父と同じく、脚をため、最後の瞬間に爆発させる瞬間だ。
「……今だ!」
「……今よ!」
俺は、栞さんと声を合わせる。
アオハルリュウは、弾丸のように駆け抜け、前にいた馬たちを次々と交わす。
ゴール板が近づく。
そして――
「やった!」
勝利のゴール。初勝利の瞬間、競馬場の空気が一変した。
歓声、拍手、雄たけび。
俺は、栞さんの手を強く握り返す。
「……やっぱり、奇跡は続くんだな」
彼女は、頬を染めて微笑む。
その夜。
俺たちは、静かなレストランで、勝利の余韻に浸っていた。
「……ねえ、健太さん」
栞さんがそっと言った。
「……うん、栞さん」
「……そろそろ、私たちも、自分たちのゴールを決めてもいいんじゃないかな」
俺は、彼女の手を取り、見つめ返す。
心臓が跳ね、呼吸が重なる。
「……ええ。俺も、そう思ってた」
ふっとお互いが微笑み合う。春の風が、窓から静かに差し込む。
数か月後。
俺と栞さんは、北海道の牧場で結婚式を挙げた。
父アオハルカゼの名を冠した花冠を身につけたアオハルリュウも、そっと祝福するように隣に立っていた。
「……これからも、夢を追い続けましょう」
「ええ。二人で、そして、この子と一緒に」
風は、やさしく吹き抜け、過去と未来をつなぐ。
青春の風が、再び、俺たちの上を駆け抜けていく。
――物語は、まだ続く。
奇跡の血筋と、信じ合う心を携えて。
そして、俺たちは、新しい一歩を踏み出したのだった。
これでエピローグ含めて終了です!お付き合いいただきありがとうございました。




