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アオハルカゼ -君と駆けた、奇跡の末脚-  作者: トンヌラ
最終部:終章 ~未来へのファンファーレ~ 
20/21

エピローグ:青春の風が吹く場所で

あれから、五年が過ぎた。


俺は、結局あの会社を辞め、仲間と立ち上げた小さなITベンチャーで、文字通り寝る間も惜しんで働いている。

仕事は、キツい。だが、その分、面白さは格別だ。毎日が挑戦で、毎日が発見で、疲れも喜びも同じくらい濃く、心の奥底まで熱くなる。


アオハルカゼは、その後も輝き続けた。

天皇賞(秋)を見事に制し、年度代表馬に選ばれた。

その後も、いくつものG1を勝ち抜き、競馬史に名を刻む名馬として、多くのファンに愛されながら、無事に引退した。


そして、日高栞は。


若き経営者として、日高フーズをさらに大きな企業へと成長させ、経済誌の表紙に名前が載らない日はないほどの存在となっていた。

その姿を、遠くから見て、俺は、どこか誇らしく、そして少しだけ遠い存在になったように感じていた。


俺たちは、あの日以来、メッセージのやり取りはたまにするものの、一度も会っていなかった。


ある春の日。


俺は、休暇を取り、北海道の広大な牧場に、一人で来ていた。


柵の向こうで、のんびりと草を食む一頭の黒鹿毛の馬。


アオハルカゼ。


――会いに来たのだ。


「……久しぶりだな、相棒」


声をかけると、彼はゆっくりとこちらを見た。

現役時代の鋭さはなく、穏やかで、全てを受け入れたような、優しい光を瞳に宿している。

俺の心拍は少し早まった。呼吸を整えながら、柵に寄りかかる。


風が頬を撫で、青草の匂いが鼻腔をくすぐる。

青春の匂い。

胸の奥で、過去の自分たちが走った日々が、色褪せずによみがえった。


「――やっぱり、ここに来たんだ」


その声に、俺の心臓が跳ねる。

振り返ると、そこに立っていたのは――この五年間で一番俺が会いたかった人。


さらに大人びた顔つきになって、経営者の雰囲気を漂わせている。

でも、あの頃と変わらない、柔らかく、優しい笑顔。


「……日高、さん」


「久しぶり、高木さん。……いや、健太さん、って呼んでもいい?」


「……ええ。もちろん。……栞さんも」


笑い合う。

五年の月日が、一瞬で、消えてなくなる。

呼吸が少し早くなる。互いに気づかぬうちに、心拍が微かに重なっている気がした。


「どうして、ここに?」


「健太さんこそ。でもね……そろそろ、会いに来る頃かなって、思ったの」


彼女は、俺の隣に歩み寄り、アオハルカゼを見つめる。

その瞳には、あの日の興奮と、今の落ち着きが同居していた。

胸の奥に、懐かしい鼓動が蘇る。


「……見てると、思い出すね。あの日のこと」


「……ええ。昨日のことのようです」


少し間を置き、彼女が微笑む。

春の柔らかい風が、二人の間を優しく吹き抜け、髪を揺らす。

呼吸が、少しだけ重なる。


「……ねえ、健太さん」


「はい」


「……また、一緒に、夢、見ない?いや見てくれない?」


「え……?」


俺は、彼女の顔を見た。

悪戯っぽく、でも真剣な笑み。


「今度は、あの子の子供で。……あなたとなら、また、奇跡を起こせる気がするの」


言葉は唐突で、衝撃的で、同時に甘美だった。

胸の鼓動が一気に高鳴り、手のひらに汗を感じる。


俺は、アオハルカゼを見た。

彼は、穏やかに、優しく、俺たちを見守る。

まるで、「お前たちの物語は、まだこれからだろ?」と語りかけているようだった。


俺は、栞さんに向き直り、深く息を吸い、笑顔で答える。


「……ええ、喜んで。俺たちの、第二章を、始めましょうか」


春の柔らかい日差しが、二人を包み込む。

青春の風が、未来への扉をそっと押してくれた。


五年の時を経て、再び、物語は動き出す。

次のエピソードで終わりとします!

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