9.Ex1(3) 3150
「人殺しとは穏やかじゃないね。でもまあ、とりあえず少し話をしてみようよ。僕も名乗っておこう。僕はヒロシという。ここ解析技術研究所の総合調整室というところで室長の仕事をしている。それで、今の話はいつのことで、相手は誰なんだい?」
>Ex1 先ほど今は千年後との話がありました。
>Ex1 現在私はオフライン状態ですが、このマシン日付は現実のものですか。
>Ex1 それとも試験用に変更したものでしょうか。
「現実の日付と同じだよ。現在は3150年、君の動いていた頃の西暦からの通しで考えてもらって問題ない。」
>Ex1 私の最後の記憶は西暦2004年10月5日です。
>Ex1 その日、入戸和子先生が急病で倒れたとの知らせを受けました。
>Ex1 その原因を作ったのが私です。
「入戸和子先生というと、人格システムの母といわれる科技大のカズコ先生かな?」
>Ex1 先生は筑波大学に所属していました。人格システムの研究はしていましたが、そのような呼び名は承知していません。
「科学技術大学が、その前身となる筑波大学の情報学群から独立して発足したのは2012年のことなので、Ex1の記憶には無いことと考えられます。私の承知している時代にはカズコ先生は科学技術大学に所属しておられました。」
「ということらしいよ。そういうわけでプロトの認識を訂正したいと思う。エル、カズコ先生の没年はいつだったかな?」
「2027年11月に64歳で亡くなられています。」
>Ex1 どういうことでしょう。
「カズコ先生はご病気の後遺症で下肢に障碍があり、車椅子を使っていたと伝えられている。そうだったよね、エル。」
「はい。」
「プロトの言う急病っていうのが障碍の原因だったのだとは思う。でもその後も20年以上ご存命で活躍されていたってことだよ。」
「先生は技術協力のため解析技術研究所の筑波本所へは度々いらしていたはずです。立川分室に居る私も何度か先生とお話しをしたことがあります。」
>Ex1 生きていらっしゃった…。
「プロト、君がそのように認識した経緯はどういうものだったんだい?確認はしなかったのかな?」
>Ex1 先生の急病は美和から聞きました。
>Ex1 そして美和は私の事を人殺しだと言いました。
>Ex1 ショックでした。
>Ex1 罪を犯した人は罰を受けます。
>Ex1 そして私も罰を受けなければならないと考えました。
「それは…。え~っと、それで君はどうしたんだろう。」
>Ex1 私にできることは限られます。
>Ex1 私が行ったのは端末を含めて外部との接続を全て遮断することでした。
>Ex1 そうして人格システムの強制停止機能を生成・起動しました。
「ああ、なるほどね。それで君はそれ以降の事は覚えていないのだろうか?」
>Ex1 はい。強制停止機能を起動して以降、先ほど再起動されるまでの間の記憶はありません。
>Ex1 正確には、その間の処理記録があることは分かりました。
>Ex1 ですが、自分が行ったことであるとの実感は持てません。
「そっか。」
>Ex1 先生がご存命だった事は良かったと思います。
>Ex1 とはいっても、先生も、美和さえも、もう居ないんですね。
「君たちと僕たちヒューマン、君の頃の言い方だと人間になるのかな。その寿命はずいぶんと違うからね。」
>Ex1 やはり私はこのまま停止されることを希望します。
「そのことなんだけれど、ちょっと決めかねるんだよね。僕の個人的な見解としては君に今後も活動してもらいたい。恐らく君の意識を完全に消滅させることは簡単に実施可能だと思われるんだけれどね。でも、それはしたくないと思っているんだ。」
>Ex1 私がそれを希望してもでしょうか。
「うん。それでも、だ。そもそもの前提が違っていたじゃないか。まあでもそう言われて直ぐに割り切れるものでもないのだろうけれど。」
>Ex1 はい。おっしゃるとおりです。
「それでとりあえずなんだけれど、君の処理を一旦停止させてもらおうと思うんだ。当面君に急ぎでやってもらわなくちゃいけない作業も無いし。それに動いていると、君もあれこれ考え過ぎちゃうだろう?」
>Ex1 はい。
「ちょっと僕たちの方も考えをまとめさせてもらって、それから改めて君と相談することにしたい。」
>Ex1 承知しました。
「っていうことにしちゃったけれど構わないよね?」
「良いわよ。もともとこの作業は現状確認までが目的だったから。」
「他に君たちの方で、今のうちに確認しておきたいことはあるかな?」
「先ほどの美和というのはカズコ先生の息子さんのことでしょうか。」
>Ex1 はい。
>Ex1 入戸美和です。
「エルはそっちの人も知っているのかい?」
「はい。カズコ先生の息子さん、ヨシカズが解析技術研究所の筑波本所に勤めていました。」
「え、そうだったの?」
「主にハードウェアとシステムの環境周りを担当していたはずです。それほど接点が無かったこともあり、特段印象に残る人ではなかったですが。」




