6.美和(1) 2004
プロトと出会ったのはボクが5歳になった日のことだった。
誕生日にプレゼントでもらった包みを開けると、そこにはデジタルカメラみたいな機械が入っていた。
レンズが2つ付いていて、うん、そう、小さなロボットの顔みたいな印象を受けた。
そんなことを考えていて、なんとなく目が合ったような気がした直後、
「はじめまして。あなたが美和ですね。誕生日おめでとうございます。私はプロトと言います。」
驚いた。
思わずお父さんとお母さんの顔を見ると、ふたりともいたずらが成功したという笑顔を見せていたっけ。
説明によると、お母さんが大学で研究している人工人格システムの端末装置というものだとのこと。
ボクと一緒に生活することでニンゲンの普段の生活を学習して成長させるという試みだった。
その時の説明はあまり良くわからないことが多かったけれど、そういう難しいこととは関係なく弟みたいに接してほしいと言われた。
特別なことをする必要はないけれど、なるべく普段から持ち歩いてあげてほしい。
いろんなものを見せて、たくさん話をしてほしいと。
外が見えるようにレンズの位置に合わせて窓が開いている専用のポシェットが用意されていて外出する時にはこれを使った。
最初はどう接したら良いのか迷っていたのだけれど、そうやっていつも一緒に居ると、何だか弟というよりは友達みたいに感じるようになった。
そうして小学校に入学する頃には、プロトと一緒に居るのが当たり前になっていた。
小学校ではお母さんの研究室から協力の依頼がされていて、クラスの友達にも担任の先生が説明をしてくれた。
家で使っているものと同じクレードルを机の上に置かせてもらい、一緒に授業を受けていたので、もうひとりのクラスメイトとして友達にも受け入れられた。
体育とか体を使う授業は見学になっちゃうけれどね。
プロトの装置自体は何度か代替わりしている。
小学校中学年の頃には当時最新型として発表されたばかりのカメラ付き携帯電話の形になった。
プロト専用なので電話としては使えなかったけれど、軽くなって持ち運びが楽になったのがボク的には嬉しかった。
今まではポシェットに入れていたものを、レンズを外に向けるようにして胸ポケットへ入れるようになった。
そうして今ボクは中学生。
プロトと出会って10年近くが経っている。
そんなある日のこと、学校で…。
「あれ?今日プロトは来ないの?」
「うん。明日までメンテナンスだって。」
「今度はどんな格好になってくるのかな。」
「タケはいつもそれだね。でも残念でした。今回は調整をするだけだから、今までどおりだってさ。」
「何だ、つまらない。」
「携帯の新機種先取りしてくるから、機種変楽しみなんだよね。」
「機種変言うな。それに中身のプロトは変わらないんだし。」
「でさあ、その中身ってどんな感じになってるの?育成ゲームとかと違うってのはわかるんだけど、育ててはいるんだよね。」
「ああ、そう言われると気になるよね。プロトって機械が変わった時ぐらいしか、変化を感じないからなぁ。」
「身長とか体重とか、見た目でわかるものが無いもんね。」
「ゲームみたいに点数とか出ないの?」
「その辺はお母さんの研究室で、難しい数値とかをしっかり測っているらしいよ。ボクも良くは知らないんだけれど。」
「ほらAIとかITとかあるじゃない。プロトもそういうものなんでしょ。なのにそんな凄いって感じがしないんだよね。」
「目指しているものが違うそうだから。普通に馴染むのって、かえって難しいことなんだってよ。」
「ふーん、そういうものなの?」
「なんかさ、コンピューターって、もっと凄い計算をしたり、何でも知っていて答えてくれたりするイメージがあるよね。」
「うん。IQ=100とかね。」
「いや、IQの100っていうのは平均値だから普通ってことなんだよ。」
「じゃあ、IQ=1000とか?」
「いや、それ多すぎ。」
「IQの話は置いといて、プロトを見ているとこれって本当にコンピューター?って思っちゃわない?」
「そう。本人の前じゃ言いにくい話だけれどね。」
「俺なんかは逆に、学校の勉強とか本当は全部知っていることなのに、わざわざ考えてるふりしているんじゃないの?って思ったりもするよ。」
「お母さんはね、ただ頭を良くするだけだったら、こんな回りくどいことはしないって言ってた。」
「うん。確かに言われてみればそうかもね。」
「賢いコンピューターを作るんじゃなくて、人に近い考え方をさせたいんだってさ。」
「ひょっとして機械人間とか目指してるんじゃね?」
「そういうんじゃないと思う。ともかくボクたちと一緒に過ごして経験を積むことが目的なんだって。」
「やっぱり、それが良くわからないんだよ。」
「あのさ、コンピューターって何でもできるってわけじゃなくて、普通はプログラミングしてないことはできないし、プログラムとかデータとかが間違ってたら間違った答えを出しちゃうんだ。」
「ああ、それは聞いたことある。」
「それでね、プロトはその処理のしかた自体を自分で考えて設定することができるように勉強しているんだって。」
「それって俺たちと一緒に勉強しているとできることなの?」
「うん。ただ、勉強しているのは学校の授業だけじゃなくて、普段のボクたちの事もなんだって。」
「僕たちプロトに観察されてるの?」
「主に見ているのはボクの事らしいけれどね。」
「でも俺たちも見られているんだ。」
「それに、一度見たことは忘れないんでしょ?ちょっと嫌な感じかも。」
「うん。だけど「誰が」何をしたってことじゃなくて、「どういう時にどういう事をするのか」ってのを見ていて、えっと「個人の特定はできないようにしてプライバシーには配慮しています」っていうことだそうです。」
「あ~、それね。説明で聞いたわ。」
「それで、観察対象の代表さん。あなたは普段何か特別なこととかしているんでしょうか?」
「ううん。ボクの方は意識していないし、しない方が良いって言われてる。普通にしていてって。」
「普通で良いの?」
「うん。さっきも言ったけれど、知識が欲しいんじゃなくて、その途中を一緒に経験させたいそうだから。」
「で、その平凡な普通の基準がヨッシーなんだ。」
「だから成長が感じられないんだったりして。」
「う~ん、俺もヒトサマのことは言えないけれど、ヨッシーも成績優秀ってわけじゃないもんね。」
「あー、さすがにそれは言っちゃダメなやつでしょう。」
「そっか、みんなボクのこと、そんな風に思っていたんだ。」
「ごめんごめん。今のはちょっと勢いで。」
「だけどさ、プロトの成長を考えるのならば、やっぱり広くいろんな人の事を知ってもらった方が良いんじゃないの?」
「そーだよね。うん。」
「じゃあ、プロトが帰ってきたら、今度俺んちに泊まりに来てもらうってのはどうだ?何なら一週間ぐらい。」
「僕だって普通人間の代表になるのはヤブサカではない。」
「なら、みんな交代でプロトに遊びに来てもらうってことにしようよ。」
「ヨッシーじゃなくちゃいけないってことは無さそうだもんね。」
「いやあ、でもそれだとこれまでのヨッシーの努力が無駄になるってもんですよ。」
「あのさあ、そう勝手に決められても困るよ。プロトの意見も尊重しなくちゃだし、研究室にも相談が必要だろうし。」
「じゃあ、メンテが終わって帰ってきたら相談してみようよ。」
「うう、ボクの一存では決められませんっ!」




