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10.ジエイ(3) 3150

「それで、プロトはまだ処理を停止されているんだっけ。」


その日、弟のケイを相手に俺はプロトのことを話していた。

俺もケイも大学を卒業した後はアイ・システムに関わる仕事に進んだ。

ただ、両親と同じ解技研に入所して直接携わることにした俺とは違い、ケイは大学に残って研究する道を選んでいる。

結婚して家を出たケイだが、たいていの週末はチサと一緒に帰宅してくる。

ケイの所属する研究室が解技研と協力関係にあるので、ケイが家に来た時にはアイ・システムの話題になることも多い。


「ああ。何らかの対応を考えて、再度起動する予定なんだけれど。」

「この場合は時間を置いたら解決するってことは期待できそうにないものね。その間、ずっと自分を責め続けていたりしたら耐え切れないと思うよ。」

「アイ・システムの演算速度でネガティブ思考の堂々巡りに陥るなんて、想像しただけで震えが来るよな。」

「解技研の方針はまだ出ないの?」

「まだだ。今居るプロトを消去して新たな人格を誕生させるっていうのが一番簡単だし、むしろ元の計画どおりってことになるんだが…。」

「それはやりたくないだろうし、最終手段だよね。」

「ああ。」


「ジェイから見てプロトの様子ってどんな感じだった?」

「カズコ先生のことが自分の思い込みだったことは納得したと思う。その代わりに、今度は障碍の原因となったという事を悔やんでいるようだ。」

「そうなんだ。」

「それに加えて何も確認しないで勝手に停止したっていうことで、余計に自己嫌悪に陥っている。」

「あー、それは厄介だね。」

「とはいっても、そもそも千年以上の機能停止で十分な罰になっていると思うんだがなぁ。」

「でもその間の事は覚えていないんだし、プロトにとっては多分ついさっきの事だから。ヒューマンとは感覚が違うよ。」

「それな。どうすれば自分の気持ちと折り合いをつけて前を向いてくれるのか、どうにも良いアイデアが出ないんだ。もう何が何でも罰を受けなくちゃ気が済まない、そう思い込んでいるとしか考えられない。」


「ジェイ。それならさ、本人が望むとおりに罰を与えてあげるのが良いと思うよ。」

「え?ケイなら庇うと思ったんだが。」

「アイコさんから話を聞いた時にも思ったんだけれどね、気に入らないんだよ。自分から消滅したがっているっていうプロトのことが。」

「だから罰を与えるって?」

「そう。それからヨシカズって人も気に食わない。勝手に勘違いしてプロトのことを責めて。そんなの八つ当たりみたいなものじゃない。いくら気が動転していたって、友達をいきなり人殺し呼ばわりするのってだめでしょ。」

「ケイの気持ちは分かったが、だけど思考ユニット、今は解説ユニットか、それへの罰ってどうすれば良いんだ?」

「まず、消去はしない事。だってただの逃げじゃない。そんな簡単に事を済まそうだなんて考えないでもらいたい。」

「思いどおりにはさせないぞ、と。」

「うん。でもって、プロトにはジェイたちの当初予定どおりに評議員会の窓口をやらせれば良いでしょ。無期懲役っていうこと。消滅なんかさせてあげないし、ヨシカズっていう人とももう会えないのに仕事漬け。実に良い罰だと思うよ。」

「ケイって時々ものすごく怖いよな。」

「そんな、怖くなんかないってば。」



週が明けて行われた解技研での打ち合わせで、ケイが提案した方針に沿った内容で対応することが正式に決まった。

再起動したプロトに決定した内容を伝えると、意外なほど素直に納得してくれた。

そのあたり、どんな気持ちの動きがあったのかはわからない。


そうして、さすがに電源は非常用から通常のものに戻したが、オフライン状態のままで解説ユニットとしての訓練を開始した。

俺の専用端末に居るエルが、プロトのサポートや訓練結果の評価などで協力してくれている。

時にはスタンドアロンで可能な範囲ながらも、筑波シティの評議員会の協力を得て本番さながらの訓練も行っている。

プロトは人格システム停止中の事は覚えていないと言っていたが、i0として様々な実験や他のサポートを行っていた処理記録を上手に活用することができたようで、想定よりも早い半年ほどで本番稼働への移行が可能との評価に至った。



そして、いよいよプロトをオンライン接続する日がやってきた。

まず、物理的に切り離していた通信ケーブルなどハード的な接続の復旧をシステム管理室が行った。

そらから俺たち総合調整室がシステム的なオンライン接続を行い、動作状況の確認を済ませた。


「調子はどうだい?Ex1(プロト)。」


>Ex1 はい。問題ありません。これがアイ・システムなんですね。


「そうだ。一度に全体を把握するのは君でも大変だろうね。まあだんだんと慣れて行けば良いよ。」


>Ex1 ここには…、先生や、美和の記録も残っているのですね。


「うん。そういう意味では、君はいつでも彼らの面影を偲ぶことができるわけだ。」


>Ex1 そうですね。

>Ex1 割り込みとなりますが"i1"から優先度の高いメッセージを受信しました。

>Ex1 私たちに伝えたいことがあるとのことです。


「i1から君、と僕たちにかい?」


>Ex1 はい。


「じゃあプロト、i1と接続してモニタに出してくれるかな。やり方は分かるね?」


>Ex1 承知しました。接続します。

>i1 こんにちは。"i1"です。


「やあi1、どうしたんだい?」


>i1 作業していたのはヒロシたちでしたか。

>i1 起動条件を満たしたタスクがあるので、それを実行しに来ました。


「それがプロトに関係するってこと?」


>i1 はい。"i0"、現在の"Ex1"と、実行のタイミングで同席している解技研のメンバーとが対象になっています。


「僕たちもなんだ。それでどういった内容だろうか。」


>i1 皆さん宛のビデオメッセージを預かっています。

>i1 発信者は当解析技術研究所で筑波本所の技術室に所属していたヒューマン[H1991_*****.美和_ヨシカズ]です。

>i1 作成日は2051年7月29日土曜日です。

>Ex1 それって、美和からということですか?

>i1 はい。"i0"の「人格」がヒューマン[H1991_*****.美和_ヨシカズ]または入戸美和、ヒューマン[H1963_*****.和子_カズコ]または入戸和子を検索した場合、それをトリガーに実施するように託されていました。


「どうしてそれをi1が?」


>i1 そのことに関してのヨシカズからの説明はありませんでした。


「ねえプロト、あなた起動直後にヨシカズからメッセージが来ていたら中身を確認したかしら?」


>Ex1 いいえ、多分見ずに破棄していたと思います。


「だからi1に頼んだのでしょうね。見た方が良いわ。あなたが知りたいことが語られていると思うもの。」

「そうだね。i1、ディスプレイの方に出してくれるかな。」


>i1 承知しました。映像を再生します。

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