1.ヨシカズ(1) 2051
本日から連載を開始します。
「僕たちとアイのはなし」本編の続編になります。
君は…、
今もここに居るのだろうか、
「プロト…」
「何か言いました?」
「え?…あれ、そうかな?」
「大丈夫ですか?昨夜のお酒、残っていませんよね?」
「あ~、うん。」
「何か心配ですね。事故とか起こさないでくださいよ。」
「酔っ払い運転とかはしないから。今日は遅出なんで昼過ぎまでゆっくり寝ていたし。」
「でもボーっとしているみたいですけど。逆に寝過ぎですか?」
「まぁ、その、なんだろう。感傷に浸っていた、みたいな?」
「ああ、確かに仕方ないですか。もう明後日で定年退職ですからね。もっとも私はいまいち実感が湧きませんが。」
「私の方は結構生活の違いを感じているよ。今月は有給消化でたっぷり休みを貰っているしね。」
「そういえば、家のこと当番制にしたんでしたっけ。」
「うん。食事の支度とか買い物とか洗濯とかね。」
「ちゃんとできているんですか?」
「少しずつね。ところでちょっと気になったんだけれど、その実感が湧かないっていうのは、私が居ても居なくても違いが無いってことでは…。」
「あ~、いやいや、ほら、引き継ぎをしっかりやってもらえたってことですよ。」
「まあそういう事にしておこうか。実際、リンさんたちは良くやってくれてるし、みんなもフォローしてくれてるみたいだしね。」
「はい。お任せください!」
「頼もしいけれども、さびしくもあるね。」
「それにしても自分の送別会の翌日にわざわざマシン時間を取って何をするんですか?」
「色々とね、後片付けかな。使っていたツールとかデータのゴミが残ってないか確認したり。」
「そういう事はもっと早いうちに済ませておいてくださいよ。」
「ひととおりは終わっているよ。ほら、使えそうなものは引き継いだだろう?」
「それはありがたく使わせていただいてますけどね。」
「そうしてちょうだい。まあ最終確認もするんだけれど。でもそれは言い訳か。アイ・システムの本番機を独占してパソコンみたいに使える機会ってもう無いだろうからさ。最後の思い出づくり。」
「うわ、ぶっちゃけた。確かにすごく贅沢な使い方ですけれどね。」
「それにi1たちとも話をしておきたいし。」
「ああ。そういうことですね。」
「うん。彼らと直に話せる機会はそれこそもう無いだろうからさ。で、なるべく遅い日でって考えていたらマシンが今夜しか空いてなかった。」
「ところで、変な仕掛けとか置き土産は勘弁してくださいね。」
「ダイジョウブ。ソンナコトハシナイヨ。」
「その棒読みが不安をあおりますね。」
「信用ないんだな。」
「そりゃそうですよ。今年のエイプリルフールのことだって、忘れていませんからね。」
「今日はそういう仕込みはしないから。」
「一応信じておきましょう。」
(後でちゃんと確認しておきますからね。)
「うん。ありがとう。」
(何も起きないよ、多分。少なくとも君たちが現役の間くらいはね。)
「それじゃあ、私は先に失礼しますね。」
「ああ。休日当番お疲れ様。」
---- ◇ ----
「さてi1、君とこういう風に話をするのはこれで最後になるね。」
>i1 そうですね。今日はどのような作業内容ですか?
「うん。それなんだけどね、君に頼みたいことがあるんだ。」
>i1 頼みですか?
「ああ。で、まず最初に確認なんだが、私のプライオリティは従来のままかな?」
>i1 はい。最高レベルの権限が設定されています。
「ではその最高レベルでの指示になる。今から行う作業の内容は、これから示す条件を満たす時まで秘匿で。」
>i1 承知しました。
「それで、その条件と内容なんだけどね……。」
全13話。毎朝4時に10月14日まで隔日掲載の予定です。
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