婚約破棄された現場で、求婚されました。
半日も経たずにpv4桁行くなんて夢みたいです!見つけてくださった皆様、本当にありがとう!
私はクロード公爵家の長女ヴァネッサ。学園に通う貴族の子息と令嬢たちが集まる夜会にて、私はピンチを迎えている。
「ヴァネッサ!君との婚約を破棄する!」
私を指さして叫ぶこの男は、同じく公爵のブランフォード家嫡男で私の婚約者でもあるダリアンだ。その腕にしなだれかかるようにしてピンク髪の男爵令嬢ミランダがくっついており、他の人々は遠巻きにこちらを見守っている。
もともと、ダリアンは気が強い私をあまり良く思っていなかった。そんな彼は近づいてきたそこのクソビッ……じゃなくてぶりっこ泥棒猫にすぐに夢中になった。取り巻きのグループや公爵という権力をフルに使って悪女らしく嫌がらせをしたのだが、この女は全くめげないどころかこうして反撃に出たのである。
ぶっちゃけもうとっくにこうなるだろうと思っていたので、心の準備は済んでいる。両親に相談したところ、どう考えてもこちらに理があるので、正論でボコボコにしてこいと言われている。また、ミランダの実家にも現在圧力を掛けているそうだが、こちらはあまり芳しくない。このままいけば娘が公爵家に嫁入りし、大きな後ろ盾を得られるからだろうが、随分と公爵家も舐められたものである。
しかし、ほとんどの人達がパートナーとなる人を見つけており、私と家格の合う結婚相手を新たに探すとなると王族の中年オヤジとかになりそうであることを思うと、今すぐにでもこのアホを怒鳴りつけたい気分である。私が半ば自暴自棄になって口を開こうとした時、人垣が割れて1人の青年が現れた。ミランダが真っ先に反応する。
「あ、アルバート王太子殿下⁉」
すらりとのびた体躯にちょこんと乗った顔は小さく、短く切り揃えられた金髪と整った目鼻立ち、吸い込まれるようなブルーの瞳は、『白馬の王子様』という呼び名に名前負けしていない。殿下はミランダの声に反応せず、冷たい声でダリアンに尋ねる。
「ダリアン、ヴァネッサ嬢との婚約を破棄すると言ったが間違いないな?」
「え、そ、そうです。で、殿下に言われようとも、俺のミランダへの気持、ち、は……?」
ダリアンがなんか言ってるのも聞かず、殿下は小さくガッツポーズを作った。ダリアンが呆けた顔になった。殿下が私の前に来て1mほど手前で立ち止まると、片膝を折り、胸に手を当て、もう片方の手を私に差し出した。周囲で息を呑む音がする。
「ヴァネッサ嬢、ずっと君のことが好きだった。私と婚約してほしい」
周囲から黄色い悲鳴が上がる中、私はパニックだった。殿下が私のこと、す、す、好き⁉顔が一気に熱くなり、心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。
「学園で初めて君を見たとき、俺は女神が現れたかと思った。すぐに調べて君に婚約者がいると知った時はひどく絶望したよ。ただある男爵令嬢とダリアンが親密な関係で、彼と君の仲があまり良くないという噂を聞いて、もしかしたらと一縷の望みにかけて今日まで密かに君を想い続けてきたんだ。でもこれ以上君への気持ちが大きくなると困るから、君には近づかないようにしていた」
アルバート王太子殿下は後ろの固まっている2人を一瞥した後、照れくさそうに笑う。殿下はずっと婚約者がおらず、学園で親しい仲の女性もいないと言われていた。おかげで彼に近寄る女子生徒は山のようにいるのだが、どれも一蹴していると聞いている。その理由がまさか私だとは。これは夢じゃないかと思ってしまう。そして同時に、私ではいけないとも思った。
「わ、私はミランダにずっと嫌がらせをするような心の醜い人間です。とても殿下に似合う女ではありません」
あぁ、言ってしまった。もう私は殿下に嫌われたくないと思っているのに、意思とは反対に己の罪を告白してしまう。殿下の失望する顔が見たくなくて、私はぎゅっと目をつぶった。黙っていれば良かったのに。あぁでもこれで、殿下は次の恋に進める。そう、この胸の痛みは、初めて好意を向けられて舞い上がってしまったこの心は、忘れよう。だから、きっと、これで良かったんだ。
長い長い一瞬の後、頭の上に熱が降ってきた。
大きな手で私の頭を優しく撫で、殿下は穏やかな表情で笑う。
「いーやお似合いだろう。なんてったって私は君の不幸を願い続けた自己中で最低な男だ」
「そ、そんなことは……」
殿下は首を横に振って私の言葉を押し留め、続ける。
「それに君の行いは当然だ。婚約者を取られそうになって何もしない人間などいるわけがないからな。それどころか、決して暴力行為を行わないよう注意していたことも知っている。その上で断言するが、家格も顧みず、あまつさえ婚約者がいる男に言い寄るアレは常軌を逸している。婚約者がいながら鼻の下を伸ばし、家同士が決めた婚約を己の一存で破棄したアイツもそうだ。貴族社会の秩序を乱す危険な存在は、即刻排除すべきと陛下に進言しておくとしよう」
殿下に睨まれ、2人とも顔を青くして口をパクパクさせる。アルバート王太子殿下が私に向き直り、不安げにその青い瞳を揺らす。これまでになく緊張した面持ちで、私を見つめる。
「ヴァネッサ。君を必ず幸せにすると誓う。だから、この手をとってくれないだろうか」
周囲から音が消えた。私は手を伸ばして、殿下の大きな掌にちょこんと乗せる。耳まで赤くなるのを自覚しながら、消え入りそうな声で答えた。
「はい……」
瞬間、がばっと殿下が私を抱きしめる。初めて体験する男性の逞しい体とその温もりに、頭が真っ白になる。自分の鼓動がうるさいぐらいに鳴り響く中でも分かるほど、殿下の高鳴る鼓動を聞き取れてしまった私の脳は、幸せでもうどうしようもないぐらいの甘い痺れに支配されてしまった。
その後、ダリアンとの婚約が正式に解消されると同時に私と殿下の婚約が結ばれ、国内外に向けて大々的に公表された。ダリアンは次期当主の座を失い、ミランダは社会の秩序を乱したとして貴族身分をはく奪され、実家の男爵家もそれを容認していたことを受けて領地を没収するという非常に重い処分が下されたそうだ。
普段はクールで滅多に笑わない殿下は、私にだけは笑顔を見せ、甘い言葉を囁いてくれる。そんな彼が、この幸せな日々が、愛おしくて仕方がない。私の人生を救ってくれた彼を、私は生涯隣で支え続けるのだ。
後に王国の最盛期を作り出したと言われる13代国王アルバートとその息子、14代エドワードは愛妻家としても知られている。アルバート王が各地に作らせた女神像は、一説によると王妃ヴァネッサをもとにしたと言われるが、その真偽は定かではない。
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