懐かしき邂逅
――ギィィッ――
入室早々、出迎えるのは生死を競い合う荒くれ共の鋭い視線…ソレは1に先頭の俺を見ると、その視線に〝侮蔑〟と〝嘲笑〟を浮かばせ、次に俺の後ろの絶世の美女美少女に大小様々な視線を向ける…最早言うまでもなく〝分かりきっていた〟事だ。
「……登録名〝レイド・バルクレム〟、〝Bランク冒険者〟」
「は、はい…!」
その視線を全て無視し…俺は受付の娘に冒険者証明の必要情報を伝え、己の冒険者としての〝権限〟を復帰させる…そして、その処理の最中にアイリスへ指示を出す。
「アイリス、パーティー登録はお前がやっておけ…俺は〝ギルドマスター〟に用件を伝えて来る…ルイーナが問題を起こさん様見張ってくれ」
「え、えぇ!…分かったわ!」
俺の言葉にそう、何処か不安になる様な返事をするアイリスへ後を任せ、俺はギルドの階段を上り…〝ギルドマスター〟の執務室へと足を運ぶ。
――コンコンコンッ――
「〝入れ〟」
そして…ノックに帰って来たその言葉にドアに手を掛け、中に入ったその瞬間。
――ヒュンッ――
俺の右目の直ぐ間近に短剣が突き付けられ…場の空気が凍る…しかし。
「相変わらず〝冗談〟のセンスは人並み以下だな…〝ヴォーレル〟ギルドマスター…」
「ほぉ?…何なら〝冗談じゃなくしても良い〟ぜ?…〝ロクデナシ〟のレイド?」
俺とその場に居る中年の男は一切動じる事無く…昔から何一つ変わらないやり取りをして席に座る。
「相変わらず〝ビビんねぇ〟なぁテメェは……つまらん」
「前線を退いたお前にやられる程怠けちゃいない」
俺がそう言うと、ギルドマスターは俺の身体を眺め…そして面白そうにその手の短剣をテーブルに投げ置く。
「ハッ…餓鬼が舐めた口を聞く…と言いてぇが成る程…確かに今のテメェは昔とは見違えるレベルに〝成った〟な…2年間何処にも情報が回らなかったのはソレが理由か?」
「まぁな…悪いな」
「何、構いやしねぇよ……それで、どうだ?…〝イケそう〟か?」
「……昔よりは」
俺とヴォーレルは互いにそう言い…少しばかり沈黙する…ヴォーレルは恐らく知っているのだろう〝俺の今までの経緯〟を…その視線に嘲りはなく、ただ懐かしの旧友へ向けるただただ純粋な呆れをだけ、俺へ向けていた。
「不器用なやり方だな、全く…」
「……ソレは一先ず置いておけ…今回お前に会いに来たのには理由が有る…先日滞在していた〝村〟がオークキングの襲撃を受けた」
その視線を振り払い、俺は本題に入り口を開く…するとヴォーレルは、俺の口から語られる報告に顔を顰め、俺に問う。
「ッ!……ソイツァ災難だったな…被害は?」
「村の被害は軽微だ、死傷者も何とか零人に抑えた……だが、俺の居た村に来るまでに近隣の村が襲われていたんだろう…装備の質が良かった」
「……それで、何が気になるんだ?」
その問いに対して俺は、1枚の〝羊皮紙〟にソレを〝転写〟する…ソレは。
「〝人間〟の足跡か?…コリャァ?」
獣の足とは掛け離れた、人間の、人間の文明が生み出した〝靴の跡〟…。
「少なくとも〝四足〟系の魔物では無い、小鬼程小さく無く、オーク程に大きくも無い…足跡の大きさから身長は〝178〟cm、体重は58キロ…推測出来る〝犯人〟像は〝獣人を除く人間種〟か…〝魔族〟の類だ」
「ッ……」
ヴォーレルの呟きに俺は肯定し、自身の推測を告げると…ヴォーレルはその眉を寄せ、その足跡を睨む。
「飽く迄も〝可能性〟だ、絶対にそうとは言い切れない…だがオークキングを先導し、村々を襲い、人間を殺し回る様誘導していたのが知能の高い〝魔族〟だとすれば…百匹に届く豚鬼の軍が…今の今まで誰にも見つからなかった事にも少なく無い説得力が付くだろう…問題は…だ」
そして、俺は続けて…ヴォーレルの睨む〝足跡〟の写しに指を立て、ヴォーレルに言う。
「この〝足跡の主〟を探そうとしたが、痕跡は既に〝消されていた〟事だ…匂いも、魔力も、汗も、何もかも…追跡も分析も出来ない程に〝薄れていた〟」
「……じゃあまだその村が襲われる可能性が有るって事か」
俺の言葉にヴォーレルは少し考え、そう言う…確かにその可能性は十分に有る…だが、ソレは良い。
「それはもう既に対処している…お前に頼みたいのはこの仮定〝魔族〟の追跡だ…相当に危険な依頼になるだろう…使うならA以上の冒険者を使え」
俺がそう良い、硬貨が詰まった麻袋をテーブルに置こうとすると、俺の手を押し戻しヴォーレルは言う。
「……OK、そんじゃあ此奴は〝冒険者ギルドからの依頼〟として処理しとくぜ…用件はソレだけか?」
そして、自然と話題は移ろい…仕事から〝雑談〟へと変わる会話の中で、ヴォーレルは俺へ視線をやる。
「……あぁ………いや、あと1つ…久し振りに茶でも飲むか…〝ヴォーレル〟」
俺の言葉にヴォーレルは口端を少し上げて答える。
「……ハッ、俺としちゃ酒のが有難えんだが…此方も仕事中だからな、茶で我慢してやる」
そんな軽快なやり取りに、俺が腰を上げ…茶を淹れて来ようとしたその時…。
――『〝――――〟!!!』――
どうやら階下で〝問題〟でも起きたのか…下が騒々しく成り始める。
「……ハァッ、どうやらダチとのんべんだらりとは行かねぇか…仕方ねぇ、どうせ資金繰りに数週間は此処に居るんだろ?」
「嗚呼、ならまた今度酒でも飲むか」
「良いねぇ、美味い飯屋が出来たんだ…其処に連れてってやるよ」
その喧騒に俺達は面倒臭さを感じながらも、腰を上げ…喧騒を収めに現場へと向かうのだった…。
「――今何て言ったのかしら、貴女?」
「――何じゃ、物わかりの悪い小娘よな?…妾の〝レイド〟は今、此処の長に話をしている最中だと言ったのだ…其処な小娘に幾ら急かしたとて無意味だと言っておる」
そして、階下で繰り広げられる〝仲間と小娘の争い〟を目にしたその瞬間…面倒事の〝正体〟を知り…俺は心の中で大きな溜息を吐くのだった…。