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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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新たな旅の始まり

「ほーれほれほれ、怪我人は此処に運べーい♪」


快活な声に、幾人もの怪我人が其処へ運び込まれる…その数は多く、その多くが重傷、或いは致命傷の者達ばかりで有った。


「コレで全員かえ?…他に居るなら申し出よ!――骨折、壊死、病、切り傷、擦り傷、ささくれ!――妾の術理で一緒くたに治してやろう!」

「この娘で最後だ」


そんな彼等の中に割り込む様に、一人の男がその手に少女を抱え、彼女の前に立つと…月の様に白く冷たい彼女の顔に熱と赤みが灯る。


「戻ったかレイド!……どうじゃったあの魔物共は?」

「大した脅威では無い…が、妙な点が幾つか有った……その話はまた後でだ、早く治してやれ」


その男は素っ気無くそう言うと、その場から背を向ける…その言葉にその美女は仕方無いと言うふうに呆れた顔で男を見ると、その手を怪我人の集まりへと向ける。


「全く…彼奴め、折角此奴等から今までの謝礼をふんだくれる機会と言うのに―――〝良いか貴様等〟」

『ッ…!』


その視線は、先程の柔らかな物とは一転し…何処までも冷たく、針の様に鋭い〝冷静な怒り〟を秘めていた。


「奴に取り巻く〝悪評〟を嘲るのは良い、奴とてソレを知っていてそうしたのだからな…しかし、奴の無干渉を良い事に〝好き勝手〟をする事を赦す程、妾は〝優しくない〟…然と心得ておけ」


その美女はそう言い、その身体から放たれた魔力で人々を癒すと…その冷たい視線を彼方に過ぎ行く男へと向けて、その場を去る…。


ただ一度も振り返らぬ〝彼等〟を…彼等に救われた〝村の人間〟達は呆然と見送るしか無かった…。



「――カッカッカッ、良い様じゃのう御前様よ!」

「――あまり脅かしてやるな」



○●○●○●



「へぇ?……〝彼奴〟、そんなとこに居たんだ?」


不穏な空気、満ちる禍々しい瘴気が薄暗がりに照らされたか細い蒼灯に一人の〝道化〟を映し出す…その道化は跪き、暗闇の彼方…荘厳な玉座に座する〝主〟の声を拝聴し…肯定する。


「えぇ、えぇ…間違えよう筈が有りません…〝レイド・バルクレム〟…元〝勇者パーティー〟所属…〝万能〟のレイド…この目で確かに見ました…〝主〟よ」

「ふぅん……うん、良くやったよ〝クラウロス〟」


その言葉にクラウロスと呼ばれた道化は歓喜に震え、しかしその歓喜を表に表さぬ様に、努めて平静に次なる指示を仰ぐ。


「有難き御言葉……して、如何なされましょう?」


その問いに暗がりの彼、或いは彼女は少し考える様な気配を醸し出し…独り言の様に呟く。


「そうだねぇ…最近また〝勇者〟達に〝魔将〟が取られたよね?」

「ハッ…討たれましたのは〝処刑人〟ブルトン様で御座いましたね」


道化の問いにソレはそうだと言う様に思考の海から立ち返り、話を続ける。


「そーそー、ブルブルね…と成るとコレで〝四人〟…此方の駒は取られた訳だ…なのに相手側は未だに〝死者0人〟…コレってさ、ちょっと〝不味い〟よねぇ?」


その言葉は飄々としている風に見えて、しかし…眷属たるクラウロスは、その声の纏う偽りの奥…冷酷で打算的な本質を理解し…顔を硬くする。


「……仰る通りかと…」

「魔王様が従える〝魔王軍〟…その指揮を任された〝12人〟の〝魔将〟…そんな彼等が高々数人の人間相手に討ち取られ、一匹と殺せず…ソレを四度も繰り返す…魔王様は寛大だが、一度線を超えると〝容赦が無い〟…僕達の身も危険に成る…分かるよねクラウロス君」


聡明な道化は、その主が問おうとしている言葉の意味を瞬時に弾き出し…その問いへ答える。


「……多少身の危険を犯してでも、〝戦果〟が求められる…で、御座いますね?」

「そのとーり!…流石クラウロス君理解が早い♪」


すると、その声の主は優秀なペットを褒めるように優しさの皮を纏い、眷属を褒める……そして、直ぐに話を戻すと…クラウロスへ〝悪巧み〟を打ち明ける。


「〝レイド〟は確か…〝追放〟されたんだっけ?…人間共の世間的にも彼の地位は低く、彼を虐げる者は多い……そして彼は〝勇者の友〟らしい…〝此方側〟からすれば、実に美味しい付け入る隙だと思わないかい?」

「……〝此方に取り込み〟…〝戦力〟にすると、言う事でしょうか?」

「そう!――彼を仲間にすれば、〝魔王軍(此方側)〟は重要な切り札を手に入れる事になる」

「成る程……そしてその〝戦果〟を魔王様に報告すれば、我々の価値を示せる訳ですね…流石の慧眼で御座います、主様」

「そんなに褒めないでよクラウロス君♪――そーいう訳だから、その辺の〝策略〟は任せても良い?」

「ハッ…必ずや御期待に応えてみせましょう」


二人の声はその、不気味な空間に響き渡り…その声の木霊だけが、不気味に暗闇を彷徨い歩いていた…。




●○●○●○


――ザッザッザッザッ――


「……」


自身が標的と成った事等いざ知らず…レイドは草原に敷かれた道を進み…目的地へと向かっていた……〝無言〟で。


「………」


その数十歩離れた場所に居るのは、一人の少女……その少女はまるで、好奇心に充てられて来た猫の如く、静かに男の背後を追跡し…しかし、其処から先へと進もうとはしなかった。


「――何しとるんじゃ?…お主?」

「――ヒニャッ!?」


そんな彼女は、突如…己の背後から響いたその声に驚き飛び退く…其処には金髪の色白い肌、美しい黒のドレスに身を包んだ絶世の美女が、まるで珍獣でも目にするような視線で彼女へと問うていた。


「数日前に会ったあの時は野豚もかくやと言う勢いで迫っておったろうに、今ではまるで借りてきた猫の様に臆病な変わり様…全く不思議な奴よな」

「だ、だってルイーナさん…は、恥ずかしくて…!」

「……はぁ?…恥ずかしいじゃとぉ?……ッ!……クククッ、そうか、そうか…お〜い〝レイド〟!…ちょっと戻れ!」


その答えにルイーナは一瞬呆けるも、その直後…まるで何か悪戯を思い付いた悪童の様にその顔を歪めると、先を行くその男を呼び止める。


「?…何だ、ルイーナ?……アイリス、お前も何をしている…早く来い」


男はその声に振り返ると、眼の前に広がる姦しやかなトラブルに小首を傾げてそう言う。


「え、あっ…ごめ――」


その言葉にアイリスが立ち上がろうとした直後…その身体から力が抜け、アイリスはその姿勢のまま動けなくなる…ソレに驚くのも束の間、ルイーナがまるで困ったと言う風に彼女を見て言う。


「それがの〜、妾とした事が此奴の捻挫を治し忘れておったらしい…今頃になって痛みだしたと言うのじゃ…貴様が抱きかかえてやれい」

「なァッ!?」


その言葉にアイリスは爪先から頭頂部まで赤くしてそう声を上げる…ソレに対して男は、怪訝そうにルイーナを見て、冷静に問う。


「…お前が治してやれば良いだろう」

「気が乗らん!…貴様が妾を撫でてくれれば考えてやろう!…無論、妾が満足するまでな!」

「……ハァ…後で「今直ぐじゃ!」…」


しかし、その問いに帰って来た言葉に何処か呆れた溜息を漏らすと…来た道を戻り、アイリスの前に立つ…そして。


――ガバッ――


「ッ!?〜〜〜!?!?」

「……行くぞ」

「……うむ、そうじゃな」

「……何故怒る」


赤毛の少女を抱き抱え…また、目的地へと向けて歩き出したのだった……少し不機嫌に成った精霊の姫と共に。

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