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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第二章:無名と迷宮と天秤
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鉄の街と迷宮の影

――ガチャッ――


「「「「ッ!」」」」


緩やかな空気が流れる応接室、そのの扉が開くと同時に俺達は音の先に視線を向ける。


「……申し訳無い、仕事に追われていてな」


開口一番に謝罪を口にし、応接室へ一歩を踏み出すその〝男〟はそう言い俺達を見渡し…そして、その視線を俺へ向ける。


鍛えられた強靱な肉体と、意志の強い金の瞳…硬く厚い茶髪も相まって、その若さで有りながら長年支配者として君臨して来た〝長〟の様な威圧感が自然と発せられて居る。


この男こそが、鉱山都市アガレスの領主…イゴール・ドルク・アガレスその人なのだろう。


「――お互い、仕事に無駄話は好くまい…早速本題に入らせて貰おうか」


男はそう言うと、俺達の対面に腰を下ろし…俺をじっと…観察する様な視線で見貫きながら、そう口にした。



○●○●○●


――カチャッ――


アレキサンダーが紅茶を用意する側で、俺は眼の前の〝噂の男〟を観察する。


「――さて、先ずは軽い自己紹介でも済ませよう…知っていると思うが、俺は〝イゴール・ドルク・アガレス〟…この街の長、領主をしている男だ」


ソレ(観察)〟をしていたのは、その男も同じだったのだろう…男は俺の名前を聞いても顔色一つ、緊張一つ見せず…その、無感情過ぎる〝蒼の瞳〟で俺を捉えていた。


――カチャッ――


「〝レイド・バルクレム〟…経歴は省く、態々俺へ指名依頼を出したんだ、〝色々〟と調べは着いているんだろう」


そして、簡素な自己紹介を終えると沈黙し…己の隣に張り付いている美女等へ視線を向ける。


「妾は〝ルイーナ〟…此奴の〝契約精霊〟じゃ、宜しくの人の子よ」

「私はアイリス、Bランク冒険者に成ったばかりだけど、それなりに腕は立つわ…宜しく」

「ぼ、僕は〝アンフォート〟と言います!…その、まだ冒険者に成りたての新米ですがよ、宜しくお願いしますッ!」


そして最後に若い、まだ成人もしていない程の童がそう自己紹介を締め括り、レイド・バルクレムが俺へ問う。


「自己紹介は済んだ…早速〝依頼〟について話を聞かせてもらおうか」

「…そうだな」


その言葉に頷き、俺はアレキサンダーから資料を受け取り、彼等の前に差し出す。


「――〝鉱山内で行方不明者増加〟…その〝調査隊〟に参加して欲しい…_と聞いたが、依頼の目的は〝行方不明者の救援及び回収〟と〝行方不明の原因の究明〟…コレで間違い無いか?」

「――嗚呼…その認識で相違ない」


その資料を受け取り、内容を確認しながら此方へ問うてくるその男の所作は、先程の冷酷な機械の様な無機質さとは縁遠い、深く吸い込まれる様な〝優雅〟を帯びていた。


「――資料には、問題発覚当初既に〝Cランク冒険者〟のパーティーを調査に借り出したと報告が有るが…そのパーティーの情報は有るのか」

「その中に同封して有るが…何か問題が有るのか?」

「いいや…ただの〝確認〟だ……斥候が1人、狩人が1人、剣士1人、魔術師1人、神官1人…全員がCランク、経歴は…ふむ……冒険者登録してまだ1年で…」

「――ほほう、期待の新人だった訳かの!」

「凄いわねその子達、大体EランクからCランクに上がるには平均3年は掛かるわよ?」

「へぇ…ならこの人達は凄く優秀だったんですね」


俺の問いにそう返しながら、レイドとその仲間達は感心した様に前調査パーティーの冒険者達を称賛する……だが。


「――経歴は優秀、期待の新人として皆からも注目の的…一端の冒険者として実力を保証されるCランクへの駆け上がり…優秀は優秀だが…このパーティーに調査隊を任せるのは間違いだ」

「…その理由は?」

「経験が浅い、少なくとも市街周辺での聞き込み、行方不明の起点になる場所の割り出しが済んだ時点で依頼満了させるべきだった…たらればだが、この手の手合は自身の腕に絶対の誇りを持っている、事実ソレで通用していたらしい…だが、熟達した冒険者は自身の技量を正確な単位で把握している、このパーティーには其処を指摘する参謀が不足していた様に思える」


男はそう言い、静かに俺を見る…その言い方はまるで、彼等の末路を見透かした様に〝絶対的〟な様相を帯びていた。


「……彼等は〝死んだ〟…と?」

「十中八九そうだろう、他の行方不明者も先ず死んでいる可能性が高い…生きていても、先ず間違いなく何処かに〝異常〟が見られる筈だ」


男はそう言い、更に資料の1枚……行方不明の地点として尤も〝可能性が高い〟場所を指差し、俺へ言う。


「この〝鉱山〟は他の鉱山と比べて資源産出が多い…だが、同時に本来長い年月を掛けて形成される〝精霊種〟の出現が頻発している…〝魔力の豊富〟な〝空間〟が何処かに有る…そう過程すると、〝何が原因〟だ」

「……ッ〝迷宮(ダンジョン)〟か!」


推測から紡がれた情報を咀嚼し、俺はその条件に合致した〝事象〟の存在を紡ぐと、レイドは淡々と続ける。


「飽く迄も〝推測〟だ、〝確信〟では無いが…その可能性を頭に浮かべておく必要が有る……調査隊の規模を大きくしたのは正解だった…仮に〝迷宮〟が原因だった場合、存在発覚までに相当の民間人が被害を受けていただろうからな」


――パサッ――


「――依頼の内容は把握した、だが調査隊への参加には二つ条件が有る」


資料を読み終え、レイドはそう言うと…俺へそう言い条件を口にする。


「一つは〝報酬額の値上げ〟…〝迷宮の可能性〟が存在する以上、ソレに見合う報酬が無ければ冒険者から不満を買うだろう」

「分かった…もう一つは?」

「調査隊各位へ〝情報を通達〟しろ、飽く迄も〝迷宮の可能性有り〟としてだ…推測段階の物だと念頭に置かせて伝えろ…予想外の事態に取り乱されては困る」


レイドはそう言うと、俺の返答を待つ様にじっと見据える…その視線に。


「―――分かった…〝条件を飲む〟」


俺はそう言い、レイド・バルクレムへ右手を差し出す。


「――了解した…その依頼、謹んで承る」


その右手を、レイド・バルクレムは了承の言葉と共に握り返し…俺達の対面は終わった。

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