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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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孤独の男

「ッ…嫌よ、私は絶対に貴方とパーティーを組む!」

「……無理だな、パーティーを組むには互いの合意が必要だ…そして俺は誰とも組む気はないとハッキリと公言している…以上の理由でお前が俺と組む事は不可能だ」


俺はそう言い、目の前の娘の頼みを拒絶する…しかし何故か、その小娘は頑なに引き下がらず、感情的に俺を誘う。


「このままじゃ貴方は永遠に〝ロクデナシの追放者〟と呼ばれるのよ、なのに何で動こうとしないの!?」

「他者からの評価等、生憎と気にした事は無い…それに俺が〝無能〟である事は俺が一番良く知っている」

「ッ――違う!…貴方はだって、本当は優しい人じゃない!」


そんな小娘の抗議に対して、俺は淡々と事実を返すが…それでもその娘は退かない…それどころか尚更に俺へと迫る……全く。


『――君が来てくれないなら、僕は〝勇者〟に何か成らない!』


――何処かの〝馬鹿〟を見ている気分だ……頭が痛い……。


「ハァ……良いか、他者からの批評は、ソレが何で有れ表面的であれ事実だ、俺は〝ロクデナシ〟だ…決して善人では無く、打算的で、利己的で…〝英雄〟と呼ぶに値せず、勇者と並ぶ〝才能〟等持ち合わせていない……所詮、ただ生まれた場所が同じで〝友人〟であっただけの凡才だ…だから俺はその批評を否定する気は無い…肯定する気も無いがな」

「ッだったら――」


俺は娘へそう言い、何とか諦めさせようと可能な限り丁寧に説明する…しかしそれは逆に〝火に油を注ぐ行為〟だったらしい…俺の言葉を聞き未だ執着するその娘に、俺は厳しく告げる。


「しつこいぞ〝アイリス〟…お前は何故俺に執着する、お前と俺とは大した縁も何も無い筈だ…幻想に憧れ、独り善がりに俺を掻き乱そうとするな……〝迷惑〟だ」

「ッ〜〜!……私は……ただ…!」


ハッキリとそう言うと、少女は声を詰まらせ…震えた声を鳴らし目を伏せる…その様は少し…俺の矮小な良心に突き刺さった。


「……今日はもう帰れ、そして頭を冷やして現実を見ろ…お前が抱く目標は、所詮〝幻想〟の域を出ない……追い掛けるには〝不相応〟だ」


この空気を長く続けるのも忍びなく、俺はそう言ってその娘に帰るよう促し…その娘の背を見送る……ハァ。


「――全く……〝下らない〟」

「『――辛辣じゃの〜レイド、あの小娘泣いてしまうぞ?』」

「……ルイーナ…帰ったんじゃなかったのか?」


そして俺は独り、そう言うと…予想外にも片付ける前のテーブルで、1人の女…精霊ルイーナが紅茶を飲みながら俺へそう言う。


「『母上様から許可を貰ったのじゃよ、後2時間もすれば帰るつもりよ』」

「……そうか…話は分かったが流石にその砂糖を使い過ぎるのは止めてくれ、貴重な調味料だ」

「『砂糖は入れれば入れるだけ美味いからの!』」

「なら持参しろ、精霊なら其れ位出来るだろうが」


俺はそう言い、テーブルの砂糖壺から角砂糖を1つ取り出し口の中に放り込む…シャリッとした食感の後、舌全体を無機質な〝甘い〟が包み込む…甘い物は余り好まないが、今この状況では苦々しい胸中を癒やしてくれる甘味は心地良い。


「……あの娘に言った訳じゃない」

「『分かっておるよ、儂等精霊は人の心が読める故な…相変わらず自己否定の激しい奴じゃ、少しはあの戦士小僧の傲慢さを身に着ければ良かろうに』」

「自己否定では無い、正確な自己分析の結論だ…俺に才が無い事は事実だ、俺が他者から評価されている事柄は概ね事実だ、俺が追放された事も、この地位に居る経緯も事実だ…否定する要素は無い」

「『少なくとも、貴様の中身は噂に有る様な〝ロクデナシ〟とは違うでは無いか』」

「いいや……その評価も正しい……〝合理的〟で有ろうとした、〝冷徹に事実に則する〟と決めた…その癖、自身の〝在り方〟を貫き通す事が出来ない俺は確かに〝半端者〟で、〝ロクデナシ〟だ…冷徹で在ると決めたのなら、〝人情〟を持つべきでは無い」


俺の言葉にルイーナは押し黙り、俺へその紫の宝石の様な瞳を向け、絹の様に滑らかな声で問う。


「『……だから〝孤独〟を選んだのか?』」

「……そうだ、だから〝孤独〟を選んだ」


今出来る最善の選択を選んだ……それは、悔いる事無く断言出来る。


「『ふむ………そうか』」

「……そろそろ寝る、お前も早く〝女王〟の下に帰っておけよ」


そして俺は寝室の古ぼけた寝具へと歩を進めた……その時、ふとルイーナの声が耳に届く。


「『そう言えばレイドよ…どうやら今、〝村〟の方で騒ぎが起きているらしいぞ?』」

「……そうか」

「『何処ぞの餓鬼共が魔物共の巣でも突いたか……何十匹の豚鬼共と小鬼共が村に攻め込んで居るらしい』」

「………」

「『村の自警団とあの小娘が入れば普通の豚鬼小鬼の群れ程度なら鎮圧出来ようが…この群れの数じゃ、恐らく上位種の豚戦士(ハイオーク)、下手をすれば〝豚鬼王(オークキング)〟が居るかも知れんのう?』」


その言葉に、俺は脚を止める…心底態とらしく緊急事態を告げるルイーナの、その〝意図〟を理解して…俺は今日何度目かも分からない溜息を吐き出す。


「『そろそろ、〝此処に居る〟のも潮時じゃろうて…のう?』」

「……俺にあの娘を〝連れて行け〟と言うのか?」

「『さぁての…ソレを決めるのはお前じゃろう…尤も、儂が思うに高々小娘一匹連れた程度で〝やられる〟ならば…そもそも〝無謀な挑戦〟だったと思うがの〜?』」

「………成る程」


悪戯っぽく此方を見る、そのルイーナの笑みに俺は諦める…こういう時のルイーナは何が何でも俺を引きずり出そうとする…此処で拒否してもどうせ何かと理由を付けて引っ張ってくるだろう。


「――……良いだろう、その挑発に乗ってやる……だがお前も付いて来い、俺を焚き付けたんだ、怪我人の治癒位は手伝え」

「『クカカッ、無論そのつもりよ…来るなと言われても行くわ♪』」


俺がそう言うと、ルイーナはその顔を嬉しそうな笑みに変えてそう言った。

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