焼け焦げた大地の上で
――ブォンッ――
『竜が力の象徴と謳われるのは、その心臓に由来する…魔力を生成する〝魔力炉〟ソレが竜の力の源泉だ』
竜の羽を仰ぎ…ソレは空を反転…〝燃え盛る血の海〟に、再び飛び込む…。
『生物の形には意味が有る…亀の甲羅、兎の耳、牛の角、鳥の翼…其れ等はその種が長年を掛けて構築した〝機能〟で有り…そのどれもが例外無く〝再生と破壊〟によって生み出された…〝進化の工程〟だ』
――ザブンッ――
飛沫を上げて、赤い海は異物の侵入を拒む…その鱗を、肉を、骨を…しかし。
――ゴッ――
其れ等を焼き払う様に…ソレはその身体から炎を噴出させる…その、溶け、剥がれ…破壊された身体を修復させながら…。
『思い描け〝ヴィゴー〟…お前の望む姿を』
「――Guururu…♪」
赤く揺らめく水面へと、突き進んだ…。
●○●○●○
――ザッパァァァンッ――
海面を、巨大な水の柱が揺らす…その飛沫を浴びながら…肉を焦がす〝化身〟は…その昏い双眸に〝ソレの姿〟を見た…。
――グルルルルルゥ…!――
ソレは、全身を黒い鱗で覆った〝竜〟…しかし、その竜の五体に生え並んだ〝守る為の鱗〟は、その機能を放棄し…鋭く、全ての敵を穿ち殺さんとする〝穂先〟へとその姿を変えた…。
その様はさながら、全てを逆鱗で覆ったかの様な、異様な〝姿〟…そして、化身は空洞の心臓を鷲掴みにされたかの様な、そんな怖気を覚えて後退る…。
――ゴオォォォォッッ――
纏う魔力は先程とは変わり無い…だが、その視線が、姿が立ち振舞が…理性無き骸の異形…その、微かに残った理性の残滓へ警鐘を送る。
――〝何か妙だ〟――
――と…しかし、その警鐘は白痴の異形を思い留まらせるには至らず…〝地獄の化身〟は、怖気を絶叫で覆い隠し…竜と人、その紛い物へ腕を振るった…。
――ズオォォッ――
巨腕は、その質量を誇示する様に重く太い風切り音を奏で…空に佇む〝竜擬き〟を叩き落さんと迫る…。
「――Garu…」
しかし、竜擬きは…その巨腕を避ける素振りも無く…ただその場に佇み、動かない…結果2つの距離は見る見る内にその差を埋め…遂には――。
――ズッ!――
その巨腕が…竜の紛い物へと触れた…。
化身は〝幻視〟する…その一撃が紡ぐ、次の〝光景〟を…叩き落されたソレが、全身の骨を砕けさせ、赤黒い血の海に落ち…二度と浮かび上がっては来ない…その〝光景〟を。
「『………?』」
だが可笑しい、幾ら経とうと…その音は、その砕ける癇癪が腕を伝っては来ない…ソレに気が付いた化身は、その頭蓋を…先程まで〝竜擬き〟が居ただろう場所へと向け――。
――ズパァァンッ――
凄まじい〝衝撃〟と共に…自身の腕が斬り裂かれる光景を目にした…。
「『―――………※※※※※※!?!?!?』」
その光景に、〝虚無〟と〝混乱〟…そして、〝驚愕〟と〝苦悶〟が刹那混ざり合う…何が起きた、何をされたのか…ソレは理解出来ずに叫び哭く…その雑音の大反響の中――。
「……Gafu♪」
その爪を振るいながら…ソレは満足気に〝頷き〟…遥か天高くへと昇った…。
●○●○●○
「〝Gauu〟…〝Guru〟…〝Gura〟」
鳴き叫ぶ〝骸〟を見下ろして…〝ソレ〟は紡ぐ……己では無い者の〝知恵〟を。
『〝我、魔導を求むる者〟、〝我、魔導を拓く者〟』
ソレは、その知識の持ち主が見た…偉大なる〝賢者の御業〟…。
「〝Garuru〟…〝Gyau〟…〝Gafu〟」
『〝天秤は傾かず〟、〝対価と代償は正しく果たされん〟…〝捧ぐるは我が魔力〟、〝求めるは原始の焔〟――〝その紛い物〟』
ソレは、その記憶を元に造られた〝紛い物〟…似ても似つかず、拙く脆く…しかし。
「〝―――Gau〟…〝Guraa〟」
『〝偽竜の太陽槍〟』
天上の目を惹く程に、眩い輝きを放っていた…。
――――
――――――
――――――――
――スタッ…――
「『……』」
燃え滓が塵に成り果て、風に晒され消えて行く…焦土の乾いた土が…此処に生命が存在しない事を教える…。
「『―――♪』」
〝充足感〟が満ちる…巨大な〝骸〟を眺めながら…ソレは勝利に酔う…しかし、その美酒は直ぐに舌を乾かし…ソレは何れ来るだろう〝飢え〟を見て…その視線は――。
――ザッ……――
焦土の先…煤けた防壁から、這い出してきた…〝脆き戦士達〟へと向けられた。
●○●○●○
――ジッ――
誰も…そう、誰も…その〝竜の人〟の視線を受けて、動く事は出来なかった…。
「…ッ……」
その視線に込められた…強い〝戦意〟は…ソレが〝敵足り得る〟事を証明し。
「……貴様は…〝何方〟じゃ…!」
「『………』」
その〝瞳〟に映る〝此方を観察する〟様な視線は…ソレが、〝かつての仲間〟である可能性を示していた…。
――「『………』」――
人と、人成らざるは互いに見合い…静止し、膠着する…何方が動くのか、どう動くのが正しいのかを探る様に…ただ静寂だけが…虚しく過ぎ去って行く…。
……その時だった。
――〝ブゥゥンッ〟――
「『ッ!』」
「ッ……アレは…」
ふと、その竜の人…その腕を這う様な奇妙な〝紋様〟が現れ…静寂は微かな緊張で満ちる…彼等人間は、その変化により強い警戒心を抱き…その竜の人がどう動くかを必死に捉える…。
――ペタッ…――
「『……Gauuuu……』」
しかし、その緊張とは対極に…その竜の人は、腕に這った紋様をなぞり、小首を傾げて食い入る様に見詰める…やがて、その視線は腕を離れ、空中を彷徨い…〝彼等〟の方を向く……そして。
「『――〝Gaa〟♪』」
刹那にして…その〝竜の人〟は…その場から消え去り…背後から、その〝脅威〟の鳴き声が私達の耳に届いた…。




