例え汚名を背負っても
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「――騎士と言うのは随分と〝多忙〟らしいな」
草を踏む音、金属が微かに擦れ…震える音、息を呑む音…〝夜〟と言うのは何処もかしこも静かで、ソレ故に微かな音にも耳が冴える。
「――気付いていたのか…〝レイド・バルクレム〟」
「気付く?…何をだ、お前が俺の後を追っていた事か…お前が俺と二人になる機会を探っていた事か?…それとも、お前が〝俺を嵌める〟為に…〝公務〟に〝私情〟を挟んでいる事をか?」
しかし、そうでなくとも感じ取れる…何故なら俺は〝ロクデナシ〟で有るからだ、悪評語るに事欠かない〝屑〟の烙印を背負っているからだ…ただの〝悪意〟…その1つや2つを顔皮1枚覆った程度で見抜けぬ程、俺は〝純粋〟では無い。
「〝カーネリア・リビア・クロムウェル〟…〝イルズ王国第八騎士団団長〟…クロムウェル家の長女に生まれ、優れた剣の才を秘め、若くして〝レイテバラの反乱〟にて多くの武勲を上げた〝戦乙女〟……華やかな経歴だ、永きに渡る〝軍役〟に於いてこれ以上無い〝スタート〟と言う訳だ」
その言葉に嘘は無い、俺は心からそう思う…しかし、しかしだ…きっとそれでも俺の称賛は、〝空っぽ〟に聞こえた事だろう。
「……随分と、調べ上げた様だな」
此処まで言えば、カーネリアも理解したのだろう…相手が自身の腹の底を理解している事に、だから女は礼節有る〝騎士〟の仮面を外し…ただ憎悪に燃える〝報復者〟として俺へそう問う。
「〝悪評だらけの冒険者〟に指名依頼を送ってくる様な人間を警戒しない馬鹿は居ないだろう?…事実、お前は〝あの〟クロムウェルの家系だ」
ソレに俺はそう答え…月下の森が生み出す〝リング〟で…報復者と相対する。
「――だが、俺としても都合が良い……〝セレナーデ〟の事について、お前達に一言苦言を呈するつもりだった――」
そして、俺がセレナーデの名を呼んだ…その瞬間。
――ギィィンッ――
鈍い音を立てて、月光に照らされた〝剣と剣〟が火花を散らす。
「貴様がッ…〝セレナーデ〟の名を軽々しく口にするなッ…!」
「――俺にとって〝セレナーデ〟は〝セレナーデ〟だ…お前にどうこうと指図される謂れはないな」
相手の言葉にそう返す…ソレが癪に障ったのか、カーネリアはその剣を鋭く振るい…俺の口を黙らせようとする。
――ギィィンッ――
――ギンッギンッ!――
「――流石〝戦乙女〟…その若さにしては中々良い腕だ、堅実で基本に忠実で…実に〝規則的〟だ…嘸や〝師に恵まれた〟のだろうな」
「ッ……何が言いたいッ!」
剣に触れ、剣を知り…俺はそう言う…努めて平静を装っていたつもりだったが、どうやらカーネリアは何かを感じ取ったらしい…俺へ苛立ち紛れにそう告げる。
「――さぞ〝気分が良かった〟だろうなと言いたいんだよ〝小娘〟…未熟を〝怠慢〟と扱き下ろし、無神経に相手を逆撫でするのは楽しかったか?」
「ッ!?」
ソレに対して出た言葉はきっと、俺が今まで…決して〝秩序の人〟に紡いだ事が無い程冷たく、〝軽蔑〟に満ちていた事だったろう。
けれど、仕方無い……俺とて人間だ、〝怒り〟もする…。
「〝お前〟も、〝お前の父親〟も、〝母親〟も…〝質が悪い〟……〝善意の悪意〟程、厄介な物も無い…」
取り分けて、こんな連中には…殊更に。
「――〝セレナーデ〟に〝才能〟は無いと…お前達は突き付けてやらなかったんだろう?…でなければ、彼処まで歪んだ剣は生まれない」
〝技の無い剣〟…鍛錬の成果がまるで結び付かない〝剣〟…お粗末で児戯の様に力に任せた〝剣〟…己の武器を持たない〝剣〟…語るに到底口が足りん。
「――どうせお前等、〝才能〟が全てじゃ無い」と抜かしながら、あの娘に〝才能ありき〟の鍛錬を押し付けたんだろう?」
「ッ――そんな事…!」
「――なら、〝教導しなかった〟んだ…違うか?」
「ッ!…セレナーデには剣の講師を付けていた!」
「――〝大層な肩書き〟の〝英雄〟をか?」
俺の言葉に反論するカーネリア、しかしソレに更にそう返し…俺はカーネリアの反論を斬り捨てる…その顔が〝答え〟だ。
「――笑わせるな!…〝間違い〟は〝間違い〟だッ…ソレに気付きを与えるのが〝教導〟だッ!…ソレを〝踏まえ〟…〝手を取り導く〟のが師だッ!…貴様等はソレを履き違えたッ…違うか!」
「ッ私は――!」
「〝あの子の夢〟を応援したかったと!?――大概にしろよ小娘、ならば何故お前は一度としてセレナーデの剣を〝触れなかった〟…〝5年〟だ、彼奴はずっとこの5年間を〝孤独に模索〟していたんだ…〝知っていた〟筈だろうが!?」
剣の才を持ちながら気付かない筈がない、優れた師を持つならば多少の〝腕〟は伴う筈だ…だのに5年間、あの娘に〝変化〟が無かったのは単に――。
「〝お前達〟は娘を、妹を〝見世物〟にして居たんだ…この〝5年間〟…ずっとなッ」
仮にソレが故意ならば、ソレは〝邪悪〟だ…ソレが〝故意で無いならば〟…ソレは最も〝醜悪な邪悪〟だ。
「なぁ、おい〝戦乙女〟様よ…偉大な騎士団長様よ、言ってみろよ…その花畑の詰まった頭と、その吐き気がする程生温い〝御優しさ〟の詰まった口で宣ってみろよ…お前達は〝セレナーデ〟の味方ですと…全て〝あの子の為でした〟と…一言そう言ってくれれば俺は、一切の呵責無くお前達を殺し…〝彼奴〟をこの〝見世物小屋〟から救ってやれる」
人殺しの汚名さえ、喜んで背負い…彼奴の〝復讐すべき対象〟として、彼奴の剣を導いてやれる。
「さぁ、さぁッ!――〝言ってみろ〟!」




