疑いの末に答え有り
――カッ…カッ…カッ…――
「つまらんつまらんつまらんぞ!…彼奴め、妾等を放って一人でコソコソと…妾とのパスは繋がっておる故、この街を離れた訳では無いらしいが…ムムムムムッ!」
「ホント、何処行ったのかしらレイド…『適当に遊んでいろ』とは言われたけど…こうも姿が見えないと不安ね…」
すれ違う人々の視線を惹きつけながら、二人の美女は街道の小道を、店の中を見渡し誰かを探す。
一人は冷たく、不可思議な気配を纏い…しかし、その神秘的な謎めいた美しさをかなぐり捨て、稚拙な童女の様に頬を膨らませる娘。
一人は明るく、活溌の証左に発達した…漲る活力を四肢に纏い…しかし何処か心配そうな一人の娘。
気風は全く違うものの、仲良く街道を共に行く二人の美の少女達…その二人に、待ちゆく男どもは皆視線を奪われていた…尤も、その二人の探し人が誰なのかを知れば、その視線も消えるが。
「えぇい、止めじゃ止め!…妾等を放っていた罰じゃ、奴の財布に穴が開くまで遊び尽くしてやろうぞアイリス!」
「えぇ〜?…それは流石に「パフェ、洋服、アクセサリー」――それもそうね!」
そんな二人は広場に辿り着き…其処にも目ぼしい人物が居ないと分かるとそう言い、頗る良い笑顔で踵を返し、甘い香りの漂うカフェに足を運ぶ…。
――カチャッ――
その二人の娘を、人混みの中…取り分けて異彩を放つ〝甲冑の騎士〟が…何を思うのか、ジッと見詰めていた。
●○●○●○
――カランッ――
「――いやぁしかし、随分と嫌われてんなぁ御宅」
氷が溶けて滑り、硝子の器と小気味良い音を鳴らす…その音の後…怪し気な雰囲気の男が調子良く笑いながら、その視線を周囲に彷徨わせる。
――………――
その言葉を否定はしない、如何に頭の鈍い人間だろうと、明らかに自身の周囲のテーブルに人が寄り付かず、幾らかの視線と囁き合う声を聞けば、自身がどう言う扱いなのかを推し量るのは難しくない。
「……本題に入るぞ」
俺はそう言い、以前俺達にあの〝服飾店〟を教えた〝情報屋〟…〝蜥蜴の尻尾〟の一員を見ると、その男はパンケーキを口にほうばり、軽く手を振る。
「応さぁ…飯の種なら何時でも歓迎だぜ?…つっても俺等の本業は〝情報取引〟で、〝密偵〟は副業何だがね」
そして、そう何やら意味有りげに言う男へ俺は首を横に振りローブの男に言う。
「安心しろ、今回用があるのは〝本業〟の方だ」
「お、それならお任せよ…家の鍵の在処から国家機密事項まで、金さえ払えば何でも教えるぜ?」
するとその男はそう言い、楽しげに笑いながら懐から〝計算機〟を取り出す。
「――〝イルズ王国第八騎士団〟…その主要人物の〝経歴〟を知りたい」
そして条件を促す男に俺は偽り無く必要な条件を告げると、男はブツブツと独り言を呟きながらその計算機を指で弾く。
「〝個人情報〟か…と成ると機密保持の観点を無視する事に成るな…加えて主要人物と成ると団長及び副団長、一兵卒を除外した複数名…経歴だけならそうだな…〝全条件〟込み込みで〝300万z〟って所だ…詳細が知りたいなら〝600万〟ってとこだな」
そして、提示された値段は上物の装備なら一式は揃えられよう程の額…ソレを示す魔道具を片手に男は何やらニヤリと笑みを浮かべて俺を見ていた。
「…成る程」
「お?…案外冷静か?…大抵の奴は値段答えると文句垂れてくるんだがな」
ソレに対して、俺がそう言うとその反応が予想外だったのだろうか…男はそう言いぞんざいな物言いで昔の〝取引相手〟を思い出したのか冷ややかにそう吐き捨てる。
「〝情報を売る〟と言うのは繊細なバランス感覚を求められる物だ…〝1000万〟は出す気で居た」
「へぇ……良いね、分かってるじゃねぇの旦那」
そんな情報屋へ俺がそう返すと、彼は何処か楽しげで嬉しそうな様相を、悪賢い狐の様な笑みで覆い隠して言う。
――シャランッ――
「取引は成立だ」
「ん、OK……そんじゃ〝商品〟だな」
話しはトントン拍子で進み、男に金を渡すと、男は一瞥して頷き、懐の〝ケース〟に手を翳すと、その手に付けられた紫色の指輪と、男の手に伝う〝魔術印〟が淡く輝き…そのケースが〝カチリ〟と、音を立てて鍵を外す。
「……その魔道具は…」
「〝保管の異窓〟…家の組織専用の〝魔道具〟だ…家の〝アンダーボス〟御手製でセキュリティ抜群さ」
俺の疑問に男はそう返しながら…ケースの蓋を開くと、その中から〝丁寧に包装〟された資料が現れ、ソレが俺の前に差し出される…。
「〝契約魔術〟で、取引の遵守が義務付けられてる…中身の確実性は保証するぜ」
男の言葉に耳を傾けながら…俺はその資料を開き中の紙束に記された文字を読み進めていく……そして。
「成る程…〝騎士団長〟…〝カーネリア〟か」
その資料に記された〝人物〟の、その名と家族関係を把握した…その瞬間。
――カランカラーンッ――
小気味良いベルの音が鳴り響くと同時に、聞き覚えのある二つの声が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませ御客様…2名様でしょうか?」
「うむ!…苦しゅう無いぞ娘よ!…って何と!…此処におったのかえ御前様や!」
店員の言葉にそう声を弾ませ答えるルイーナは、店内を見渡したその時…部屋の隅に座る俺を見付け、アイリスと共に駆け寄って来る。
「あ、ホントだ!……って、その人確か…〝情報屋〟の…」
遅れて、アイリスも気付いたのだろう俺を見てそう言い…その対格に座る男を見るとそう零す。
「おう、ちっとばかし相談をな……そんじゃ旦那、俺ァもう行くぜ?…またの御利用、お待ちしております…ってな?」
その二人の出現に何かを感じ取ったのだろう…男は俺へそう言うと、フードを目深に被り…店員へ会計する様に言う…。
その男の居る入口を…俺は少し眺め…そしてソレを止めると、己の隣に座り騒がしい二人の小娘へ、その視線を向ける…。
無数に突き刺さる〝視線〟を無関心に斬り捨てながら…。




