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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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勝者に財を、敗者に罰を

「――〝レイド〟ッ!…やり過ぎだッ!」


ヴォーレルが居る、背にはズタボロに倒れ込むセレナーデが、衆目はただ事の成り行きを見守り…俺とヴォーレルに意識を割く…其処に、セレナーデへの嘲りは無い。


「……ヴォーレル、この決闘の終了条件は、〝何方か〟が降参、或いは気絶し、無力化された場合だけだ…その娘はまだ〝降参〟と口にしていない」

「ッ……お前…!」

「……ハァッ…仕方無い」


俺はヴォーレルの視線に溜息を吐いて構えを解き、ヴォーレルの背後に居るセレナーデの頭に触れる。


「〝眠れ〟」

「ッ――ま………だ………!」


セレナーデに呪いを掛け眠らせると…セレナーデは最後に、譫言の様に俺へ手を伸ばして足掻く…だが、極度に疲労した肉体では、程度の低い呪詛でさえ抗うことは出来ず、セレナーデは糸が切れた人形の様にその腕を地面に落とす……決闘の幕引きは、そんな呆気ない物で終わり…訓練場には誰もが口を挟めない…奇妙な沈黙が満ちていた。


「――それでは、俺は帰らせてもらうぞ…セレナーデへの説明はお前に任せる」


そんな中、俺は沈黙を打ち破り訓練場の出口へと向かう…その時。


――バシャッ――


何処かから投げられた〝酒〟が、俺の頭へと降り掛かる…ソレを皮切りに、石が、塵が、罵倒が嵐の様に吹き荒れ、俺へ向けられる…。


「この屑野郎が!」

「餓鬼相手に加減も知らねぇのか!?」

「ロクデナシ!」

「鬼畜外道!」


ソレ等一切の罵倒を、俺は無視し…その罵倒が消え果てるまで何も語らず、独り…宿の自室へと帰るのだった…。


「……だから言っただろうに」


結果としてこの決闘は、片や半殺しの苦痛を受け、片や悪評がより深まると言う…誰も得をしない結果と成り…俺は、この街での活動に大きく支障を来す事と成った…。



●○●○●○


――『――――ッ!』――


煩わしい…心地の良い暗闇に届く、何かの音を耳に…私はそう思う。


そして…何故、私は此処に居るのか…と、疑問が巡る…。


(確か…私は冒険者ギルドに居た筈…)


冒険者ギルドで、〝彼〟を見付けて…そして……!…。


(ッ――!?)


思い出した…己が何をし、何をされ、どうなったのか…疼く傷の痛み、血の味、冷徹な拳…無慈悲な〝視線〟…そして。


『――〝拙いな〟』


まるで吐き捨てる様に紡がれた…その、言葉……ソレ等が己の胸中に巡り、そして――。


「――セレナーデ!」

「…ッ!」


姉様の声に、目が覚める…其処は、私の自室で、周囲には父様が、母様が…王都に居る筈の姉様も皆、其処に居た。


「姉様…?……何故…」

「お前が昏倒し、意識が戻らないと聞いて戻って来たのだッ…〝一週間〟も目を覚まさなかったんだぞッ」

「え?……一週…間?」


その瞬間、私は自身の腕に仄かに輝く〝光〟に目を惹かれ…その光を捉える…其処には。


「―――あ…あぁッ…!?」


〝月と剣〟の紋様が刻まれ、私が認識したのを確認すると私の肌に滲んで消えていく…。


ソレが何を意味するのかを、私は知っていた…。


「――さぁ、セレナーデ…病み上がりだろうか答えてくれ…〝誰にやられた〟」


姉様の問いも、父様の言葉も、母様の声もさえ…私の耳には届かない…ただ。


「『〝止めておけ〟…〝セレナーデ〟』」

「あぁ…ぁぁぁぁッ…!!!!」


憐れむような、冷たい〝忠告〟を…今更に思い出し…私は…ただ呆然と、そう呻くしか無かった…。


○●○●○●


――パチパチッ、パチッ――


「……今日は一人で居させろと、そう言った筈だぞ…ルイーナ」


夜の森で俺は、焚火の炎を見つめながら…何もせず…〝無意味な時間〟を過ごしていた。


「――何、珍しく〝感情的〟な御前様を見逃すのは勿体無くてのう…ソレに、一応の報告はしておこうかと思っての…座るぞ?」


そんな俺の隣には、月の様な黄金の髪を備えた、雪肌の美女が立ち…腰を下ろしている俺へとそう告げる…ソレに俺は沈黙の肯定を示し、ただ揺らめく炎を無為に眺めていた…。


――グイッ――


「ッ……暑苦しいぞ、ルイーナ」


そんな最中、俺の胸に頭を押し付ける〝少女〟のルイーナに、俺は抗議の意を示す…しかし、ルイーナはその言葉を鼻で笑いながら、俺の腕を抱き寄せる。


「フンッ、妾は温かい…それに久し振りの〝二人きり〟じゃからの…アイリスめに勘付かれる前に、御前様で癒やされねばならん」

「……そうか」


その理解し難い理由に些かの疑問は有るものの、ルイーナがそう簡単に食い下がらないと知っている俺は、そのまま…ルイーナの気が済むまで、その通りにさせる…そうして静寂を二人、静かに享受していたその時…ふと、ルイーナが俺へ言う。


「……〝中身〟だけは治してやった…それでもかなりの間目覚めんがな、妾としては…あの小娘には良い薬じゃと思っていたんじゃがのう?」


……と。


「……〝契約〟は結ばれた、ソレそのものがセレナーデには丁度いい罰だ、ソレ以上は〝無意味〟だろう」


俺の胸に身体を押し付けるルイーナへそう返し…俺は、また暫く黙り込む…。


「……あの娘は必ずまた、御前様の元に来るぞ?」


するとまた、ルイーナはそう言い、俺の言葉を待つ。


「〝契約魔術〟は原初の魔術の一つだ、その拘束力と絶対性は神々でさえ干渉出来ない〝強度〟を誇る…契約違反の代償は、その内容にバラツキは有れど、どれも違反者にとって不利益な形で還元される…ソレを忘れる程、あの娘は盲目では無い…少なくとも今は、な」

「さて、それはどうかの…ソレはさておきレイドよ…妾は御前様に聞かねばならん事が有る」


問うては返し、返されてはまた問うてを繰り返しながら暇を潰していると…ふと、ルイーナの蒼瞳が俺を映す。


「?…何だ?」


その問いと視線に俺はそう答え、ルイーナを見ると…ルイーナは静かな静寂に響く美声で問い掛ける。


「何故……あの〝娘〟を追い込まなんだ…御前様の前を彷徨く〝蝿〟で有ろうに…何故、御前様は更なる〝悪評〟を背負ってまで…あの娘を恥辱から守った?」


その問いに、俺は少し沈黙し…徐々に緩慢に揺れる炎の尾を見詰めて、ルイーナへ言う。


「……さぁな、戯れか…観賞か…憐れみ、思い留まっただけかも知れないな……何方が好みだ」

「……はぐらかされては仕方無いのう…また今度聞くとしようかの」


その返答にルイーナはつまらなそうにそう言い、俺の胸から抜け出し…その姿を薄れさせる。


「それじゃあそろそろ、妾は戻るぞ…アイリスにそろそろ勘付かれるやも知れぬでな」

「そうか…」


最後にルイーナは此方をチラリと見詰めると、その姿を完全に夜と同化させる…改めて一人と成ったこの〝寝床〟で、俺は未だ焚火を見詰め続け…一人、〝感傷〟に耽っていた。

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