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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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ロクデナシのレイド

――ガサガサガサッ――


「へへっ、此方だぜ皆…!」

「ね、ねぇ…止めとこうよぉ…此処に来ちゃ駄目だってお母さんが言ってたよ?」

「何だよ、親にビビってんのかよエリー?…ならお前だけ帰れよ」

「ッ…!――そ、それは…嫌だよ…」


其処は長閑な森の中…草木を掻き分け、数人の子供達が何処かへと向かう……その会話から恐らく、親の言いつけを破っているのだろう…数人の子供達の中でそんな風に皆へ警告する少女を突き放す様にそう吐き捨て、彼等は森の中を進み…先頭の少年は古びた地図を手に獣道を進む。


「へっへへへ…村の大人達が言ってたんだぜ…此処にあの〝追放者〟レイドが居るってな!」

「え、あの…!?」

「そうだ…どんな奴なのか見てみようぜ…!」


彼等は森の影を進みながらそう、純粋な悪意を抱きながら地図を頼りに森を抜ける……そして。


「ッ!……おい、見ろよアレ…!」


少年達は木陰の中から、己等のその先に有る…開けた森の中の〝小屋〟を見て、興奮に目を輝かせる。


「本当に家が有るぜ…!」

「でも、誰も居ないぞ?」

「バーカ、どうせ家ん中で寝てんだよ…そうだ、扉に石でも投げて起こしてみようぜ!」


そして、また子供らしく…善悪の判別のつかない少年少女達はコソコソとそう悪戯を唆し…小さな小石を扉に向けて投げる…すると。


――ギィィッ――


『あっ…!』


運が悪く、その扉が開き…中から一人の男が出て来る…そして、また運が悪く…その男の頭部へと、投げられた小石は突き進む。


――ガッ――


「ッ!」


何の事はなく、至極当然に…その小石は男の額に衝突した…。


「………(チラッ)」

『ッヒィ…!?』


男は一度踏み止まり、自信の額に手を当てると…その視線を彷徨わせ…草むらから覗く少年少女達を見据える…その視線に、否…男の姿に…少年少女達は喉から恐怖の声を搾り出す…。


遠巻きに見れば、ただの〝人間〟に見えただろう…しかし、その顔は異様な程傷だらけで有り…その首筋から下にまで、手首足首からも夥しい〝傷〟が目に映る…目には色濃い疲労の隈があり、その視線には殺意と見紛う程に冷徹な〝意思〟が宿る……その様はさながら、彷徨い歩く〝幽鬼〟の如くに〝恐ろしかった〟…。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


『ウワァァァァァァ!?!?!?』


その恐怖に、まだ年端も行かない童達が耐えられよう筈もなく…一目散にその場から立ち去る…。


「……」


その姿を見送ると、彼はまるで興味を失ったかの様に家へと戻り…その扉を締めた。




○●○●○●


――ザッ…ザッ…ザッ…――


獣道を抜けて…〝俺〟は進む…決して大きくはない、しかし小さくも無い…至って長閑な故郷の村を……尤も。


「――オイ、見ろよアレ…〝ロクデナシ〟のレイドだ…」

「おい止めとけよ、聞かれたら何されるか分かんねぇぞ?」


――クスクスクスッ――


俺へと注がれる視線は軽蔑と、侮蔑と、忌避の三つだけだが…それは構わない。


「……」


――ギィィッ――


村に有る古びた扉の酒場を訪れる…活気の良い酒場はその音の先に居る…俺という〝厄介者〟の為にその活気に首を絞める。


「いらっしゃ!――あぁ…アンタか…」


店主がそう言い、俺を見る…その目はやはり冷たく、棘が有る…周囲の空気も変わり…何気ない日常の馬鹿騒ぎは、俺と言う人間に対する〝囁き〟へと変わる。


――ギィィッ――


「〝何時もの〟を1つ…それと、1ヶ月分の携帯食料を」

「…あいよ」


軽薄にそう言うと、その店主は俺へ見向きもせずに厨房へ向かう…その背中が語り掛けるのは…〝早く帰れ〟と言う物言わぬ声だけだった。


――ガチャンッ――


「ッたく…家の息子は今も魔王討伐の為に頑張ってるってのに、呑気なもんだぜ…」

「あぁ、全く同感だ」


俺は店主が小さく呟いた言葉にそう返し、この店で一番安い…パンと肉と野菜のクズ切れが入ったスープを飲む…そして独り言だったのだろう…その店主は俺の言葉に少し気不味そうな様子で戻ると、他の客の注文を受ける。


〝呑気な物だ〟


飯を喰らう…しかし俺は、肉と野菜よりもその言葉を咀嚼し…飲み込む…確かに呑気な事だろう…〝2年間〟…この生活を続けて居るのだから…。


――ドサッ――


「――漸く見付けたわ、〝レイド〟」

「………」


そんな折、ふと己の隣からそんな声が響く…飯を片手に流し見れば、其処にはどう言う訳か、見たことも無い、この村の人間では無い人間が己の隣で此方を見ていた。



●○●○●○


――カチャカチャカチャッ――


「……」


〝私〟を見る…くすんだ蒼の視線…ソレは私を軽く見渡すと、その後まるで…興味を無くした様にまた食事を始める。


「――Cランク冒険者、〝アイリス〟よ…始めまして」

「……レイドだ」


そんな彼に私は自己紹介をし、握手を申し出る…しかし、ソレに返ってきたのはぶっきらぼうに冷たい簡素な言葉だけだった。


「……ずっと貴方を探していたわ…〝レイド〟…〝元勇者パーティー〟…〝万能〟のレイド」

「……ただの〝追放者〟だ」


彼は言う、まるでそんな過去等存在しないとでも言う様に。


「勇者の友として共に魔王討伐の使命を背負い、時に勇者を支えていた唯一無二の英雄」

「……〝ロクデナシ〟だ、ソレ以上でもソレ以下でもない」


ただ、今有る己の評価が正しいのだと言う様に。


「……2年前、数多の悪行により、勇者パーティーから追放された…〝悪漢〟」

「…そうだ」


そんな彼に、私は言う…。


「〝恥ずかしい〟と思わないの?…〝見返してやりたい〟と思わないの?」

「事実は事実だ…何も変わらない、それが〝全て〟だ」


そんな彼に、私は遂に我慢出来ずに彼へと声を荒げる。


「ッ貴方は!――こんな場所で腐ってるべき人間じゃ無い筈よッ…私と一緒に来てッ…〝勇者〟には〝貴方〟が必要なのよ…!」


――ギロッ――


その時遂に、その男は無関心で冷たい視線に赤々と燃える怒りを滲ませ、私を睨む。


「ッ!?」

「……」


そして、私が黙ったのを見ると…また元の無関心で冷徹な視線に戻り…無言のまま、店主から荷物を受け取ると店を出る。


「ッ待って!―――!?」


そして私は後を追い掛け、扉を潜る……しかし、既に其処には…その男は〝居なかった〟…。


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