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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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決闘と賭け

――カチャッ――


「私が勝てば、貴方を私の下僕にして上げるわ…!」

「俺が勝てば、これ以上の干渉は止めてもらう」


張り詰めた空気に、好奇の視線…その中で、俺達は相対し、剣を握る…。


其処は冒険者ギルド、その修練場…しかし、今となっては、其処は修練の場とは程遠い…血で血を洗う、闘争と濁った悦楽の坩堝…〝闘技場〟の様相を帯びていた。


その中で、俺は観客で無く…〝戦士〟として前に立つ…目の前の、華奢な小娘を相手に。


「……今一度言う…〝止める〟つもりは無いのか」

「あら?…怖気付いたのかしら?…情けないわねレイド・バルクレム…貴方が〝無才〟と宣った小娘に負けるのがそんなに嫌?」

「……ハァ…そうか…ならば、仕方無い」


歓声に掻き消されながら、濁った嘲笑を紡ぐ少女を見て俺は諦め、何故にこんな事態に発展したのかと振り返る……それは、凡そ1時間前…。


○●○●○●


――ヒュンッ――


修練場の隅で、俺とルイーナはアイリスの剣を見る…歳の割に堂に入り、物怖じしない剣技は成る程…それなりの技量では有った。


「――フゥゥッ!…どうレイド?…私の剣は?」 

「うむ…悪くは無いのう…しかしやはり、〝若い〟…もう少し老獪さが欲しい所じゃな」


しかし、ルイーナの言う通り…まだまだ〝素直〟過ぎる…教えられた剣技を教えられた通りに熟している様な〝模範的な剣筋〟だ…しかし、それでは強者を相手にするのは無理だろう。


「…足運びは良い、後は視線の位置と剣をより正確に振るう技量、お前の剣技には、其処までの力は要らん…もう少し肩の力を抜け」

「うッ…こ、こう?」


俺の指摘にアイリスは苦い顔をしながら剣を握り直し…振るう…だが、やはり急な構えの変化に慣れていないのだろう…動きにぎこちなさが残る…。


「……握る手はそのままで良い」


俺はアイリスにそう言い近付き、構えに四苦八苦するアイリスの手を握る。


――グッ――


「ッ――!?」

「構えの基本は何時も通りに、お前の剣は〝叩き斬る〟物では無く〝滑り斬る〟物だ…先ずは感覚を掴め…〝息を吸い、目を閉じろ〟…」


俺がそう言うと、彼女の身は更に強張る…確かに、自身の身体を他者に動かされるのは抵抗を覚える物だろう…だが。


「〝軽く握れ〟…力を込めるのは斬る一瞬だけだ、狙うのは相手の〝急所〟…弱点を刈り取る様をイメージしろ」


俺は構わずアイリスの身体を動かし…眼の前の案山子の前にアイリスを立たせる…そして。


「〝一息に〟…〝首を斬り落とせ〟」

「ッ―――!」


俺が手を離し、アイリスへそう告げた刹那…矢の如くに肉薄し…剣を並行に〝振るった〟…結果。


――ズバァンッ――


剣の音には微かに大きな〝破砕音〟を響かせ、アイリスの剣は木製の案山子の首に減り込む。


「ッ……失敗した…!」

「……いや、そも一朝一夕で身に付く技術では無い…コレばかりは経験を重ねる他無いだろう…だが、筋は良い…俺よりも早く、その〝技術〟は身に付くだろう」


俺はそう言い、ルイーナの方に戻ろうとした…その時だった。


――ザッ――


「ッ――ハァ!」

「―――」


己の背後から耳に届く砂を踏む音、風切り音に俺は即座に身を屈め、刃を避ける…そして。


――バッ――


屈んだ状態から身体を前に倒し、地面に手を付いて其処を飛び退き、隣に居るルイーナへ問う。


「――気付いていただろう、ルイーナ?」

「フンッ…さて、どうじゃろうのう?」


その問いにそう返すルイーナから、微かな憤りを感じた事に小首を傾げつつ、俺は横合いからの奇襲者へとその蛮行の理由を問う。


「何故〝こんな真似〟をしたのか、理由を問う…〝セレナーデ・リビア・クロムウェル〟」


その華奢な奇襲者は、俺の言葉に剣を収め…蔑みと憤りの籠もった眼で俺へ吐き捨てる。


「あら、〝凡才〟の貴方を少し試しただけですわ…凡才でも元勇者パーティー…それなりに動ける様ですわね」

「……だからと言って、他者に無差別に斬り掛かる行為は良識の有る人間の行いでは無いな」


俺がそう言うと、セレナーデはその顔を不快に染めて俺へ言葉を返す。


「……相変わらず口の減らない男ですわね…!」

「――それで、何の様だ…ただの辻斬りと言う訳では無いのだろう」


俺達の諍いが呼び水と成ったのか、野次馬が集り始め、俺達は微かな喧騒に包まれて行く…すると、何を思ったのかセレナーデは何やら悪意を孕んだ笑みを浮かべ、俺へ問う。


「えぇ、そうね…私と〝決闘〟をなさいレイド・バルクレム!…何方が優れているのか、〝勝負〟しようじゃありませんの!」


その、大衆に響き渡る声で告げられた言葉は…途端に大衆の不道徳な〝娯楽〟への執心に火を付け、亡者が亡者を呼ぶが如く、修練場を賭け狂いの夜鷹で満たす…だが。


「――〝断る〟…此方は〝忙しい〟んだ…道楽に付き合う時間は無い」


俺はそんな提案を一蹴し、二人を連れてその場を離れようとする…しかしその時。


「――なら、〝賭け〟をしましょうか…勝った方が負けた側の〝望み〟を聞く…コレは〝誓約〟ですわ…どんな願いでも必ず履行される〝契約〟…コレなら異論は無いでしょう?」


セレナーデはそう言い、様子を見に来たヴォーレルの事を見て、俺へそう告げると…俺へ歪んだ笑みを孕んだ瞳を向ける。


「…ハァッ、面倒臭い…良いだろう…一度だけ、道楽に付き合ってやる…だが、代わりに俺が勝った暁には、二度と俺に付き纏うな…それで良いな?」


俺の言葉に、セレナーデは瞬間…罠に掛かった獲物を見る様に俺を見詰めら俺にしか見えぬ様意地の悪い笑みを向けると声を弾ませ頷く。


「勿論ですわ♪――〝じゃあ〟」


そして、その口からは澄み渡る程清らかで、吐き気がする程黒々しい、言葉で俺へ告げる。


「私が勝てば…〝貴方〟を私の下僕にしますわ♪」

「な…!?」

「フンッ…そう来たか、小娘」


その言葉に後ろの二人は其々に反応し、アイリスは反論に口を開こうとした…しかし。


「〝良いだろう〟…その条件を呑んでやる」


その言葉が紡がれるより早く…俺はそう言い、条件を呑んだのだった…。

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