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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
18/110

依頼完遂

――ザリッ――


「本当に〝多い〟わねぇッ!」

「流石に此処まで多いとキモイのう!」


二人の少女は互いに背を預け、止め処なく溢れる〝獣の群れ〟を掃討しつつ、終わらない〝戦い〟に辟易とする。


有に百は超えているだろう、異常な数の狼の死骸…築かれた死体の山お前にして、しかし獣達は恐れず迫る…〝長〟の命令で。


「ルイーナ!…貴方の魔術で掃討出来ないの!?」

「出来るが、その場合洞窟諸共破壊して生き埋めぞ?」

「加減は出来ないのね!」

「妾が一番苦手な事じゃ!」


そんな獣達を、何処か和やかな会話と共に処理していく彼女達…そんな獣と人間達の戦いが続く事、数十分。


――ザッ――


「〝加重連斬(チェイン・スラッシュ)〟!――ッ!?」

「〝虚弱の呪病(カースド・フレイル)〟……!」


その生存競争は、その〝洞窟内部〟の変化によって停滞する。


――ゾワッ――


溢れ出す〝殺気〟と〝闘気〟…その気配の密度は何一つ妨げる物など無いと言うのに呼吸出来ない程に大きく〝濃い〟…人も、獣も、その気に充てられ…全身を貫くような恐怖に、生存本能の鐘が鳴り響いて止まない。


「――……〝何方〟……なの?」


その余りにも〝濃密な気配〟に、少女は声を絞り出し…ルイーナへと問う、するとルイーナは沈黙から立ち直り、自身有りげに言葉を紡ぐ。


「フフフンッ…そんな事決まっておろう!――無論、妾のレイドに決まっておるわ!」


そして、二人が暗がりに視線を向けたその瞬間。


――ヒュンッ――


暗闇から飛び出す様に赤黒い〝毛皮を持った人影〟が飛び出し…その視線を二人へと向けられ。


「――〝動くな〟」


その支配的で冷たい言葉が、二人へと送られる…その声に二人が動く事を留まった…その瞬間。


――ヒュンッ――


その人影の姿は掻き消え、風に鳴り響く〝風切り音〟だけが数秒続く…そして、その音が鳴り止んだと同時に、二人の背後に現れた〝人影〟は、その〝魔力の大剣〟を〝解き〟…長剣を鞘に納める…刹那。


――カチンッ――


鳴り響いた〝鞘〟を打つ音とほぼ同時に、周囲に居た狼達の首が飛ぶ…その〝人間離れ〟した業に、二人が絶句し…その人影…己等がリーダー〝レイド〟を見た瞬間。


――ブシュッ――


「ルイー…ナ…治療を…頼む」


レイドの身体を覆う衣服の隙間から、赤い鮮血が噴き出し、口からは肉と骨の混合物を吐き出しながらレイドは月の精霊姫にそう言い、地面に倒れ伏した…。


「レイド!?」


そんな彼へアイリスは焦り声を上げて駆け寄り、ルイーナはそんなレイドの身体を抱き留めて呆れた様に気絶した彼を見る。


「こんなに成るまで動くとは…相変わらず無茶ばかりしおって…全く」


そして、そう言い彼の額を撫でながらルイーナは微笑み…死肉の海の上で、精霊の〝癒やし〟を傷だらけの〝彼〟へ与えるのだった。



○●○●○●


――カッカッカッカッ――


石畳の上を硬い靴が音を響かせ進む、その足音の主は何を逸るのか、道行く人々を追い抜かしながら、活気に賑わうならず者達の巣窟へと足を運び、その扉を開け放つ…。


「ッ……見つけたわ、レイド!」


そして、少女は…その中に一人の〝男〟の存在を認めるとそう言いツカツカと歩を進める。


「……セレナーデか」


その声に、そして迫りくる少女に気が付いたのだろう男はその少女を一瞥してそう言い…彼女の歩みを止める事無く、また受付の娘へと何かを告げる。


「私と手合わせなさい!」


そんな男の様子に苛立ったのか、少女は語気を強めて男へそう言う…しかし、そんな少女の勇ましい申し出に、男は短く…素っ気無く告げる。


「……悪いが、今日は〝疲れた〟…明日なら付き合おう」


そして、その歯牙にも掛けない物言いは少女の怒りを撫で付け…少女が再度口を開こうとしたその時、受付嬢が怖ず怖ずと会話に入り込み、男へ声を掛ける。


「――あ、あの…レイドさん、ギルドマスターが直接報告して欲しいと…」


荒くれ者を相手に対応する受付嬢にしては、随分と歯切れの悪い言い方に、男は訝しげに眉を寄せ、その鋭い刃物の様な視線を受付嬢へと向けながら口を開く。


「……報告書で事足りる筈だろう」


その言葉に受付の娘は焦った様に声を詰まらせ…涙目に成りながら、その職務を全うする為に答える。


「えっと、その…ギルドマスターからの、指示でして…」


その顔は青白く、眼の前の男に対する恐怖心が有り有りと浮かび…男はその顔を見ると少しの間沈黙し、受付嬢へ告げる。


「分かった……仕方が無い、ルイーナ、アイリス、今日はもう解散だ、好きに過ごせ」


そして男はそう背後の仲間へ告げると少女を無視して階段を登り、上階に消える…。


「……」

「ッ……」


最後に、少女と微かに目を合わせて。




●○●○●○



――ガチャンッ――


扉を開き、中に入ると筋骨隆々の巨漢はその風体に似合わぬ眼鏡を掛けながら、俺を出迎える。


「――おう、悪いな態々…流石に〝珍しい〟案件でな、疑う訳じゃねぇんだが詳しく聞いておきてぇんだ」


そう言うギルドマスターは報告書を机に投げ置いて、意味有りげに言葉を紡ぐ。


「――特段語ることも無い、全て報告書通りの出来事だ…村人の想定以上の魔物が居た何て事は〝良く有る事〟だろう」


それに対して、俺がそう言いながら席に座るとヴォーレルが肩を竦ませ俺へ言う。


「まぁな…だが、その〝事故〟の大半が〝嘘の報告〟で起きてるって知ってりゃ、此方としても泣き寝入りする訳にも行かん」


その言葉に俺は沈黙する…決して裕福とは言えない村が、村の財産以上の魔物の脅威にさらされる事も、其れ等を何とかする他に〝ワザと〟…偽の報告をでっち上げる事も往々にして在る〝問題〟だ…だが。


「〝警告〟だけに止めてやれ…あの村の連中は肝が小さい、一度強く言えばこれ以上は何も無いだろう」


その気持ちも分からない訳では無い…それは俺も、ヴォーレルも変わらない…だから態々〝個室〟でこの話をしているのだ。


「……まあ、お前さんがそれで良いってんなら、他には何も言わねぇさ…面倒な話は此処までにして、そんじゃ早速〝例の魔物〟の情報について聞かせてくれ…〝人狼〟なんざ、この数十年でも一回も聞いたことねぇ〝レア物〟だからな」

「分かった…先ず――」


そして、俺達は面倒な〝厄介事〟の種を早々に処理し…話題を切り替え、討伐した〝人狼〟についての話を始め、暇を潰すのだった…。

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