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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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人と獣と歪な愛

勇者率いる〝英雄の集い(パーティー)〟…その一人、〝豪剣〟のエリック…その剣技は凡そ剣技と呼ぶには余りにも力任せで有り、技と呼ぶには〝大雑把〟な物で合った。


――ビキッビキビキッ――


しかし、技術の拙い彼の者を〝英雄〟足らしめたのは、その巨岩を思わせる程分厚く思い大剣を片手で振り回す程の剛力と、卓越した〝闘争の才気〟に溢れていたが為で有ることは、その名を知る者ならば誰でも知っている事実で有ろう。


――ゾクッ――


そして、そんな英雄エリックを讃える逸話が一つに、こんな物が有る。


――ダンッ――


2万に及ぶ大規模な〝獣の災害(スタンピード)〟の襲来…その脅威に皆が絶望に挫けたその最中。


「ッグルゥ――!?」

「グッオォォォォ……!!!」


地を震わせん咆哮と共に天より現れ、その鬼神の如き剛力で以て、〝5割〟の魔物の群れを鏖殺せしめたと言う、〝逸話〟…。


「――〝獣躙斬鬼(ビースト・ハンター)〟!」


その逸話に偽り無く、その後〝獣の災害〟に駆け付けた〝勇者グレイ〟と共に僅か数名で〝獣の災害〟を打破し、その力を見出され勇者の仲間と成ったその出来事は、数年経った今でも、多くの生き証人によって語り継がれている。


○●○●○●


『ガッハハハッ!――蓋を開けりゃ〝酒代欲しさに魔物狩り〟してただけだがな!』

「ハッ……充分過ぎる〝功績〟だろう…!」


奴の剣を真似、奴の動きを真似、真似に真似、しかし決して届きはしない〝拙い剣舞〟を古いながら、俺は〝彼奴〟の言葉を聞く。


『――俺ァ、自分が英雄様だと偉ぶるつもりはねぇ…ただ自分勝手に生きてるだけのロクデナシだぜ…強い奴と戦って、美味い飯と酒、金と女さえ有りゃ、他の事なんざどうでも良い』


そう言うエリックは、その後俺を見て何と紡いだか……忘れる訳が無い。


『レイド、テメェは確かに〝才能〟ってのが無ェ…はっきり言って弱え、それは事実だぜ』

(……嗚呼、その通りだ)

『だが、俺なんかよか、よっぽど〝英雄としての器〟が有る…お前は自分が思ってる以上に〝外道〟じゃねぇ…ちったぁ、自分の事を認めてやれよ』


――■■■■■■■■――


『……ハァァッ、相変わらずオメェは〝捻くれ〟てんなぁ……ま、良い…俺はそう思うってだけだ……さて、堅苦しい話は置いとくとして…一丁、テメェに〝助言〟してやんよ…』


そうしてエリックは、俺の剣を見てこう紡いだ。


『お前は器用だから…〝技を鍛えりゃ〟、俺と良い勝負出来んじゃねぇか?』


……と。


「――さぁ、どうだろうな……!」


遠い追憶の〝戦士〟へ、俺はそう言い…〝剣を振るう〟……果たして、〝今の俺〟は、お前の目にはどう映って居るんだろうな…。


――ビキビキビキッ――


「シィィッ!」


――ヒュンッ――


昔よりは…お前に追い付いただろうか?…。


●○●○●○


――ヒュンヒュンヒュンッ――


風鳴りが耳を埋め尽くす、その音を聞く度奔る悪寒…その恐怖を埋め尽くす〝高揚〟…矛盾する二つの感情の揺れに、ソレは〝思考〟を乱していた。


――ザン、ザザザンッ――


〝見えない刃〟が、大地を、壁を刻み付ける…ただ刹那刹那に迫る死への〝直感〟が、辛うじて自身の生命を保っていた。


最早眼の前のソレは〝弱者〟と口が避けても言えない程に〝恐ろしい存在〟へと変貌していた。


――ブォンッ――


凪いだ風が周囲に寄り集まる獣達を吹き飛ばす…その一撃一撃、高速で繰り出される連撃は重厚な死の気配を纏う〝必死の領域〟と成り、知性持たぬ獣達にさえその事実を知らしめ、一匹たりとも寄せ付ける事は無かった…。


「――グルゥ♪」


――ダンッ――


ただ…その領域で死神と踊り続ける〝狂狼〟を除いて。


――ギギギギギンッ――


躱し、弾き、逸らし、飛び跳ね…死神の腕の中で、狂狼はその笑みを狂気一色に染め、拳を振るう。


その様はまるで、〝死に魅入られた〟かの様に……〝ソレ〟はただ〝嗤っていた〟…。


長の役目を捨て、配下を捨て…獣に成り果てたソレは今眼の前に現れた〝強敵〟をのみ〝求めていた〟…。


――ガリィンッ――


殺したい、壊したい、勝ちたい、打破したい。


胸一杯に抱いた飽く無き〝渇望〟…。


終わりたくない、続けたい、延々と、永遠に。


心の奥底に薄らと生まれる〝強欲〟を…抑えること無く。


二つの生命は、互いに〝互いを見詰め〟、〝強く思い〟、〝強く求める〟…その様を、彼等以外の者達は決して〝ソレ〟とは言わないだろう…だが。


――ジリィィンッ――


眼の前の一匹と一人は、僅か1時間にも満たない邂逅の中で、〝同じ事を思い笑っていた〟…。


――コレではまるで、〝愛〟の様だ――


……と、そう己が抱く〝殺意の情動〟をそう皮肉り、心内で嘲笑いながら…互いに武器を振るう……〝互いに互いを殺す〟為に………そして。


――ザザザッ――

――ガンッ――


その〝終わり〟は…唐突に来た……一撃が人狼を押し退け、その刃は地面を斬り付ける…そして。


――ドゴンッ――


「グルルァァァッ!!!」


狼は駆け出す…その拳を強く握り締めて…。


――ガリッガリガリガリガリッ――


「――ッォォォォオオオオオオッ!!!」


人は雄叫ぶ…その刃で大地を抉り斬りながら…。


二人の距離は刹那に縮まり、その拳は男の顔へ振り抜かれ、その剣は獣の身体へ振り上げられる…結末は――。


――ビュンッ――

――ズムッ――


〝獣の爪〟は…男の耳を削りとり、空振る……そして。


――ズブッ、ブチブチブチッ――


〝人の剣〟が…狼の身体を斜めに断ち切った……。


勝敗は決し、生する者と死する者は正しく定められた…。


「――グルァッ!」


――ガブッ――


敗北した獣は、死に向かう最中…眼の前の人、その肩を噛み付き食い千切る…。


「ッ――……!」


その〝悪足掻き〟を、人はただ受け入れ…倒れ込んだ獣の顔を見下ろし、ただ一言紡ぐ。


「――有難う」


……と、それに対して、獣は食い千切った肉を…ゆっくりと、堪能し…眼の前の人をジッと見詰める…そして。


「――バウッ♪」


そう、心底から〝愉しかった〟と言う様に満足気に笑うと…苦痛等感じてさえいないと言う風に目を閉じ、笑顔のままその生命を終えた…。

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