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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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獣達の巣

――ザッザッザッザッ――


「「〜〜〜♪」」


山道を二人の娘が歩く…上機嫌に奏でられる鼻歌はそのまま二人の女性の機嫌を表し、その姿を見れば、何故二人が其処まで上機嫌なのかを察するのは難しくない。


「このドレスは良いのう!…軽く、動きやすく…何よりも妾にピッタリの色合い…頗る気に入った!」


金髪を靡かせる月の精霊姫はそう言い、くるりと身を捻る…すると、その美貌と色白の肌を映えさせる様に黒を基調とした紫のドレスはフワリと風に膨らみ、靭やかな美女の扇情的な美を引き立たせる。


「アイリスよ、そなたの鎧も似合っておるぞ?」

「でしょでしょ?…いやぁ、店主さんにお願いしてたの!…可愛いだけじゃなくてちゃんと軽鎧としても良い性能してるのよ?」


そして、もう片方の娘は…月の美女とは対比する様に引き締まった肉体の上に白の革鎧を纏い、その白い衣装を這う様に黄緑の植物の蔓を思わせる刺繍が奔り、彼女の愛嬌のある顔も相まって、凛々しい剣士と言う風体を生み出していた。


「ほれほれ御前様よ、どうかの?…妾達のこの姿は、是非御前様の意見を拝聴したいのじゃがのう?」

「後にしろルイーナ、今は〝仕事中〟だろう」


ソレに対し、俺はそう返すと…目的の場所に辿り着き…二人を呼ぶ。


「――二人共見ろ…〝足跡〟だ」


そして俺が指を指し示した場所には、大地に深く沈み込む、人の何倍は有ろうかと言う巨大な足跡が刻まれていた。


「ほほう…〝森狼〟の群れじゃな…足跡の重なり具合から最低でも10匹前後かの?」

「そうなると〝狼長(ウルフ・リーダー)〟が居るかも…Cランクに上がりたてなら危険だったわね」


ソレに漸く二人の気が締まり、俺達は〝依頼〟を完遂するべく、その足跡を追跡する……その依頼とは――。



〜〜〜〜〜〜〜


「――〝魔物の巣の調査〟?」


寝起きに喰らうには胸焼けする量の〝食事〟をテーブルに並べながら、アイリスはそう言い俺を見る。


「そうだ…依頼推奨ランクは〝C〟…どうやら村の近場に魔物の足跡が有り、ソレを調査して欲しいと書いてある…調査依頼にしては随分と割が良い、コレを受ける」


その言葉に俺は受注した依頼を二人に投げ渡し、軽めの物をテーブルから手にとって腹に納める…すると、その依頼の紙を弄びながらルイーナが意地の悪い視線で俺を見、そして言う。


「魔物調査で銀貨50枚か…小童共にくれてやれば良いだろうに」


そして流れる様に辺りを見渡すその視線を終えば、俺へ侮蔑を向ける受付の職員と、恨めしそうに睨む昇格したての冒険者達の視線に晒される。


「〝早い者勝ち〟だ、冒険者の世界では譲り合いは厳禁だ…ソレを学ぶ良い機会だろう」


ソレに俺は目を合わせると、彼等は直ぐに目を逸らし、ヒソヒソと言葉を紡ぎ合い…其処から滲み出した悪意の気配が俺を渦巻く…。


「――ククッ、そうかぇ…それで、店主殿から装備を拝借した後に出発かの?」

「そのつもりだ…ソレを食ったら行くぞ」

「分かったわ!」

「うむ!」



〜〜〜〜〜〜〜


…そして、追跡する事数時間…昼時からやや太陽が傾き始め、紅の空の先駆けを彩りだしたその頃に…俺達は〝巣〟へと辿り着く。


「……のう、御前様よ」

「……何だ?」


森の奥、無数の落石が積み重なり作られた洞窟を覗き込みながらルイーナが問う、その言葉に耳を傾けながら、中の様子を確認する。


「……流石にこの数は多すぎやせんかの?」


魔力に対して、優れた知覚を持つ〝精霊〟…その姫たるルイーナがそう言い、この淀んだ空気に顔を顰める…ソレに俺達は沈黙し、しかしその言葉を否定せず、沈黙の肯定を選択する……その洞窟の中は、正しく〝異常〟のソレだった。


――クルルルルルッ――


10匹を超える狼の群れが、その口に幾つもの動物の死骸を加えながら奥底へと消えて行く、その奥から感じ取れる生命の〝密度〟は更に凄まじく、10や20と数えられる域を超えていた…。


「流石に異常じゃな……こんな数の〝森狼〟…高々〝狼長〟如きが治められる筈が無い…」

「複数匹〝狼長〟が居るんじゃないの?」

「――いや、〝鬼人種〟の〝王個体〟を持った〝群れ〟なら有り得るが、狼種の魔物は〝一匹の長〟を唯一人の長として動く…群れの規模がデカイ程、その〝長〟の実力の推移を測れるが…この規模は〝森狼〟の域を超えている」

「――なら、此処の主は何じゃ?…この数の狼共が服従する〝長〟等……」

「――嗚呼、俺自身この現象は文献でしか知らんな」


するとその時、暗闇の奥から赤い視線が此方へ向き…その敵意と殺意に満ちた気配に俺達は隠密を解く。


――ギロッ――


途端、無数の獣の視線が俺達の方を向き…凄まじい数の〝殺意の波〟が押し寄せる…そして、その敵意の濁流を掻き分けて現れるソレにアイリスとルイーナは目を見開き驚愕する。


「グルルルルルッ…」


ソレは、狼と呼ぶには異質を極める姿をした〝魔物〟…細長い手足を持ち、その部位の構造は確かに〝狼〟…しかし、その肢体の筋力は並の狼とは決して比類する事も出来ぬほどに強力で太く、その強靭さ故に獣はその二つの脚爪で全体重を支える事が出来ていた。


ソレは最早文献にのみ記された〝獣〟の姿…その獣人とは似ても似つかぬ姿をして、文献にはこう記されていた…曰く。


「〝狼を統べる者〟」

「〝人狼(ヴェアヴォルフ)〟か…!?」


と…二人はその姿に驚愕し、その希少な魔物に釘付けに成る…確かに、文献でしか見聞きしたことの無い姿を実物に見れば、その感動も一入だろう…しかし。


「――感動に気を緩めるな二人共」

「「ッ!?」」


俺はそう言い、物陰から二人へ迫った〝狼〟共の身体を切り捨て、二人を叱責すると、二人は漸く…その感動を胸に押し遣り〝戦場を認識する〟…それを見て、俺は二人へ次の指示を飛ばす。


「この数を放置すれば、何れにせよ村々は〝壊滅〟するだろう…今此処で始末を付けるぞ」

「うむ!」

「分かったわ!」

「良し…ルイーナはアイリスと組め」

「御前様は!?」

「――〝奥〟から潰して行く…お前達で〝蓋をしろ〟」


その指示に二人が反論する前に、俺は駆け出し…目の前の人狼に肉薄した…。

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