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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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耳寄りな情報

「――何故、貴方は諦めないの?」


昔…昔…ずっと昔に、私は聞いた…街に迫る〝獣の災害〟…それの祝勝宴に加わらず…1人、ただ剣を振るう〝彼〟へ。


「……何を諦める」


剣を振るう…姉様と比べるも並びさえしない拙い〝剣技〟…技と呼ぶには未熟な剣を、それでも振るう彼…彼は私の言葉にそう言い、目もくれずに言った…。


「貴方には剣の才能が無いのに、何故…まだ剣を手に取るの?」

「……理由が、必要なのか?」


夥しい汗を掻きながら、彼はそう言う…無論、理由など無くても、構わない筈だった…所詮は他人なのだから…でも。


「……私は…諦めたのよ…」


聞いてしまった……〝私と同じ〟…〝非才の剣士〟に、優秀な騎士の姉を持って生まれ、その光に溺れて剣を折ってしまった私は。


「……」


その時の私はきっと、同じ思いをしている人間が欲しかったんだろう…だから聞いた、厭らしく、ほんの少しの悪意と共に…彼の心を折ろうと…きっと彼も、その事を分かっていたんだろう…それでも、彼は敢えてソレを口にしなかった…。


「……幼馴染だ」

「ッ…」


その時、ふと彼が口を開き…そう言った…その時、初めて彼は私を〝視た〟…。


「同じ場所で生まれ、友として良く遊び、良く一緒に居た……俺の、唯一の〝友人〟だった」

「……」

「俺達が14の時…彼奴が〝勇者〟の才能に目覚めた…誰よりも強くなった、直ぐに彼奴は俺を置き去りにする程…〝強くなった〟」


その目は冷たく私を見詰め…話を続ける。


「――そして、〝魔王討伐の旅〟に出ると言う時…彼奴は事も有ろうか、〝俺を選んだ〟……〝俺が行かないなら勇者には成らない〟と…子供の様に…そうして、俺は〝勇者パーティー〟の末席に座る事になった…」

「……だから、ずっとそうやって鍛錬を…?」

「……無才が天才に追い付くには、コレしか無いだろう…」


そう言うと、彼はまた…〝独り〟…鍛錬にのめり込む…。


「………」


貴方はきっと、分からないでしょう……自分と同じだと思っていた人間が、その実、自分何かじゃ到底手の届かない程遠くに居たと知った人間の事など…。


きっと、貴方は分からないでしょう……私が…そんな貴方の事を…心の底から〝綺麗〟だと思っていた何て…〝憧れていた〟何て…。


きっと……貴方は知らないのでしょう…。




〜〜〜〜〜〜〜


「―――ハッ…!」


飛び起きる…またこの〝夢〟だ…遥か昔の一幕…あの日の幻想…。


「……〝嘘吐き〟…」


その幻想を、未だ目で追いながら…私は枕元の〝剣〟に向かって…そう、呟いた。




○●○●○●



――ヒュンッ――


「……〝軽過ぎる〟」


早朝…人々が忙しなく働き始めるその頃に、俺は冒険者ギルドに程近い、平凡な武器工房の試剣場に足を運び…十何本目かの剣に首を振る。


「「……」」


熱に滲んだ汗を拭い、その剣をルイーナに渡し、アイリスが持ってきてくれた剣を手に取る。


「……コレが、最後か…」


手に握られたのは一振りの長剣…しかし、他の長剣よりもやや長く、その刃は他よりも分厚い…そして。


――グッ――


「――……ふむ」


〝重い〟…従来の長剣よりも遥かに重い…中型の戦槌に届くかと言う程の重さが、腕に伝わる…中々に好感触だ…後の問題は……。


――ザッ――


その〝切れ味〟だ。


「――フッ…!」


――ピシッ――


踏み込みと同時に、剣を鞘から抜く……東洋の国では〝居合術〟と呼ばれているその技法に似た抜剣と、振りは鋭く弧を描き…眼の前の木偶人形を刈り取る。


――ドサドサッ――


頭部、腕部、腹部関節を分断された人形の落下を見届けながら、俺はその剣を鞘に納め、向き直る


「…フゥッ……悪く無い…店主…コレを買う…幾らだ?」

「……見事な一撃だな…どうやら、噂される程のロクデナシでは無かったらしい…ソイツァ〝10万z〟だ…ホントは13万だが、テメェを追い返そうとした分の詫びだ、負けてやる」

「……そうか、感謝する」


その後、壮年の店主と取引を済ませ…新たな剣を得た俺達は、仕事の前に食事を…と、最寄りの食堂へと足を運ぶ。


「――〝剣〟は手に入った…後は〝鎧〟が欲しいな」

「ングッ…鎧ね…金属鎧じゃ重過ぎる…となると候補は革鎧?」

「じゃがただの革鎧等たかが知れとる…欲しいのは〝魔物の皮〟製…それも、〝魔獣〟では無く〝魔物〟…〝単眼鬼〟やら〝牛頭魔〟レベルの中高位の魔物の皮が欲しい所じゃな」


そして、3人で俺の防具について議論を交わしながら腹拵えをしているその時…ふと、此方へ視線を寄越しながら近付いてくる1人の男を視界に捉える。


「――やぁやぁ、御三方…ちぃとばかし話が耳に入っちまったんだか、少し良いかい?」


その男は、まるでそんなつもりは無かったんだが…とでも言いたげな胡散臭い顔でそう微笑み、ズケズケと図々しくも俺達の席に加わって来る…だが、俺達はその男の乱入を特に気にする事はなく――。


「「………」」


否…俺以外はまるでその男を嫌悪するかの様に疎まし気に男を見据えつつ、その語に耳を傾ける。


「おっと…どうやら怪しまれてるっぽいな…まぁ無理もねぇが…だが誓っても良いぜ、俺ァアンタ等にとって正に渡りに舟な〝情報〟を持ってるんだ…そう訝しむ事は無いと思うぜ?」

「……幾らだ?」

「50万zって所だな…そこそこの山だ、コレでも安い方だと思うが…」


俺の言葉にそう返す〝情報屋〟は、そう言い…己の身を貫く〝二つの視線〟の元をチラリと見てそう言う。


「……嘘は言っとらんようじゃ…死ぬ程胡散臭いがの」

「……ルイーナがそう言うなら」

「……取引成立だ」


――ジャラッ――


二人の言葉に俺は懐から硬貨の入った麻袋を取り出し、対面の男に渡すと…ソイツは「毎度あり」と胡散臭い笑顔を浮かべて俺達を見渡すと。


「いやぁ…しかし、嬢ちゃん〝魔眼持ち〟か?…何も疚しい事は無いが、流石にドキッとしたぜ…」

「……それで?」

「――おっと、そうだった…金を貰ったんだからしっかりと働かねぇとな…情報屋は信頼が生命だからな…よぉし、それじゃあ御三方、良く耳を澄ませてくれよ?」


そう言って、その口で…その価値に見合うと豪語する情報を紡ぎ始めた……それは――。

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