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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第四章:森の民と魔女の呪い
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霊樹の国

〝レス・ラシール〟


その国の名は、この大陸に住まう者なら誰もが一度は耳にした事があるだろう〝大国〟の一つである。


何と言っても彼等の国を象徴するのは、国家の丁度〝中心〟に根を張る巨大な樹木…〝霊樹〟の存在だろう。


「――あの霊樹は、数万年前に〝精霊樹〟より株分けされた種子の一つだと言われているのです」

「…そうなのか?」


そう語るナリアの言葉に、俺はそう相槌を打つ…だが驚きはしない…何故なら俺は知っているからだ。


(ふむ…確かに〝精霊郷〟の〝精霊樹〟と僅かな繋がりが有るのう…とは言え此方のはまだ生まれて間もない〝赤子〟の様じゃが)

(下手な事は言うなよルイーナ、お前の出自がバレたら色々と面倒だ)

(分かっておるわ)


俺は念話で独り言を漏らすルイーナへ釘を差しながら、ナリアの健気な話に相槌を打ち…今後の動きを練る。


(先ずは最優先に〝呪い〟の調査からだ…治療出来れば国からの褒賞で暫くは路銀に困らんだろう)

(問題はその〝呪い〟の程度じゃな、中々奇特な性質を持っている故、時を要する物かも知れん)

(場合によって、暫く此処に滞在する必要が有るか…あまり時間は掛けたくないが、コレばかりは仕方無い…)


そんな俺達を乗せた馬車は、等々その駆動を終えて…俺達を、森の中に聳え立つ〝霊樹の国〟へと誘い迎え入れた。



○●○●○●


「――シルビア女王陛下、ナリア第二王女が帰還なされた様です」


巨大な霊樹の周囲を護る様に作られた〝城〟…その玉座にあたるその部屋で、老齢な執事の言葉に、その女性は反応する。


「そうか…ナリアが帰ってきたか…レリオット、私の娘に母の元に来る様にと伝えておけ」

「……ハッ、承知致しました」


彼女の言葉に、執事はそう言うと…その身を影の中へ沈ませ…その場から立ち去る…そして、一人に成ったその場所で…彼女は頭に手を当て、深い溜息を漏らす。


「ハァァッ…全くあの子は…私が何とかすると言っているのに…一体誰に似たのか…」


そんな彼女の問いは虚空を漂い…そして消える…嘆く彼女は、それから直ぐに気を取り直し…階下に感じ取れる〝魔力〟を見て眉を顰める。


「しかし……〝此度〟の者達は、今迄と一線を画す力を有しているな…一体何者だ?」


彼女の目には、階下を広がり…覆い尽くさんばかりの魔力が。その四人と一匹の〝一団〟から放たれている様子が映っていた。



●○●○●○


「――ギャウッ!」

「…オイ、良い加減このチビスケ退かして来んねぇか?」


現在、俺達は国内の〝守衛所〟に、山賊崩れを収容している最中だった…本来なら賊を牢に放り込むだけで良かったのだが…どういう訳か、ヴィゴーが山賊の首領に掴まり、離れないと言う珍事が起きた為…中々詰所を離れる訳には行かないと言う状況に成っている。


「何をしてるんだお前は…」


首領の身体を掴み、引っ張って行こうとするヴィゴーに…俺は目眩を覚え頭を抱える…そんな俺に、山賊共の見張りをしていた二人が俺へ告げる。


「レイドさん…それが…」

「ヴィゴーがおやつを喉に詰まらせちゃって…」

「それで苦しんでた所で、其処の首領の人が水を飲ませて上げたんだけど、それから懐かれちゃったみたいでね…」

「……ハァ、だからあれだけ落ち着いて食えと言っただろうが…」

「――いや、突っ込む所其処じゃねぇだろ」


俺がそう言うとその山賊の長は呆れたようにそう言い、何とか己の手からヴィゴーを離そうと悪戦苦闘する…。


「仕方無い…悪いが其処の山賊の長も連れて行くぞ」

「は?……オイオイ何言ってんだお前、こちとら王族を人質にしようとした山賊だぞ?…城に入れて良い訳ねぇだろ」

「何、構わんだろう…怪しい動きをした瞬間俺が首を刎ねる…下手な真似はさせん…ソレに、俺達とナリア達の邂逅の説明にも使える…連れて行って構わないかナリア」

「そういう事なら、はい…大丈夫だと思いますよ…リオーネもそれで良い?」

「……手枷を付けて於けば面倒な事には成らないでしょう」

「決まりだな」

「ウキャーウッ♪」


最終的に、山賊の長を同伴させる事で落ち着いた俺達は、漸く本題の〝呪いの調査〟の為に、王城へ向かおうとした…その時。


――スタッ――


「〝お帰りなさいませ〟…ナリア第二王女様…お迎えに上がりました」


いつの間にやら、音もなく己等の前に現れたその〝執事〟に…皆が振り向く。


「レリオット!――お帰りなさいッ!」

「ナリア様、相変わらずお元気そうで何よりで御座います…リオーネ殿も御苦労様でした」


その執事は、好々爺とでも言う様な表情でナリアとリオーネを出迎え…それから、視線を〝俺達〟へ移す――。


「〝皆様〟も…どうやらナリア様のお客人の様で」


――〝ジッ〟――


「「ッ!……」」

「レイド…此奴…」

「ハァ……貴族の執事は皆こうなのか…?」


その視線に、俺達は刺すような〝警戒〟と…値踏みする様な〝気配〟を感じ取り…その身の熟しにそう溜息を吐く。


「――あぁ、ナリアとは偶然居合わせた…が、道中で〝色々〟話を聞いた…〝助力〟出来るかも知れないと言う事でこの国に寄った」


俺はそう言い、レリオットと呼ばれた執事に冒険者ライセンスを提示すると、彼は警戒を緩和させて俺達を迎える。


「成る程、そうでしたか…それでは皆様もどうぞ私めの後を…ナリア様共々、〝女王陛下〟の元へ御案内致します」


老執事はそう言うと、その背を俺たちに向け…無駄の無い歩みで、王城へと進んで行く…その後をついて行きながら、俺はふと…自身へ注がれる〝視線〟へ顔を上げ、その〝正体〟を捉える。


――ジーッ――


其処には、幾匹かの〝鴉〟が…此方をその目で捉え…〝観察〟していた。


「――放っておけルイーナ…ただの〝監視〟だ」

「…仕方無いのう勘弁しておくとするか」


その視線を受け入れながら…俺達は数十人の使用人達や、近衛の者達の視線に晒されながらも…目的の場所へと進んで行く……そして。


「此方が…女王陛下の待つ〝玉座の間〟で御座います」


俺達はそうして…仰々しい飾られた〝大扉〟の前へ辿り着いた。

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