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冷酷のブレイバー  作者: 泥陀羅没地
第一章:輝く星を追い掛けて
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セレナーデ

――ゴクゴクゴクッ――


「プハァッ!…お〜い小娘、果実酒のおかわりを所望するぞ!」

「の、飲み過ぎよルイーナッ!、レイドに怒られるわよ!?」

「クカカッ!…なぁに、妾に秘策有り、故に臆せず主も頼むが良いアイリスよ!」


ギルドの片隅に、テーブル一杯に広がる料理、酒の山…粗野な冒険者共の目を引く、テーブル1つ分の〝酒宴〟には、一人の少女と絶世の美女が姦しやかに騒いでいた。


ある者は、下卑た下心を込めて娘達に声を掛け…その美女が視線に込めた〝圧力〟に屈し踵を返し。


また、事の経緯を知る者達は悩ましげに葛藤し…傍観を決め込む…。


荒々しく、粗雑な荒くれ者共が集うその〝場所〟で…その光景は一際〝異彩を放っていた〟…。


――バァァンッ――


「――〝レイド・バルクレム〟は何処に居る!?」


そんな、異様な光景に好奇の視線を向けていた彼等へ、またしても〝奇妙〟がこの異様なギルド内部へと投じられる…閉じられた扉を力任せに開け放ちながら、開口一番その〝忌み名〟を口にする…一人の〝少女〟…その到来によって。


「おい…あの嬢ちゃんって…」

「クロムウェル伯爵のじゃじゃ馬娘だぜ…」

「相変わらず冒険者の真似事かよ」


途端、ギルド内にはそれぞれの視線が交錯し…奇妙な沈黙が空間を満たす…その視線の多くは娘に対するやっかみや嘲りの視線と、この状況を傍観して楽しまんとする意地の悪い〝愉悦〟だった…しかし、少女はその視線に目もくれず周囲を隈無く目測する……そして。


「んぁ?…あの小娘今何と言ったのかえ?」

「確か今、レイドって言ったわね?」

「――何じゃ彼奴め、妾達と言う絶世の女が居ると言うに、また生娘めに粉を掛けたのかぇ?」

「……多分、違うと思うわ」


その一角で隠し立ても無く堂々とそう宣う二人の女冒険者達へと、その視線を留めた。


――ザッザッザッ――


「――貴方達、何か知ってるわね?…教えなさい」


少女は駆け寄り、二人の前に立つとそう鋭く問う…しかし、ソレに対して少女はどうしたものかと悩みながら相方の美女へ目をやり、美女はその言葉を意にも帰さず食事を続ける。


「う〜む、このスペアリブ中々美味いのう!…酒が見る見る消えて行くわ!」

「ちょっと、聞いてるのかしら?」


その態度に苛立ったのだろう、少女はその釣り上がった目を更に険しくして、その美女を睨む…しかし、ソレに対して、その美女は月の様に冷たい視線を少女に向けて、口端を怪しく緩めて笑う。


「――〝情報〟が欲しければ何をするべきか等、貴様も冒険者の端くれならば知っておろう?…〝冒険者とその技量を求める者〟の関係と言えばその縁は唯一つ…〝金〟だけじゃ、違うかの?」


そして、その至極当然の要求に少女は少し沈黙し…考えを改めて美女へと問う。


「……幾らかしら?」

「ふぅむ、そうさな……此処のメニュー分の代金を支払ってもらおうかのう?」


するとその態度がお気に召したらしい、美女は愉快そうに仰々しく考える仕草をすると、その視線をテーブルに積まれた皿の山に向けて言い、少女へと告げる。


「……良いわ、払って上げる」

「〝取引成立〟じゃな?…ほれアイリス、妾が秘策を使う手間も省けた事じゃし、折角じゃからもっと頼むとするかぇ!」

「……まだ、情報は聞いてないわよ?」


強かにそう言う美女の言葉に、少女はそう返し…その顔に苛立ちを滲ませる…すると、その言葉に美女は〝あぁ…〟と言う風に少女を流し見ると新たに運ばれた果実酒を少女に差し出し言う。


「彼奴は今、このギルドの長に報告中じゃ…それまではここには来れん…と言うわけじゃ、待ち惚けならば折角じゃ、奴が返ってくるまで共に飲もうぞ!……む?」


しかし、その言葉を紡ぎ終える美女が目にしたのは…机に置かれた硬貨の山と、受付へ歩みを進める少女の背中だけだった……。



○●○●○●


「……それで何故、〝一触即発〟に成り掛ける」


俺は事の仔細を拗ねたように説明するルイーナから聞きながら、苛む頭痛に顔を歪める…するとルイーナは俺の背後に佇む少女へ目を向けながら俺言葉を返す。


「フンッ、あの小娘めが妾の言葉を無視した挙げ句受付の小娘を困らせておったからのう…じゃから諭しておったのだが…どうもこの小娘は魔術師に呪いでも掛けられたのか、血に野豚の血でも混じっとるのか話を聞かん…故に等々妾の長過ぎる堪忍袋の尾が切れてしまっての?」

「……お前が我慢強いと言う点には賛同しかねるが「何をぅ!?」――今回の件に関してはお前の落ち度だ…〝セレナーデ・リビア・クロムウェル〟」


その話を聞き終えると俺は騒ぐルイーナを無視して、眼の前の〝問題の元凶〟…の前に立ち、その名を呼ぶ。


「フンッ、〝ロクデナシ〟と言われてる貴方が裁定を下す何てお笑い草ね〝レイド・バルクレム〟」


ソレに対して少女は、俺を睨みつけ、小馬鹿にしたような傲慢な態度で俺へ言い返す。


「肩書は関係無い…〝無法にも法は有る〟…お前は冒険者ギルドの規則を破り、ソレを叱責された…それだけの話だ」

「……追放者の分際で随分と偉そうですわね?」


俺は不愉快気に顔を歪ませる小娘の言葉を軽く流し、言葉を返す。


「事実を述べただけだ、其処に善悪の定義は無関係だろう…今回の件、処遇はヴォーレルギルドマスターに任せる…ルイーナ、お前は暫くの間酒も菓子も無しだ「そんな殺生な!?」…アイリス…見張っておけと言ったろう」

「うっ……御免、なさい…」


そして俺は背後の問題児達を連れてその場を去る…すると背後から焦った様な声で小娘が俺へ言う。


「なッ、待ちなさいレイドッまだ話は終わってな――」

「もう用件は済ました、今日は帰らせてもらう…話はまた今度にしろ」


ソレにそう返し、俺達はヴォーレルに後を任せ、冒険者ギルドを後にした…。


「ッ………!」


何かを言おうとして、しかし言葉が出てこずに居たその小娘を残して…。

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