もしかして、魔剣は欠陥品なのか?
俺は手を止め、あたりを見渡す。大木の後方の茂みがざわめいている。
視線をそちらにやると、背の低い緑色の何かが6〜7匹飛び出し、こちらへ向かって走り出してきた。
こいつらは俺もよく知っている。
RPGやMMOの序盤によく出てくるあいつだ。
「ゴブリンか!!」
俺たちが落としたノイジーピジョンを横取りに出てきたのだろう。
俺はノイジーピジョンの群れを躱しながら接近してくる小鬼共へと駆け出す。
「九条!そっちは任せたわ!!フェリシア九条のサポートをお願い!! 私は1匹でも多くノイジーピジョンの動きを止めるわ!!」
「了解!」
俺の身体スレスレに抜けていった矢は、ゴブリンの群れに向かって吸い込まれていく。
「拡散!!!」
フェリシアの声に反応するように、放たれた矢はうっすらと光を帯び、3本に分裂する。
分裂した矢は風を切り、棍棒、杖、剣を持ったゴブリンの頭をそれぞれ貫いた。
なるほど、これがスキルか。
悔しいが相当実用的だな。3体の敵を一気に射抜くとは。
俺も負けてはいられない。
「はぁっ!!!」
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
残る4匹のうち、毒々しいガラス瓶を持ったゴブリンの懐に潜り、剣を振り上げる。
「ヒギィ!!」
ゴブリンの身体は斜めに両断され、ずれ落ちる。
……骨を断つ感覚、血飛沫。実に、実に不愉快だ。ある程度覚悟をしていたが、やはり人型の生物を斬るとなると吐き気を催す。
「次だ!!」
こちらが恐ろしくなったのかジリジリと後退りを始める小鬼達。力の差がわからぬほど愚かではないようだ。
──いや、訂正しよう。どうやらゴブリンにも知能に個体差があるようだ。
奇声を上げ、棍棒を振り回しながらこちらへ駆けてくる小鬼が一匹。
俺は体を捻り、下から掬い上げるように剣を振い、ヤツが握った棍棒を払う。
「ヒィ!!」
終わりだ。
そのまま振り上げた剣を握り直し、無様な叫びを漏らしたゴブリンの脳天に向かって振り下ろす。
これで二匹目だ。
その様子を後退しながら見ていた残りの二匹は武器を投げ捨て、身を翻した後全力で駆け出す。
「逃すものか!!」
そのうち一体の背を追い、間合いに入った所で俺は飛びかかる。
「グェッ」
頭から真二つに分かれたゴブリンの身体は、血を噴水のように噴き上げながら倒れ込む。
「全く、雑魚のくせに逃げ足だけは一丁前じゃない!」
俺が仕留め損なったゴブリンの背に矢が突き刺さる。
断末魔と共に前のめりに小鬼は倒れ込んだ。
4キルか、言うだけあって多少は出来るじゃないか。フェリシア。
「姉さん、こっちは片付いたわ。成果はどう?」
「大量だよー!!こんなにうまくいったの初めてじゃないかな!?」
満面の笑みを浮かべるエリシア。
その周りには地面を埋め尽くすほどのノイジーピジョンがピクピクと痙攣しながら散らばっている。
「嬉しいけど、処理がちょっと大変ね……。 九条とか言ったっけ!? あんたも手伝ってよ!!」
鶏の羽をむしり、前の世界で見たこともないほど大きな皮袋の中にそれを詰め込んでいく二人。
あんな雑用などやってられるか。
「俺はゴブリンの死体を漁る。貴重なアイテムがあるかもしれないだろ?」
「わかった。そっちは九条に任せるわ」
エリシアはまだ話がわかるな。
フェリシアは明らかに不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。
姉妹でこの差はなんなんだ。
姉だけまともに育てられて、妹は育児放棄でもされたのか?
とりあえずゴブリンの死体を漁る。
まだ少し暖かいのが気持ちが悪いが仕方がない。
全ての死体から得た物は槍が一本、剣が2本、棍棒が2本と毒々しい緑の液体が入った瓶が5本。
あとは錆びた鉄のピアスが2個と、銅のコインが18枚。
価値がわからない。エリシアに鑑定してもらうか。
「エリシアさん、こいつらの価値を知りたい。ちょっと見てみてくれ」
「いいよ。フェリシア、後はお願いね」
小さくため息をついてフェリシアは「はぁい」と気だるげに応える。
俺は戦利品をエリシアの前に広げる。
エリシアは徐に剣を手に取ると、指を二本添える。
「何をしているんだ?」
「武器の能力を見ているの。こうすればどんなスキルがあるか確認が出来るんだ。装備版の開示みたいな感じかな」
なるほどな、試しに俺もやってみるか。
切っ先の欠けた槍を手に取り、指を2本添えてみる。
すると、槍の情報が頭の中に流れ込んできた。
──すごいな、これは。
俺が使えるということはこの世界の仕様なのだろう。全く便利な世界だ。
さて、情報をまとめてみるか。
小鬼の槍
状態
破損
スキル
二段突き
2回連続で対象に突きを入れる。
説明
ゴブリンが使う一般的な槍。
との事。
装備品にもスキルがあるのは嬉しい誤算だ。俺がスキル、魔法が使えない事を装備品でカバーできる。
では、次は魔剣を見てみよう。
この武器はどれほどのスキルがあるのだろうか。楽しみだ。
同様に魔剣にも触れてみる。
魔剣 ヴィルスハイト(仮)
状態
未完成
スキル
白紙の目録
命を奪った生物の魂を魔石に封じる。
封じた魂の持つスキル、魔法を一定時間利用することができる。
スキルの発動条件は対象の生物の名前を呼び、利用したいスキル、魔法を発動する事。
また、命を奪った者の強さに応じて剣の切れ味が良くなる。
説明
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
——ルリ——
ん? 未完成? 魔王の魂は?
ごめんなさいって…………まさか…………
驚き。怒り。焦り。様々な感情が俺の身体中を巡り、脳はキャパシティの限界を迎えた。
脱力した右手からこぼれ落ちた魔剣はガシャンと大きな音を立てて地面へと吸い込まれた。
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