出会い②
「あんた魔法もスキルも知らないで旅とかしてたのぉ!? まさか本気で言ってる訳ないわよね!? 冗談にしたって全っ然面白くないわ!!」
「…………」
俺は今、人生で最大の屈辱に身を震わせている…… 。
この前更新したばかりなのにその上を余裕でこの女は超えてきた。
頭の悪そうな口調から繰り出される嘲笑混じりの罵倒。これほど殺意の沸く物が世の中に存在していていいのだろうか。
「やめて、フェリシア! 九条の故郷は少し特殊みたいなの!!」
事の始まりは一面緑一色のだだっ広い平原を3人で歩いていた時の事だった。
照りつける日差しに体力を奪われ、疲労困憊といった様子のエリシアが休憩する事を提案してきた。俺とフェリシアは同意し、木陰で休憩を取ることとした。
心地よく吹く風に、ざわめく木々。
草花が揺れる葉音はまるで音楽を奏でているかのように優しく鳴り、俺の心を癒す。
……自然に触れるのは久々だ。
なんてことを考えていた時だった。
急にこの姉妹がゲームの攻略サイトによく書いてあるような横文字満載の会話を始めたのだ。
人間にとって、全く付いていけない会話を延々と続けられること程苦痛なことはないだろう。耐えきれずに俺は「なんの話をしているんだ?」と、ただ一言尋ねた結果このザマだ。
「いやいや!! ゼフィールに生きててどっちも知らないのは流石に世間知らずにも程があるわよ!! 絶対、揶揄ってるでしょ!? ……姉さん、開示して!! そもそも得体の知れない人間を狩りに連れて行くのだっておかしな話じゃないの!! 」
キィキィとよく鳴く猿だな。こいつは人並みの知能を持ち合わせていないのか? いい加減我慢の限界が近い。胃がキリキリと痛んできた。
「……九条の剣、恐ろしいほどに精巧な作り。こんな業物今まで見たことないよ。 きっとこの剣を振るう九条も相当な剣士なんだと思う。 でも、ごめんね!」
エリシアの奴が俺に向かって手の平を向ける。
よくわからないが明らかに俺を狙って何かをしようとしているのはわかった。
こいつ…… 何の真似だ!俺は反射的に剣を構える。
「大丈夫、攻撃なんかしないから。 ……開示」
エリシアが呟くと同時に、俺の身体は一瞬だけ白黄色の光を放ち、瞬いて消える。
確かに全身どこにも違和感は感じない。 一拍置いて、二人から『えぇ!?』と、驚愕の声が上がった。
「俺に何をした?」
「今ね、九条のステータスを開示させてもらったんだ……。疑ってごめん」
「ごめんなさい、本当に冗談だと思ったの。 悪気はなかったのよ……」
なんだこの反応は…… 。
なぜそんな哀れみのこもった目で俺を見るんだ?
ステータスを開示、という言葉の意味はなんとなく察しが付く。
ようするに俺の強さがこいつらに視覚化されているという事なのだろう。
だが、そうであればあまりに不自然だ。元の世界の能力をそのまま引き継いでいるのであれば一端の勇者程度の能力がある事は約束されているはず…… 。
こんな反応を取られる事などまず無いだろう。
……もしかしたら余りの強さに恐れを抱いているのかもしれない。一応確認してみよう。
「どうした?何をそんなに驚いている?」
俺が口を開くや否や、二人は気まずそうな顔で目配せを始める。
同じグループで戦いに出るのが申し訳なるくらいの強さだと言うことか?
しばらくの静寂の後、エリシアが意を決したと言わんばかりに大きく息を吐いた。
「この世界で生きる生物は誰もが魔力という物を持っているの。 それを一点に集中させ、呪文の名を口にして放出する事で魔法は発動する。もちろん得意不得意があるし、誰にだって使えるものじゃない。 ……ただ」
エリシアは言い終えると俯き、口籠る。 どうでもいいが、小声で「姉さん、ファイト……!」と呟きながら両手でガッツポーズを取るフェリシアの姿が非常に苛だたしい。
「ただ、九条にはそもそもの魔力というステータスが無いみたいなの…… こんな人、初めて見た」
……なるほど。 元の世界の能力をそのまま引き継いできているのだから、確かに魔力なんて物が存在するわけが無いのは頷ける。
それを補っても余りある身体能力があるのだからそこは妥協するとしよう。少しばかり難易度が上がった所でなんの問題もない。
「前にも言ったが、俺の故郷は少し特殊な場所なんでな。 君達と何かしら違う所があるのは仕方がない。 腕にはそれなりに自信があるんだが、そっちはどうなってる?」
二人は再び顔を見合わせる。 そのまま小さく息を吐いた後、今度はフェリシアの方が俺に向かって喋り出した。
「確かに、あたし達よりもランクは上よ。戦士としては及第点。 王都の衛兵と同じくらいの強さはあると思うわ。 ……でも、誰もが生まれつき持ってる固有の技、スキルをあんたは持っていない。 ホントにこの世界の人間? ……ていうか人間なのかしら?」
スキルとやらにしてもこの世界で産まれてはいないのだから無くても仕方がないだろう。そこに関しても納得できる。
……だが、王都の衛兵程度の強さだと?何を言っているんだ、俺は元の世界では総合格闘技の大会で何度も優勝している程度の強さはある。それこそ、勇者に近しい強さがあってもおかしくないはずだ。
……いや、もしかしたら。
万が一にも、百万が一にもそんな事はあり得ないはずだ……!! だが、確認せずには居られない……!!
「もしかして、俺は弱いのか………?」
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