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出会い

 身体を包む心地の良い暖かさを感じ、目を覚ます。目に映る景色は薄気味の悪い森ではなく、小汚い木の壁に囲まれた小さな部屋だった。

 身体にかかった布団を払い、固いベッドから起き上がった俺は不思議なことに気が付いた。


「……痛みがない」


 おもむろに背、腕、脚の順に傷を負った箇所に触れてみる。背は見えないが、腕や足には傷跡も残っておらず、違和感もない。先程の戦闘はまるで夢であったかのように感じられる。

 だが、ボロボロになっていた学生服は木の椅子の上に畳まれ、繕った後がある。

間違いなく現実だったのだろう。



 思い出すと不快だ。多勢に無勢とはいえ、人生初の敗北を味わってしまった。この世界を少しばかり舐めすぎていたようだ。

 ……知識が必要だ。犬から不意打ちを食らった時に感じた痺れ、そして、気を失う前に見た光の矢。ロリ女神は剣と魔法の世界などと言っていたが、やはり元の世界にはなかった物がこの世界には多数存在している。


「よかった。 目が覚めたのね」


木製のドアが開く音と同時に聞こえた若い女の声に俺は振り向く。 視界に飛び込んできたのは薄緑色のローブを羽織った細く、俺と同じ歳くらいの小さな女。


 腰程まで伸ばしているブロンドの髪、大きな翡翠色の瞳。整ったボディライン。小さな身体に見合わない大きな胸。

 前の世界でもそうそう出会う事ができない、まあまあの美少女だ。

 この家の住人だろうか……? こちらに向かって笑いかけてくると、彼女は続けて話し出した。


「この辺の人…… じゃないよね? 黒い髪の人なんて初めて見るし、見たこともない服装。 なによりもこの辺の人間なら夜に獣牙の森に入り込むなんてことしないだろうし……」


 異世界から来た、なんて言った所で笑われてしまうのが目に見えている。適当に話を合わせて、こいつからこの世界の事を聞き出すとするか。


「遠くから来た旅の者だ。つい昨日この辺りに到着したんだが、 道に迷ってしまってな。 ……迷惑をかけてしまったようだ、すまない」


 すまない、なんて言葉は何年ぶりに使っただろうか。 慣れない言葉に虫唾が走る。

 懐柔し、情報を引き出すためなのだから我慢するしかないか。


「気にしないで、困った時はお互い様よ! でも、アテルの街に来るなんて珍しいね。 何か目的があって来たの? 」


「目的、なんて物はないな。閉鎖的で何も無い故郷が嫌になって飛び出して来たって所だ。 迷惑ついでに色々と教えてくれたら助かる。 何分、故郷を出てから人と出会うのが初めてなものでな」


 魔王退治に行くような奴がこの世界について尋ねるのはさすがに滑稽だろう。

この回答が恐らく一番無難だ。


「そっか、ずっと1人で旅をしてきたのよね…… うん、わかった! 私でよければ力になるわ! 行く宛がないのならしばらくここに居てくれても構わないしね」


 裏を感じさせない満面の笑顔。


 俺が一番苦手なタイプだ。出会ったばかりの人間をなんでこうも簡単に受け入れられるんだ…… まあ、ボロ屋でも野宿よりはマシだ。こいつごとしばらく利用させてもらおう。……一応、名前ぐらいは名乗っておくか。


「九条 一星だ、しばらく世話になる」


「九条……? 名前も珍しいんだね……。 私はエリシア。 よろしくね、九条!!」


 エリシアと名乗ったこいつの真っ直ぐ見つめてくる瞳が、一切の下心を感じさせない笑みが、こいつの全てが違和感だ。不協和音だ。

 見知らぬ俺に取り入るメリットがこいつにあるか? ご機嫌伺いで顔見せにくる父の部下共や、パイプ作りに必死な政治家共くらい見え透いた下心があった方がまだ付き合いやすい。


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。 エリシアさん」


 さて、まずは情報収集だ。

俺が食らった痺れや、光の矢について早めに知らねば今後同じような事が何度も起こるだろう。


 忌々しいほどの屈辱だ。

もう二度あんな思いはしたくない。


 そんな事を考えていたら、ドスドスと落ち着きのない足音と共にドアの隙間からどことなくエリシア似た顔つきの男が現れた。


「ねぇええええさああぁぁん!!! ……って目ぇ覚めてるじゃん!! よかったよかった!!」


 叫び声を上げながらズケズケと部屋の中へ入ってくるこいつは燃えるような真紅のボサボサミディアムショート。

 エリシアと同じ色の瞳はつり上がり、狼のような鋭い目をしている。線の細さや、シルエット。全体で見れば中性的な見た目をしているが、どちらかと言えば男だろう。

 女性には似つかわしく無い革の胸当てを身に纏っているし、胸もない。

だが、こいつが発した声はやたらと甲高い。


「うん、さっき気がついたみたい! ……って、ごめんね! 妹が騒がしくしてしまって」


「い、妹だと……!?」


 女だという事もそうだが、エリシアよりも歳が下であるという事に一番驚いた。 身長は頭1つ分ほどこいつの方が高いぞ……。

 どう見てもこいつが姉でエリシアが妹だろ。もし魔法が使えるのならば今すぐにでも中身を入れ替える事を推奨したい。


 俺の上げた声が不快だと言わんばかりに女は目をさらに釣り上げてにじり寄ってくると口を開く。


「なによ!! 目覚めて早々失礼な反応してくれるじゃない!?」


「あ、あぁ、失礼した」


 煩わしい金切り声が耳の中で反響する。頭ごなしに叫ぶんじゃない……。

 初対面で、しかも病み上がりの人間に対してなんだこいつは。品もなければ知性にも欠ける。これで女だと?笑わせるな。


「あははは…… ところでフェリシア、慌ててどうしたの?」


 苦笑いを浮かべるエリシアがフェリシアとか呼ばれた男女に声をかける。ハッと我に返った様子のフェリシアは再び大袈裟に声を張り上げる。

 一々リアクションが大きいヤツだな…… こいつも別のベクトルで苦手だ……


「あっ!! そうだった! ノイジーピジョンの群れが渡って来たのよ!! 稼ぎ時!! 稼ぎ時よ、姉さんっ!!!」


「本当に!? 急いで準備しなきゃ!! 」


 ノイジーピジョン……? 凶悪そうな名前だな、魔物か何かか? ……いや、それにしてはこいつらの喜び様は異常だ。

 フェリシアはともかく、少しはまともそうなエリシアでさえ、今にも踊り出してしまいそうな勢いだ。一体何者なんだ……。


「ごめんね!九条!! 少し出かけてくる!! この部屋は好きに使ってくれて構わないか──」


「──待て、俺もいく」


 もし戦闘になるのであれば、転生前の世界に無かった物を学ぶいい機会だ。……決して好奇心に負けたわけではない。


 俺は急いで立ち上がると修繕済みのブレザーを纏い、壁に立てかけてあった魔剣の柄を握った。

【作者からのお願い】

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