初戦
目を覚ました俺の視界に飛び込んできた景色は、不気味な木々が生い茂る真っ暗な森だった。
ジメッと纏わりつくような気持ちの悪い空気と強烈な腐葉土の臭いが心底不快だが、まぁいいだろう。 溶岩に落ちて死ぬこともなく、凍土で凍え死ぬこともなかった。
心の底から安堵した俺は、とりあえずこの森を出ることにした。今後の生活のためにもどこか拠点となる街に移動したほうがいいだろう。
魔剣を握りしめ、ひたすら前へと進む。 改めて思うがこの剣の軽さには驚いた。金属製の剣を振るうのは初めてだが、片手で扱うにしても苦にならないだろう。
剣で道を塞ぐ草木を払いながらしばらく歩き続けると、突然小さな灯りが見えてきた。
人間がいるのか。 俺は運がいい。
人里に着いたらまずは服をどうにかしよう。
いい加減学生服だと動きづらいしな。
速度を上げ、一直線に灯りへと向かう。だが、勢い良く光原へと飛び込んだ俺を待ち受けていたのは人などではなかった。
「グルルルゥ」
……大型犬の形をした炎。計三匹のそいつらが俺に向かって唸り声を上げている。
「ガウゥウ!!」
驚愕し、固まってしまった俺に向かって間髪入れずにその内の一匹が飛びかかってくる。
ハッと我に返った俺は、咄嗟に横へ飛んで躱す。
反射神経や身体能力は本当に死ぬ前と変わらないようだ。安心したぞ。
──それなら、やれる。
「うぉおおお!!」
俺は叫びと共に気合を入れ、先程襲ってきた一匹に向かって右手に握った剣を横薙ぎに振るう。
犬がこちらへと振り向く前に刃先がヤツの胴体へと食い込む。そのまま腕に力を込め、犬を斬り払う。
「キャゥンッ!!」
甲高い声と共に犬は燃え上がり、一瞬にして消え失せる。明らかに強そうな魔獣を一撃で仕留めるとはな。やはり俺はこの世界でも強者のままのようだ。
唸り声を上げつつ、後ずさりする残り二匹の犬。
俺はそいつらに向き直ると同時に地面を蹴り、距離を詰める。
「……見かけ倒しじゃないか」
剣を振り上げ、そのまま犬に向かって叩きつける。 風切り音と共に犬の脳天に命中し、二匹目も炎と化して消え失せる。
負ける気がしないな、やはり俺は強い。最後の一匹は完全に戦意を喪失したのか、身を翻して森の中へと消えていった。
「ふぅ……」
初めての戦闘。
想像していたよりも楽に終わったが、多少疲れてしまった。
その場に座り込み、休息を取る。 改めて剣の刀身を眺めてみる。月明かりに照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出す魔剣。
──実に美しい……
しばらく眺めていると、ある違和感に気づいた。
「霊魂犬……?」
刀身に刻まれた、見たこともないおかしな文字。初めて目の当たりにしたその文字の羅列は、なぜかそう書いてあるように思えた。
「グルルルゥウウウ」
先程聞いたばかりの犬の唸りが聞こえ出す。俺は急いで立ち上がり、辺りを見渡す。
……囲まれている。俺を取り囲む光は6つ、前方と後方に3つずつだ。まあいい、一撃で倒せるのは実証済みだ。多少の疲労感はあるが、一匹ずつ倒せば勝てないことはないだろう。
「ガウウゥ!!!!」
犬達は一斉に飛びかかって来た。俺は体制を低くし、そのまま飛んできた犬達の下を抜けて躱す。 そして、振り返ると同時に剣を振るい、未だ滞空している一匹の犬を斬り付ける。胴を両断し、犬は大きく燃えて消え失せる。まずは1匹。
犬の着地を狙い、踏み込んで横薙ぎに剣を振るう。魔剣は同時に着地した二体の身体を斬りはらう。これで3匹。
全然余裕じゃないか。 残りの3匹は先程のように怖気付いて後ずさりを始めている。その姿を見た俺は、自分の強さに思わず笑みが溢れてしまった。ゆったりと犬達との距離を縮め、剣を振りかぶる。
「グルァゥウ!!」
「!?」
背に鋭い痛みが走った。
振り返ったその先には、今まで相手にした奴等よりも一回り大きな犬の姿。 まさか、こいつらは囮だったのか……?
俺は反撃を繰り出そうとするが、なぜか身体が痺れて動かない。 クソッ…… ふざけやがって。
「グルルルゥウ!! ワゥ!!!」
三匹の犬達が一変して飛びかかって来た。俺の身体は押し倒され、鈍い痛みと共に地面に叩きつけられる。
「ひぃ!!」
思わず情けない叫びが漏れてしまった。それでも負けずに再度右腕に力を入れると、剣を振り上げる事が出来た。どうやら痺れは一時的な物だったようだ。
「ガウッッ!!!」
「うわぁあああああ!!!!」
痛い、痛い痛い痛い!! 大きな犬が俺の右腕にかぶり付いている!! 全身がバクバクと脈打っているのがわかる。
あまりの激痛に俺は剣を手放してしまった。そんな俺を弄ぶように、残りの犬共が身体中至る所に噛み付いて来た。雑魚どもが、調子に乗りやがって……!! 血を流しすぎたのかだんだんと体温が下がってくるのがわかる。身体の感覚が無くなっていき、俺はひどい眠気に襲われた。
「聖者の細槍」
若い女の声と共に、茂みの中から光の矢が放たれる。 眩い光を放ちながら、弾丸のような速さで近づいて来たそれは、俺の右手に食らいついた大きな犬へと吸い込まれる。
「キャウン!!!!」
おそらくリーダー格であったであろうそいつの身体を光の矢が貫き、炎へと変わる様を見ると同時に、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録、感想、レビュー等いただけますと非常に有り難いです。
また、↓に☆があります。
こちらが本作の評価になり、私自身のモチベーションアップにも繋がりますのでご協力いただけますと幸いです。