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我が友

第一章ラストです!

 小春日和、とでもいうのだろうか。

晴れ渡る大空を穏やかに流れる雲と、小鳥達の囀り。そよぐ草原。 旅立ちの日には絶好の日和だと言えるだろう。


「九条、荷物はそれで全部かな? 意外と少ないね」


「あぁ。 荷物は多すぎると碌な事がないからな。 ……フェリシアのヤツはまだ準備に手間取ってるのか?」


「うん。 昨日の夜からドタバタだったけどもう少しかかるみたい」


 呆れたようにため息を吐き、首をふるふると横に振るエリシア。

全く、時間を守らない奴が一番嫌いだ。

1時間後に門の前に集合と言ったのはお前だろう。


「お待たせ!! いやぁ、荷物片付けてたら部屋の汚れが気になってさぁ……」


「ソフィア達に任せておけばよかったものを。 全く、お前のせいで俺の貴重な時間が2分も無駄にされたじゃないか」


「なによ!! 2分くらいでちっちゃい男ね!! それに、汚い状態で子供達に家を渡すのはなんだか恥ずかしいじゃないの!!」


「俺は数日前には部屋の隅々まで清掃を済ませている。 それくらいの気は昨日のうちに回しておくべきだったな」


 必要最低限の荷物で、と言っていた割に登山用のリュックの1.5倍ほどの皮袋を背負っているフェリシア。

彼女は未だ俺に突っかかってこようと犬のような唸り声を上げている。 最近、こいつをあしらう事に多少の快感を覚えて来た。


 罵倒を重ねてやろうと思っていたが、遠くから俺を呼ぶ子供達の声が聞こえたので、一旦はこの辺でやめておく事にする。


「お兄ちゃーん!!!」


 ソフィアを先頭にこちらに駆けてくる子供達。

勢いよく飛び込んでくる半ベソのソフィアを俺は抱き止める。 


 この子達とも今日でお別れだ。少し感慨深いものがある。

まあ、それほど心配もしていない。この子達なら大丈夫だ。きっとうまく生きていける。


「どうしたソフィア。 お前が責任者なんだぞ? そんなに簡単に人前で涙を見せるものじゃない」


「だって……だって……!!!」


 一層泣きじゃくり、俺の胸へと顔を擦り付けるソフィア。 彼女に釣られたのか、周りの子供達も俺達の身体中に隙間なく抱きついて来た。


 背後でぐすんと鼻を鳴らすエリシアの声と、恥も外聞もなく、大泣きを始めるフェリシアの声。


どいつもこいつも涙脆いったらありゃしないな。


「一生の別れって訳でもない。 少し出かけてくるだけだ。 ……だから泣くな」


 俺は子供達一人一人との思い出を振り返りながらみんなの頭を撫でる。

今思えば、それなりに楽しい日々を送らせてもらった。 素性も知らぬ俺の言う事に従い、勤勉に働いてくれた大切な社員達だ。


 この子達には平和に暮らしてほしい。

だからこそ俺は魔王を討たねばならない。

──友にあのような辱めを受けさせた借りは必ず返させて貰う。


 子供達も少しは落ち着いてくれたようだ。

皆、涙を拭い鼻を噛むといつもの無邪気な笑顔を作ろうと精一杯に努力してくれている。



「家と売上の管理は任せたぞ? 月一回、定期連絡は怠るなよ? エリシアを通して念話するから、何か変わった事があれば必ず報告をする事。 あと、気力回復薬エナジードリンクの材料だが、二日後に酒を一樽持って獣牙の森に行くといい。 リガルグという獣人が鹿の角を用意してくれる手筈になっている。 ……ソフィア、できるな?」


「うん!! 私達、絶対お兄ちゃんを超える商人になってみせるから!!」


 俺は商人じゃない。

と言いたいところだが、無粋だな。


「あぁ、楽しみにしている。 ──達者でな」


「みんな、お留守番よろしくね! 絶対帰ってくるからね!!」


「食事に気をつけなさいよ!! 肉ばっかり食べてると身体に悪いから!!」


 俺達は旅立ちの第一歩を踏み出し、子供達とこの街に別れを告げる。 子供達の中には未だ顔を上げずに嗚咽を上げる者、こちらに向かって手を振る者、涙を見せまいと必死に堪えている者、皆それぞれ俺達との別れを惜しんでくれている。


 ──悪くないものだな。別れを惜しんでくれる人がいるというのは。


 俺は右腕に輝く銀の籠手を見つめ、必ず帰ってくることを心に決めた。



◆◇◆◇



 あれから大木とは真逆、頂が空に届かない程度の小高い山を目指して1時間ほど歩いた。


 エリシアは優秀な魔法使いだが、体力は全くと言っていいほど無い。

初めて狩場へと向かった時のように、木陰での休憩を提案してきた。


 体力バカのフェリシアも二つ返事でそれを了承した辺り、背負った荷物の重さは相当なものなのだろう。

俺達は木にもたれかかり、腰を下ろす。

陽気がいい割に吹き抜ける風は少し肌寒い。


「なんか、初めて3人で狩りに行った時のこと思い出すね」


「まだそんなに時間が経ってないはずなのに、すごく懐かしく感じるわ。 ……まぁ、あれから色々あったし無理もないか。 まさか獣牙族が──」


言いかけた言葉を飲み込み、フェリシアは気まずそうな顔をして俯く。


「──あんた、ガンドルグと友達だったのよね。 その、ごめん。 嫌なこと思い出させたわね」


「気にするな。 いつまでも引きずっていてはあいつに笑われてしまう。 ──それに今もあいつはここで生きている」


 俺は魔剣の刀身を見つめる。

そこに刻みこまれた新たな文字の羅列が木漏れ日に照らされて薄っすらと光っている。

まるで、ガンドルグのヤツが俺に発破をかけるかのように。


 ……あぁ、わかってる。

他ならぬお前が着いてきてくれたんだ。

俺なりに戦士として精一杯踠いてみせるさ。

だから、これからも側で見守っていてくれ。


──我が友(ガンドルグ)よ。


 この場所に似つかわしく無い温かな風が魔剣の刀身を駆け抜けていく。


 力強く鳴り響いた風切り音はまるで、ガンドルグがいつもの調子で笑っているかのように思えた。

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