戦士と戦士
よし、これで第一関門はクリア。
後は…… お前を倒すだけだ……!!
振り下ろそうとした剣を即座に握り変えるガンドルグ。 ……切り替えが速い。さすがだな。
俺はヤツの胸を足場にして、両足で跳び、空中で身を翻して距離を取る。
「獣牙の戦士達よ。 すまなかった。野暮な事に付き合わせちまったな……」
皮のベルトで繋がれた鎧を外し、ガンドルグは砕けた亡骸に対して一礼する。
刀傷や魔獣の爪跡。
ガンドルグが戦士として歩んで来た歴史が刻まれ、鍛え上げられた鋼の肉体がむき出しになる。
「リガルグ!!」
群衆の中から駆け出したのは森で俺たちを襲った黒毛の獣人だ。 ガンドルグの前に跪くリガルグに彼は壊れた鎧を差し出した。
「……この戦いが終わったら、破片をかき集めてこいつも一緒に弔ってくれ」
「承った」
リガルグは受け取るや否や立ち上がり、身を翻して再び群衆へと戻っていった。
「待たせたなにぃちゃん。 俺も散々色んな戦士とヤりあってきたが、あの鎧を砕く奴ぁ初めてだ。 ……本気を出しても良さそうだな」
「全く、あれで本気じゃないのかお前は。 ならばこちらも更に気を引き締めなければな!」
「いい面構えになったな、友よ。 ……じゃあ、いくぜぇ!! 天狼断牙!!」
今までよりも数段上の速さで飛び込んでくるガンドルグ。 右手を振り上げ、空気を裂きながら斜めに放たれる袈裟斬り。
判断が遅れた。 躱すには遅すぎる。
俺は魔剣を斜めに構え、斬撃を受ける。
金槌で鉄を打つような重く鋭い金切り音。
……やはり重い。 重すぎる。
魔剣に力を込め、大剣の軌道を逸らすことに全力を注ぐ。ガンドルグの大剣は火花を散らしながら、魔剣に沿って俺の真横を素通りする。
その後、すかさず打ち込まれる左手からの斬撃。右腕に左手を添え、振り下ろされた大剣を籠手で受ける。
子供達のお陰で命拾いした。
魔剣で受ける斬撃よりも数段軽い。
だが、先程の攻撃のせいか四肢がビリビリと痺れている。今の俺には重すぎる一撃。
……やはり直撃を捌くのは無理だ。受け止め切れない。
添えた左手に力を込め、右肩を下げる。
斬撃は耳障りな引っ掻き音を上げながら俺の身体スレスレを駆け抜けていく。
ガンドルグは大剣を握り変える。
嫌な予感がする。恐らく、攻撃はまだ続くはずだ。
俺は咄嗟に魔剣を両手に握り、叫ぶ。
「突き!!!!」
間に合った。 俺の身体はガンドルグの斜め後ろに抜ける。 背後から聞こえた激しい風切り音に大気が震える。
反撃しなくて正解だった。 最後の剣戟の速さなら、恐らく俺が奴の胸を貫くよりもコンマ数秒ガンドルグの方が速かっただろう。
息が切れる。未だ両手両足が軽く震えている。
「ガハハ!! やっぱり俺が見込んだだけあるぜ!! この剣技から逃れられたのはにいちゃんで2人目だ!!!」
肩に大剣を担ぎ、俺の方へ向き直るガンドルグ。
「光栄だよガンドルグ。 まあ、こちらはもうボロボロだがな」
腰に付けた皮のポーチから、体力回復薬と気力回復薬の混合液を取り出して呷る。
口の中に変な苦味と渋みが広がり、舌をビリビリと痛めつける。
だが、疲労と四肢を襲った痺れは引いたようだ。
……まだ、何とか戦えそうだ。
だが、継戦出来たところでどうしようもない。
一瞬でもいい。あいつの動きを止めなければ反撃が出来ない。
「準備はいいかい!? にいちゃん!!!」
言い終わる前に飛び出したガンドルグ。
こちらが魔剣を構えると同時に振るわれる大剣。
鎧を外し、身軽になったヤツが振るう大剣は先ほどよりも格段に速い。
多少の余裕を持ちながら躱していた乱撃も今では紙一重で避けるのが精一杯だ。
頬、四肢、肩。
全身に次々と作られていく擦り傷。
このままでは、直撃するのも時間の問題だな──
──何かないのか。 この窮地を救う、反撃の一手が。あいつの動きを一瞬でも止められるようなスキルが。
ガンドルグの攻撃を回避する事に集中しながら記憶を巡らせる。 俺が今まで倒してきた魔物達。 その全てを頭の中で思い浮かべる。
「どうしたにいちゃん! さっさと俺を倒さねぇと、この牙がおめぇを噛み殺しちまうぜぇ!!」
……噛み殺す?
もし、あの時感じた痺れがスキルによる物だとしたら──
──見つけた。
思い浮かんだのはこの世界に置いて最古の記憶。
だが、これを使うにはリスクが伴う。
思った通りの能力でなければ、間違いなく俺は死ぬ。
それでも、やるしかない。
ガンドルグの誇りを……。 子供達の笑顔を……。
奪わせはしない!!
何度か後ろに飛び、距離を取る。
14、5メートルほどは距離を取れただろうか。
肘を直角に曲げ、両手で握った剣を頭の横で構える。
「覚悟を決めた、って顔だな。 名残惜しいが、終いにしようか。 にいちゃん」
「あぁ、ガンドルグ。 お前には本当に世話になった。 叶う事なら俺達の旅に同行して欲しかったが…… 叶わないのだろ?」
「ガハハハ!! そうだな!! そいつぁ無理な相談だ!! 俺はこいつらを守らなきゃいけねぇ。族長として、戦士として最後の務めってヤツだ」
ガンドルグは辺りを見渡し、悲しげな笑顔を浮かべる。 獣人達は皆、拳を強く握り締め、固唾を飲んでこちらを見守る。
こいつらも気づいているんだろうな。
ガンドルグの覚悟に。
獣牙の長は大剣を構える。
やはり、先程の剣技で迎え打つ気だろうな。
想定通りだ。
「行くぞ!! ガンドルグ!! ── 突き!!!」
「生き残ってみろよ!! にいちゃん!!! 手加減はしねえ!! 天狼断牙!!」
ガンドルグとかち合う直前、俺はスキルの発動を中断し、叫ぶ。
「霊魂犬!!!」
俺が刀身に霊魂犬の文字が浮かび上がるのを確認したその刹那、ガンドルグが振り上げた右手から放たれる袈裟斬り。
今回は覚悟していた。
頭スレスレ、紙一重で躱す。
髪の毛先が切断され、ハラリと宙を舞う。
続いて打ち込まれる左手からの斬撃。 両手で握っていた剣を左手に持ち替え、振り下ろされた大剣を籠手で受ける。
すまない、ソフィア。 子供達。
少しの時間でいい、俺にチャンスをくれ!!
振り下ろされた剣とかち合う手甲。
片手を添えていない為、先程よりも攻撃が格段に重い。 骨の髄まで震わせるような強い衝撃。
右手の感覚が奪われていく。
想像した通りの効果が得られなければ、俺の命は後数秒だろう。
必死に魔剣を握った左手を伸ばすが、ガンドルグの毛皮の鎧を突き破るには至らない。
頼む……!! 後少しでいいんだ!! 届いてくれ!!
俺は上半身を捻り、刃を押し込む。斬撃の重さに体制を崩しそうになる。それでも必死に斬撃を受け続ける。
「!?」
届いた……!!!
ガンドルグの腕を伝い、大地を染める真っ赤な血。
なんとか魔剣を突き立てる事はできた。
早くスキルを発動しなければ、やられる。
最後の攻撃はどう足掻いても躱しきれない。
これは、賭けだ……!!
「麻痺の毒牙……!!」
「……!!」
ガンドルグの身体に電撃のような物が走り、毛が逆立つ。
俺を切り払おうとした左腕。
強烈な力で捩じ込まれた一撃から力が引いていくのがわかる。
そのまま力を失った斬撃を右手で払う。 剣はガンドルグの左手を離れ宙を舞う。
重力に従い、地面に深く突き刺さる大剣。
魔剣を両手で握り、直角に引く。
……ガンドルグと過ごした日々が頭を過ぎる。
これまでの人生では決して味わったことのない、友と過ごしたかけがえのない時間。
頬を伝って何か熱いものが滴り落ちる。
止めどなく溢れ出るそれは止まる気配を知らず、まるで飛泉のように流れては落ちる。
躊躇うな。 時間は戻らないのだ。
戦士としてこの場に立ったガンドルグを……友を愚弄することなどあってはならない。
わかっている、頭ではわかっているのだ。
「友……よ。 頼む……。 終わら……せてくれ」
呂律のうまく回らぬ口でガンドルグは小さく呟く。 今まで見てきた中で最も穏やかな笑顔で。
「……突き」
俺の意思に反して身体が動く。
友の胸元に吸い込まれる魔剣。 久々に感じた、肉を貫き、骨を断つ不愉快な手応え。
重圧から解放されたかのように晴れやかな顔のガンドルグ。その口から流れ出る鮮血。
最後の力を振り絞り、彼が伸ばした手のひらが俺の頭に置かれる。
「…… 戦士に……なれた……じゃねぇか……」
「……どうだろう。 ……だが誇り高き獣牙の戦士、ガンドルグを相手に白星を上げてしまった。 これからはお前の名に恥じない戦いをしなければならないだろうさ」
「ガハハ…… そい……つぁ……いいや…… 見守……ってる……ぜ……友よ……」
俺の頭を滑り落ちる大きな手。
熱を失っていく友の身体。閉じられた瞼。
逞しい身体を支えていた心臓は役目を終え、静かにその動きを止める。
「うわあああああああああああああ!!!!」
俺が……ガンドルグを……友を……。
獣牙の者達が上げる嗚咽、遠吠え。
こちらへ駆け寄って来ているであろう姉妹がたてる足音。
俺の慟哭はその全てを掻き消し、辺り一帯に反響した。
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